第五十話「繋ぐ想い」
ゼウス達が死んだ後、ヨーロッパはソラが統治する事になった。
それを見届けたソラの母ナオミは眠るように寿命で息を引き取った。
俺達は第二の首都ガゼに来ており、ナミと再会を喜び合うデートをする事になったのだが、シヴァ、パトラカップルも偶然同じレストランに来ており、せっかくだから同じテーブルで食べようとの話になった。
つまりダブルデートである。
提案したのは他ならぬパトラ。
奇想天外と言うか、何と言うか……。
俺は四人掛けの長テーブルでシヴァ達と向き合った。
どうやらシヴァは占いが使えるようで、こうなる事を予言していたようだ。
何にせよちょっと気まずいんだよなぁ。
パトラとは確かにちょっと仲良くなったけど、ナミはダブルデートなど端から望んでいない感じだった。
パトラが言った。
「どうしたのマーク、元気ないねい?はいシヴァ、あーん」
(ヤバいなこの娘……!)
と、とにかく!せっかくデートに来たんだから楽しまないと。
ガゼとアクゼの間にはレイさんをチーフとする者たちによって鉄道が引かれており、いつでもアクゼにいるソラの所へ赴く事が可能だ。
俺達はギラギラした都会より此方の方が落ち着くと思ってたのに……何だよパトラァ。
俺は運ばれてきたカシスミルクを乾杯もせずに口に運んだ。
察したのかナミがテーブルの下で手を握ってくる。
先に店に来ていたのはシヴァ達だった。
そこへ現れた俺達が無理矢理同席させられたわけである。
正直アルマクルス無しでもナミと一緒ならシヴァ、パトラカップルに勝つ事ができる。
って何でバトルの予想してんだ俺。
ナミが運ばれてきたサラダを食べだした。
此処はスイスと呼ばれる場所でイタリアの北にある。
ゼウス達と戦った岩場の更に北ってわけだ。
ダブルデート。
男も含めてのそれは人生初めてだった。
昔アスカと三人でならした事があったが、まさか不老不死のパトラとマンティコアの子孫シヴァと食事するとは思いもよらなかった。
まあいい、どうせ食い終わったら終わりだろ?
俺がナイフとフォークでチキンを切って食べていると、パトラが口を開いた。
「ねぇ、この後どこ行くー?」
これで解散じゃねーのかよ!」
大体アンタ不老不死だから時間はたっぷりあるんだろ?
俺達を二人っきりにしてくれぇ。
「まあでも、そうだよね。せっかく会ったんだし、偶には……」
と俺にウィンクするナミ。
俺は渋々頷いた。
パトラ達はもう食べ終わったようで、シヴァの肩にもたれかかっている。
まあでもあんだけラブラブならシヴァがアレスになった時は相当辛かっただろうな……。
俺はお手拭きで口元を拭い、そろそろ行くか?と目で合図を送った。
シヴァとパトラ。
想像世界末期に存在した者たち……。
特にパトラは敵の特殊能力を掻っ攫えると言う。
ゲートを開いた黒人ネロ・ランドールも敵の技をコピーでき、キャンディスから真似たわけだが「奪う」と言うのは特別異質だった。
つまりあんな性格だが俺のシールドノヴァを奪おうと思えば奪えるのである。
まさかヒュドラへの変身も奪えるのか。
だとしたら俺達はこの能天気な娘に全滅させられる事になる……。
俺達は会計を済まし、店を跡にした。
マンティコア砦で金貨を手にしていたので、俺が四人分払う事になった。
まあいいさ、それよりこれからどうすんだよ……。
夜七時になり祭りが始まった。
今日祭りの日だっけ……夜店とかもあるのかぁ。
俺達四人はなんやかんやで祭りを共に楽しむ事になった。
ーー
夜のガゼの町は賑わっており、気づけばエルメスが隅に立っていた。
ナオミやレイヴンより五つ歳下という話だったが、まだまだ元気そうだ。
道化師の姿をしておりワープ魔法も使える彼女は、俺達四人が一緒に居るのを見て意味深な笑みを浮かべた。
「私はゼウス様の使いでありながら想像世界へとワープ出来た。自分で言うのもなんだけど好奇心旺盛で、レナに付いたりハモンに付いたりした」
ハモンとはあのアシュラの父か……。
俺はようやく想像世界で何が起こっていたかその骨組みを理解するに至っていた。
そのエルメスが何の用だ?
俺は彼女の次の言葉を待った。
「君達を見ればホントに愛し合ってるって感じがする〜。私には分からない感情なのかな」
俺はその時ふと立ち止まった。
レナ達を裏切ろうとも彼女は孤独を抱え生きていたのか。
「俺達はもう敵同士じゃないんだ。友達と呼べばいい」
俺の言葉にパトラがブンブンと頷いた。
神々の使者エルメス……。
こうして友として巡り会えたのも何かの奇跡か。
俺は彼女に飲み物を買ってあげることにした。
ガゼに所々に自動販売機がある。
俺は紅茶を彼女に手渡した。
「こんなに優しくしてもらったの久しぶり〜。二組ともずっと仲良くね」
そう、この世界にはエルメスのように一人っきりの者もいる。
「彼氏出来たら紹介してくれよな」
ニッコリ微笑みエルメスは煙と共に消えた。
本当にとどめを刺さなくて良かった。
エルメスにはエルメスなりの優しさが存在したはずだ。
現にたかが紅茶であの笑顔である。
俺はナミの方を向き直った。
金髪ロングヘアーの彼女と目が合う。
花火がポツポツと上がる中、顔を近づけた。
目を閉じ、唇を重ねる。
アフロディーテとして男達に声をかけた?
