第四十九話「総力戦」
着いた南の森。
此処に来るのは十年ぶりだった。
ソラが言った。
「父レナは死んだ身でありながら秘密の禁術を使って復活した過去があった。そしてこの世界を支配。それがゼウスの癪に障った」
なるほど……?
レナは寿命で息絶えたとの噂だが、残ったナオミとソラはゼウスに敗れた、こういう事だな?
俺はボナパルト家の倅として、そしてメシアと期待された者として絶対に負ける事は許されない。
現にヨーロッパは強力なクリーチャーで溢れかえっている。
それならソラか自分が統治した方が良い。
ハウルの居るとされる小屋が見えてきた。
赤髪で、確か四十くらいになるはずだ。
武器は今だにグレンウォンドだろうか。
秘密の禁術すら編み出していそうなほどのスペックの持ち主ではある。
何にせよゼウス達と闘うには彼の力が必要だった。
ポセイドンとハデスの力も、ゼウスと遜色ないくらい強力な恐れがあるからだ。
俺は小屋の戸を叩いた。
確か俺とレダスとハウルで勇者になろうとか言ったんだっけ……。
現実世界を代表する三人に、今度こそのし上がれる。
勿論敵は超強力だが、だからこそだ。
七対七の総力戦。
聞けばパトラは補助魔法を使うそうだが、彼女と対となるのがエルメスだろう。
そして隻腕のソラはアレスあたりと当たるのか。
キーとなるのは俺、レダス、ハウルの三人だった。
特にアルマクルスを持った俺はゼウスとの一騎打ちが予測される。
いやマイアも軽視すべきではない。
ペルセウスの生まれ変わりとしてここぞとばかりに活躍する可能性もある。
とにかく、希望は捨てるべきではないのだ。
ハウルは顔に傷がある男だった。
もはや伝説級の黒魔道士。
その威厳が彼にはあった。
キャンディスと並んだか。
確かではないがその可能性も感じさせるオーラは、四十となった今も向上心を無くしていない何よりの証拠だった。
ハウルが言った。
「何だ」
久しぶりなのに愛想悪いなー。
マークとレダスだぞ?
「ああ、お前たちか……おまけにソラまで。さては神々と闘うつもりだな?」
「力を貸してくれ、ハウル。アンタの魔術が必要なんだ」
武器は以前と同じグレンウォンドのようだった。
だが技はなんと最上級魔法に達する。
威力だけで言えばゼウスの雷とほぼほぼ互角だった。
キャンディスと違い召喚魔法は扱えないようなのだが、なんとゲートを開けると言う。
恐るべき天才だった。
「マンティコア・ライデン、キャンディス・ミラエラ、ネロ・ランドールに続く四人目のゲート解放者か?」
とソラ。
想像世界への行き来は興味を唆るものだったが、今はそれどころではない。
「ゼウスを倒せば各地のクリーチャー達は弱体化するのだな?」
「ほぼ間違いないだろう」
ソラの返答にハウルは大きく頷いた。
「良いだろう、このハウルが直々に神々の相手をしてやる」
「そうこなくっちゃな!」
「神々との闘いは此処から少し北に行った岩場にするのはどうだ?丁度第二の首都ガゼと南の森の中間地点に相当する場所だ」
「決まりだな。岩場に行けば向こうから現れるだろう」
俺、ハウル、ソラの会話で話は纏まった。
アルマゲドンに乗り、七人で岩場へ。
ーー
俺はフーーッと息を吐いた。
大剣に取り憑いたキャンディスは語りかけてこない。
だが何処か通じるものがあった。
鈍く光る「アナコンダ」の名を持つ大剣から発せられるエネルギー。
アルマクルスと組み合わさる事で、あのゼウスとも互角に渡り合える可能性すらある。
だが問題はハデスとポセイドンだ。
ハウルは何とか闘えるにしろレダスが心配だった。
(ヘラクレスの力、見せてくれよ)
俺はそっと目を閉じ敵が現れるのを待った。
ナミはヒュドラに変身できるしアスカは回復のスペシャリストだ。
ゼウスとの短期決着は必須と言えた。
現れた煙。
そして七人の神々。
「タイラント・ノヴァ!」
とパトラが俺に補助魔法を唱える。
ゼウスが死ねば赤髪のシヴァを含む三人が此方に付く。
彼女も俺を最優先して力添えするのが一番と判断したのだろう。
タイラント・ノヴァの効果で尚一層攻撃力の増した俺は、迷うことなくゼウスに接近していった。
だが行く手を阻むはアレスこと赤髪のシヴァ。
左手には三日月の盾を装備しており、鎧は黄金だった。
俺は脳裏にパトラを一瞬浮かべ、彼女の為にも攻撃すべきと判断した。
彼らは恋人同士である。
聞けばシヴァはあのマンティコアの子孫だった。
一番最初にゲートを開いた男、マンティコア・ライデン。
彼の武器と合致する魔導槍は漢字表記だけあって中々強力だが、アナコンダはそれを遥かに凌駕する。
そもそもスネークやアナコンダといった名前は言わばニックネームみたいな物で、これらも元々は漢字表記だったはずだ。
加えてキャンディスが取り憑いている。
俺の縦への一撃は三日月の盾を粉々にする威力だった。
さあ、ここからである。
無理に傷を与えるべきではない、それは百も承知だった。
右側からポセイドンが水で攻撃してきた。
水魔法はあのグレンによって氷魔法に昇華される前の魔術だった。
その事についてソラほど詳しくは知らないが、まあ油断すべきではない。
「ウォーターハザード!」
水属性上級魔法だった。
だがポセイドンはなんとそれを七人全員に向けて放ってみせたのである。
恐るべき力だった。
俺は大剣でガードしてみせた。
不老不死であるパトラにも攻撃は通じないはずだ。
問題は隻腕のソラだった。
遥か昔のように盾を装備していない。
発射された水の勢いで、ソラは岩にそのまま叩きつけられた。
またナオミもガードする術が無いので苦戦している。
(負けられねぇ!)
