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ARTEMA SAGA  作者: Rozeo
第1部 
6/53

第五話「確かな希望」

その日の晩、俺はカインの部屋を訪れた。

魔導書を役立てるには、知識ある者に相談してみるべきかと思ったからだ。

城は掃除好きのメリアのお陰で随分綺麗になってきている。

カインの部屋は狭かったが蜘蛛の巣などは一切存在せず、メリアに感謝と言ったところか。


ランタンの灯りの下で、魔導書を広げる。

骸骨姿のカインがゴクリと唾を呑むのが分かった。


「ここに記されているのは……マンティコアとの契約の方法じゃよ。何者かがマンティコアが死んでアンデッド化した時の為に、この本に書き記したのじゃ」


契約か。

西のドラゴン教徒らはドラゴンとの契約の方法を知っており、メリアはそれに成功している。

もしマンティコアとの契約に成功すれば確かな戦力アップが望める。


「して、その方法は?」


「先ずは契約するに値するかを見せつけねばならん。

それからここに記された呪文を唱え、最後にファントムソードを翳すのじゃ。これはレナ、お前さんのための章じゃ」


「本の第一章は契約に関する事か……そしてその続きは?」


「捨て身の禁術などについて記されておる……余りに危険じゃ」


「この本の事は誰にも言うなよ?」


「ウム……」


とんだ拾い物をしたものだ。


「儂は今、人材の確保に動いておる。噂では凄腕召喚士が近くにおるのじゃが……」


「詳しく調べてくれ。場所が分かったら俺が直接会いに行ってもいい」


話は深夜まで続いた。

魔導書に記された呪文から大陸からの攻撃への備えや建築物、それから穀物の生産まで内容は多岐に渡る。

聞いたところ、カインは文官として成すべき事をきちん把握している。

アルフも彼から学ぶ事は多いだろう。

俺はこういう細かい話は苦手だった。

目の前の敵を斬れるかどうかに焦点を当てている。


俺は一日の疲れを癒す為ベッドに横になった。

やはり昨夜の祭壇の上とは違い、眠りやすい。

そこでみた夢は「お兄ちゃん」と呼ぶ金髪三つ編みの少女が出てくるものだった。

この世界に来て二度目である。

流石に偶然とは思えない。

鎖で繋がれた彼女は目に大粒の涙を浮かべている。

汗だくのまま目を覚ました。

俺が、強くならなければ。

自然とそう思わされた。


朝方、俺はナオミに究極剣技の伝授を依頼した。

二つの属性の剣技を組み合わせて発動させる正に究極の剣技は、双剣使いのナオミの必殺技だ。

だがそれを俺はファントムソードで繰り出さないか思案している。


炎、風、氷、地、雷、光、闇の七種類に分類される属性は、魔術にも通ずるものがあるが、その全てを体得した者は少ない。

だが究極剣技の習得難易度はそれらを遥かに上回る。


「マンティコアに勝つためだ」


俺はファントムソードを握りしめ言った。

正確には契約を結ぶ為、もっと言えばパートナークリーチャーにする為だった。


「先ずは風と土を融合させた『桜竜の舞』から教えよう。一つ覚えればそこから派生して他の究極剣技も習得出来るはずだ」


ナオミの剣術の腕前は目を見張るものがある。

七年前、あのグレンを倒せたのも、彼女の功績が大きい。


「迅竜と桜花を左右の腕で同時に放つつもりで。大剣に両方の技をヒットさせて」


「ようし」


迅竜は風属性剣技、桜花は地属性剣技である。

本来なら双剣使いのみが両方の技を同時に使用する訳だが、俺はこの地と風の入り乱れる城の庭で、前代未聞の大技に挑戦している。

逆に言えばそれくらいしないとマンティコアには絶対に勝てない。


大剣。

二つの色のエネルギーを込め、振り回す。

だがそう簡単にはいかなかった。


三十分ほど経った頃、慌てた様子のカインが駆けつけてきた。


「メリアが、今朝のうちに姿を消した!」


「外に用があったんじゃないか?」