仮にそれが本当だとしても、それがナミの性格の一部だったとしても俺は彼女を愛す。
現に俺が三股していようが文句一つ言わない。
そう言えばアイシャ元気にしてるかなぁ。
俺はナミの肩に手を置き、そっと離れた。
「エルメスの寿命も近い。彼女の分も幸せになるぞ」
「でも彼氏できないって決まったわけじゃ……」
「そうだな」
俺はパトラの返答に対し、コクリと頷いた。
「未来が見える……!ブルードラゴンが現れる……!」
突如シヴァが声を上げた。
彼の祖先は凄腕占い師イザベル。
彼女ほどとは言わなくともシヴァは先を見通す事ができた。
「この町に……!?」
ブルードラゴンと言えばアークドラゴン(赤竜)の亜種で体長は八メートルに達する。
一般人が巻き込まれれば危険だった。
その時、大剣アナコンダからテレパシーが。
他ならぬキャンディス・ミカエラである。
(一般人を犠牲にはできない……!翼を生やして飛び上がって!)
(お、おう!)
ナミのヒュドラへの変身は混乱を招くし、他の二人も翼を生やせるとは考え辛い。
俺は一人でブルードラゴンと戦う覚悟を決めた。
白い羽を羽ばたかせガゼ上空へ。
シヴァが言った通り、西の方角から青いドラゴンは現れた。
亜種というだけあって赤竜よりは強いのだろうが、アルマクルスを所持した自分の敵ではなかった。
アルマクルスは元々ナオミがレナにあげた御守りで、チート級の戦闘力向上効果を発揮する。
俺はドラゴンが放った火の玉を左にかわし、距離を詰めるのだった。
だがその時、エルメスとのやり取りが頭を過ぎった。
この竜も町に近づけさせなければいいだけで、命を無理に奪う事ない。
(ちょっと、マーク!)
キャンディスが語りかけてきたが、俺は腕を組んでじっと相手を睨み返した。
放つオーラはアルマクルスによって底上げされているはずだ。
何より俺は七年間の修行で青竜すらも恐れさす力を手にしたのだ。
相手は去っていった。
ナミ達の所へ舞い戻り夜店を楽しむ事にした。
ーー
数ある夜店の中に射的らしき物が目に止まった。
目玉商品はソラが想像世界に居た頃に着ていたとされる聖なる鎧だった。
「元々はミルナ神が着用してたんだぜい」
とシヴァ。
ミルナと言えばグレンの妻で、中々強力な存在だったはずだ。
その鎧がこんな所に。
現在のソラつまり「ハイ」は黒っぽい服装をしており、此処に射的の商品として展示されている鎧は銀色だった。
俺の今着ている人狼の鎧より性能で言うと上なんじゃないか?
ミルナ神……彼女の力の証明ともされる鎧を俺達四人の努力で得てみせるぜ……。
だが鎧を得るためには全てのブロックを床に落とさなければならず、ブロックの数は五十とかなり多めだった。
聖なる鎧。
ソラが嘗て世界を救った際に着ていたとされる代物で、彼がレナすら上回る実力を発揮したのも鎧による力が大きい。
そして何より。
俺は人狼という獣の域を逸脱してグレンやミルナといった神々しい者たちと並ぶ存在になるのだ。
俺は銃を構えた。
シヴァが「スカーロイが居ればな〜」と後ろで言っていたが、構わず一発目で押し崩す。
俺達は五十分かけて聖なる鎧をゲットした。
いや〜わりぃなこの鎧は俺の物に……つーかシヴァが着ている黄金の鎧も負けず劣らずの性能のようだな。
「ありがとよ三人共!俺こそ二代目ソラに相応しいぜ」
口にした途端、亡き父アーロンの存在が頭をよぎった。
いつか幻影の姿の彼に会いに行かないと。
マンティコアだって幻影として存在したんだ、きっといつか父さんに会える……!
俺は聖なる鎧を装備した。
ミルナとソラといった想像世界のレジェンドの温もりがほんの僅かだけ感じられた。
ホットドッグを食べながら祭りの町を闊歩する。
「さっきスカーロイ、って言ってたよな?」
「ああ、射撃の名手だ。ソラの義兄弟だったんだぜい」
「この世界に来ているのか?」
「噂では親戚のキズカと二人で人助けの旅をしているだとか。でも詳しい消息は不明なんだ」
「ソラの義兄弟か……」
中々頼もしそうな存在じゃないか。
キズカと水面下で旅しているわけだな。
「人助けの旅なんて……昔のナオミみたいだろ?」
とシヴァはホットドッグを口に放り込んだ。
ゼウス亡き今する事は限られていると思いきや、まだ関心を引くものは存在する。
「それよりアスカちゃんはいいの?」
とパトラが口を挟んだ。
俺はアスカとも信頼関係にある。
「喩え花火の中キスしようが……離れ離れにはなりはしない」
今日は良い日だった。
さて、これからどうするか。
俺がぐーっと伸びをした時脳裏に声が聞こえてきた。
(俺っス、アシュラっスよぉ!今ヴィヴィドが大変なんス!ハーピークイーンキアラスが突如攻めてきて……)
ヴィヴィドと言えばスペイン東部か……。
此処から結構距離があるな……。
(分かった明日飛空艇で向かう。アスカも連れてくよ……)
と俺はナミの頭をポンッと撫でた。
彼女はお留守番だ。
ゼウスを倒した功績でガゼの屋敷を借りる事に成功している。
一先ずナミはそこで待機か……。
(アイシャにも会わねーとな!)
俺はアシュラのテレパシーの件を手短に説明した。