俺は素手でシヴァを殴りつけた。
そして大剣を抱え白い翼と共にゼウスの所へ飛びかかっていく。
今度はハデスが行く手を阻んだ。
その手には太刀のようなものが。
何やら闇のオーラを纏っているが、剣や太刀なら出たとこ勝負だった。
「裏・暗黒魔導斬り」
「真」じゃなくて「裏」。
初めて耳にする技だった。
こっちも剣技で対抗だ。
光闇交差斬!
二つの力はぶつかり合い、波動がパトラ達の所まで届いた気がした。
背後にマイア。
「ハデスの相手は僕が引き受けるよ。君はゼウスを」
「分かった」
その時レダスの放った「破魔の矢」がハデスの肩に命中した。
顔面ではなく肩なのはハデスが咄嗟の反応で身体をズラしたからに他ならない。
連携の力。
それは決して侮れないものだった。
その時、左側にヒュドラに変身したナミの姿があった。
彼女との闘いは何としても避けたい。
そして破魔の矢のダメージを「ヒーリング・ノヴァ」で回復させたのは他ならぬアスカだった。
この戦いは想像していた以上に厳しいものがある。
ヒュドラに飛びかかっていったのはレダスの相棒アルマゲドンだった。
戦場は熾烈さを増していた。
ーー
ハデス、ポセイドン、ゼウスはそれぞれ黒、水色、黄色の服を纏っていたのだが何れも高齢だった。
何にせよゼウスを倒せば味方が三人増える。
今のところ大した動きを見せていないのはエルメスだったが、此方と戦うつもりな以上軽視できない。
俺はハデスの相手をマイアとレダスに任せ、ゼウスの前に立ちはだかった。
ゼウスが言った。
「アキレウス、まさか貴様を殺す事になろうとはな。仕方ない、人間側に付くのならそれ相応にさっさと死ね!」
来た雷。
俺は大剣アナコンダで迎え撃った。
聞こえるキャンディスの声!
そう彼女は召喚士であると同時に黒魔道士。
魔法への耐性もピカイチのはずだ。
(耐えて、マーク!敵は次の攻撃まで一瞬の隙を見せるはず!シールドノヴァよ!)
(よしきた!)
ソラ譲りのシールドノヴァを発動させた。
攻撃と攻撃の間に生まれる僅かな隙間。
その時にアナコンダで攻撃を叩き込めば。
バチバチッ!
敵の掌から放たれた雷はシールドノヴァを破壊させた。
だが最初に大剣で受け流した分、ダメージはない。
今だ!
キャンディスが語りかけたのは自分を認めた何よりの証拠。
そしてソラすらも隻腕にさせた彼を倒せるのは、もはや自分しかいない。
ーー最上級剣技「真・ハヤブサ二十人斬り」ーー
連続斬りを畳み掛けた。
斬って斬って、斬りまくる!
俺は攻撃の手を休めなかった。
今頃背後ではハウルがポセイドンと向かい合ってるはずだ。
ここで何としても数的有利を。
そして世界の人々に平安を!
すれ違いざま、爆発が相手を襲った。
動きを止めるヒュドラことナミ。
やったのだ。キャンディスの力添えのおかげとは言え、申し分のない勝利だった。
これで各地のクリーチャーも弱体化するはずだ。
蛇の毒に苦しむアルマゲドンを、アスカが治療する。
「おのれ!」
ハデスの太刀。
マイアの大剣コブラを叩き落とした。
だが次の攻撃に移られる前にソラが間に割って入った。
祖父と孫。
家族の絆はエルメスと対峙しているナオミ含めて、確かなものだった。
当然俺も含まれている。
そしてパトラは大好きなシヴァに「タイラント・ノヴァ」を唱えている。
勝った。
俺は勝利を確信した。
ハウルの風とポセイドンの水がぶつかっては中央で打ち消し合い、その隙を突いてシヴァが横槍を入れた。
またハデスに対してもヒュドラから元の姿に戻ったナミがストップ魔法を唱え(一種の青魔法だ)動きを三秒間止めている。
その隙にソラは「裏・桜竜の舞」で三匹の桜を帯びた青竜を繰り出していたし、マイアは武器を拾い上げていた。
ハデスに続きソラまでも「裏・剣技」を。
新技は研究されているようだな。
俺が追撃するまでもなく、ハデスはマイアとソラの攻撃によって倒れた。
またポセイドンにはレダスが破魔の矢で三本も射抜き、怯んだところをハウルが最上級魔法「ビッグバン」を放った。
破魔の矢は紫色に光る矢の事で、威力は高めだ。
だが何よりビッグバンは闇属性中級魔法「ナイトメア」の上位互換を連想させる技で、近くにいたシヴァに離れるよう指示しなければならないほどの大爆発であった。
ナオミに苦戦していたエルメスは降参し、俺達は平和を成し遂げたのだった。