「ドラゴンと魔導書も一緒じゃ」


「何!?」


俺が昨晩カインと話していた内容を聞いていたのか。

しかし何故ーー。


「あの本には捨て身の禁術が記されていたか……。悪しき者の手に渡れば危険だ。私は探しに行くぞ」


と正義感の強いナオミが名乗り出る。


メリア借りるなら俺に一声かけろよ。

やっぱり根っから人を信じている娘じゃなさそうだ。

俺も行くべきか。

いやもう少しで究極剣技のコツが掴めそうなんだ。

それにーー。


俺は昨晩も夢に出てきた鎖で繋がれた金髪の少女を思い出した。

あの娘も助けなきゃいけない。


「カイン、凄腕召喚士について調査を続けろ。きっとその娘は金髪だ」


夢に出てくる少女と噂の召喚士が同一人物という確信はなかった。

だがあの三つ編みの少女は魔術師に見えなくもない。

そして彼女は俺に助けを求めていた。


「髪の色まで把握しているのなら自分で探せ。こちらはやる事が山積みじゃ」


仕方ねえなぁ……。

俺は魔力を注いだファントムソードを背中に担いだ。

修行は取り敢えず中断だ。


町の方へ行ってみるか。

それにしてもナオミのフットワークの軽いこと……。

もう運良く変身したジェイドに乗って南へ羽ばたいている。

俺も多少はその行動力を見習わなければならないだろう。


アイテムショップに行ったが、千里眼の薬は売り切れだった。

手に入れたとて、見つかるかどうかは疑問視するところだが。

やはり、酒場に行こう。

もうそこしかあてがない。

酒場の店主は上機嫌で出迎えてくれた。


「今まで世話になった御返しだ。金貨を一枚くれてやる。だから金髪三つ編みの少女について知っている事を教えろ」


「金髪三つ編みの少女……?聞いたこともない」


「凄腕召喚士についても?」


「うーむ、それならスラム街を散策してみては?地上ではその様な噂は耳にしてません」


スラム街か……行ってみる価値はありそうだ。

店主に行き方を教えてもらい、俺は店を出た。


地下への階段。

言われて見てみれば確かに存在した。

古びた家の中から続くそれは隠し階段と言っても過言ではなかった。

この先にスラム街が……。

俺は足を早めた。


着いた場所は汚い空間だった。

ここでは人身売買が行われているそうで、人が鎖で繋がれていても不思議ではないような雰囲気だった。

「お、おい!」と呼び止められるのを無視して、奥へと進む。

そしてテントの中。

遂に鎖で繋がれた少女を発見した。


「貴様何者だ?無許可でここに入って生きて帰れると思うなよ?」


先程呼び止めようとした、悪の組織の部下らしき者が言う。

リーダーは黒尽くめのフードを被っており、中々の威圧感だった。


「下がれ。お前では歯が立たん。ここはリーダーの俺が相手しよう」


そう言ったかと思うとたちまち煙が立ち込み、組織の

リーダーは体長五メートルのケルベロスに変身した。

頭が天井に届きそうな三頭犬は涎を垂らしながら睨んでくる。


「変身術か……思ったより手強そうだ」


とファントムソードに手を掛ける。

戦闘開始だ。

風と地をイメージする……てそう上手くはいかないか。

自嘲し本来の技「迅竜」を畳み掛ける。

下から上へ突き上げるようにして放たれる青白い光の竜は「グォォーン!」という雄叫び共にケルベロスの真ん中の首に直撃した。

パラパラと天井から砂埃が降る。


だが残りの二つの首が食い殺そうと挑んでくる。

後ろへ下がったはいいが、直ぐに追いつかれ腹に激痛が走った。

噛みつかれたのである。

上体が高々と持ち上げられる中、俺は形成を変えようと左手に意識を集中した。

氷属性魔法「フリーズ」ーー。

下級にランクされる技だが、閉じた口を開くには十分な威力だった。


自由になった俺は腹を押さえながらも空中で左の首目掛けて縦、横、斜めと斬撃を入れる。

いつからかファントムソードも片手で振り回せるようになっていた。

七年前では考えられない事だ。


(首を一つずつ確実に、仕留める)

残るは右の首一つだった。

先程とは打って変わって「クーン」と弱々しい態度のケルベロスである。


「今よ私を助け出して……」


ぐったりした様子の少女からは微かな魔力を感じる。

助太刀するつもりか。

駆けつけていた。

ファントムソードで鎖を断ち、少女の前に立ちはだかる。


「……ありがと。私貴方をずっと待ってた。中級雷魔法サンダーアローで倒してみせる」


ビリビリと少女の掌から電気が発生し、それは光の矢となって右の首の目に吸い込まれていった。

相手はもう戦闘は不可能だろう。

大剣による傷を負い、麻痺までしかけている。

だが少女は攻撃を続けた。

痺れを与える電気の矢は、確実に対象の身体を蝕んでゆき、やがて敵は身動き一つしなくなり生き絶えたかに見えた。


「私は召喚士……だからやるべき事があるの」


大人しい印象の少女だが、戦いでは冷徹な彼女は死体に手を翳した。

指輪に、赤い光になったケルベロスが吸い込まれていく。

僅か十五、六歳の少女が凄腕召喚士の正体か。


「君が俺をこの世界に呼んだのか?」


と言葉を投げかけた。

少女は頷く。


「私に関する貴方の記憶は無くなっている。実は七年前にあんな事やこんな事をした」


何言ってんだコイツ……。

七年前なら彼女は九歳という事になる。


「それって……」


「思い出せないならいい」


恐らく一緒に敵と戦ったかなんかだろう。

俺はそう思うようにしていた。

それにしても先程のサンダーアローは中々の威力だった。


「地上へ連れて行って。お腹空いてる」


「ああ……」


倒れ込む少女を支え、抱える。

敵の部下は既に逃げ出したようで、嵐の後のスラム街は静まりかえっていた。

こんな所がマゼラにあったとは……後でエルフ兵を送り込んでもいい。


「名前は?」


「キャンディス・ミカエラ。やっぱり何も覚えてないんだね」


少し寂しそうな目のキャンディスだったが、彼女があの紫色の想像世界へのゲートを作り出したかと思うと、とんでもない存在だった。

魔力はあのエルメス以上か……。

だとしたら規格外の化物だ。

正午の地上へ戻り、早速城へと召喚士を抱え入れる。


アルフとカインは力無い彼女を見ると大慌てで食事を用意してくれた。

夢中でパンを頬張るキャンディス。

「よく食べますね」とアルフが漏らしたほどの勢いだ。


「あー美味しかった。それにしてもお兄ちゃん強くなったね」


「俺はお前の兄なのか?」


「うーん義兄妹って感じかな」


益々分からん……。

だがキャンディスに「お兄ちゃん」と呼ばれるのは悪い気はしなかった。

寧ろなんだか嬉しい。

そして彼女が俺を選んでゲートから呼び寄せた理由が明らかになった。


「完全召喚!?」


アルフとカインが口を合わせる。


「ええ……。七つの召喚獣が集いし時、邪悪は滅びるとされていますアルフ国王。だからレナが必要なんです」


「だけどレナはもうドラゴンの契約者じゃないんじゃあ……」


「その為のマンティコアじゃ。それにあのメリアを再び見つけ出せば二つの召喚獣が揃った事になる」


「いえ三つです」


キャンディスが口を挟んだ。


「私はこの地に宿るコカトリスとケルベロスの魂を指輪に吸い込みました。それらの融合体『グリフォン』は七つのうちの一つです」


「希望が見えてきたぞ。確かな希望が」


カインは嬉しそうである。


「なら何としてでも究極剣技を習得しねーとな。キャンディス、お前は今日は休め」


穏やかな口調でそう告げ、城の外を眺める。

ナオミ、メリアと共に早く帰ってこいよ。

ドラゴンが目印となるが、単純にはいきそうになかった。


「今日は国王アルフ様の二十歳の誕生日じゃ。盛大に花火をあげよう」


昼間だというのに暗いお陰で花火は映えるだろう。

それにしてもカインの爺さんは元気だ。

そしてレノン家への忠誠は本物と見える。

仲間にした当初は疑っていたが、無駄な思い込みだったか。


アルフは今までロクに誕生日を祝ってこなかった。

特にこの七年間はひもじい思いをしてきたはずだ。

何か金貨で奢ってやるか。

ここで金貨一枚を消費すると残る金貨はあと一つとなる。

因みに銅貨十枚で銀貨十枚分、銀貨十枚で金貨一枚分の価値があるとされている。


俺はベッドに向かうキャンディスに薬草を手渡した。

盗賊から奪った品だが、彼女の傷が癒えるならそれでいい。


パララ……パラ……と城から花火が上がり出した。

町の者が広場に出てみとれている。

俺は酒場から酒を取り寄せた。

アルフとカインと杯を合わせる。


「アルフ国王に乾杯!」


「完全召喚にもだ!」


良い思い出になりそうだ。

俺は花火を見た瞬間、少女キャンディスについて何か思い出しかけたが、直ぐに酒で上の空になった。

彼女は何故記憶から……。

いつか思い出す時が来るだろう。

今は召喚獣との契約に力を注げばいい。


「マンティコアか……」


勇気の象徴ライオンを含んだクリーチャーの存在に、正直満足している。

昔は旅を共にした獣人だったが、心は通じ合える筈だ。

必ず俺が契約をモノにして見せる。

そう決意し、グビッと杯を飲み干した。

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