第四十八話「団結の時」
俺とナオミはそれぞれ馬に跨り、ソラの居るとされるイタリアに向かう事になった。
ナオミの瞬間移動は彼女自身しか動かせない。
彼女の馬もスペインの何処かから連れてきたのは確かだが、まあ準備が良いと言えば良いと言える。
祖父であるソラ。
彼との合流はこの混沌の大地に光を齎すのか。
彼ならアキレウスが誰か知っている可能性も無きにしもあらずだ。
それに。
道中で魔物に出会えばそれはそれで自分を鍛える旅になる。
向上心を捨てないのが此処七年間の強みだった。
ゼウス達に勝てるのか。
勝ったとして、今度は自分がヨーロッパを統治する事になるのか。
メシア。遥か昔にそう呼ばれた気がした。
今度はアキレウスである。
だが自分の価値はどう呼ばれるかでは決まらない。
俺こそナミ、アスカ、そしてアイシャまでとも釣り合う男だと心の底から信じていた。
彼女たちへの依存心ももはや無い。
ただ、自分は自分。
その中で心の奥底で手放したくないと密かに感じるもの。
彼女らは時に俺を試し、時に俺を信じてきた。
応えられるものには応え、いつしか自分の軸で反発できるようにもなった。
俺はーー。
彼女達が好きだ。
そう思うからこその旅だとも言える。
「前方からドラゴンに乗った男が接近してくる。キミの知り合いじゃないか?」
レダス。
三十になった今いよいよ全盛期を迎えると言ったところか。
弓使いで、短剣も使う。
巨竜アルマゲドンに跨り各地を転々としているとの噂だったがこんな所で出会うとは。
いつか巡り合う気がしていたが、運命とは時にスゴロクのような偶然さを帯びる。
「マーク、それにナオミさんじゃありませんか!」
お互い歳を取ったが深いところは変わっていない。
礼儀作法といったところか。
いくら勇敢になったとて、それが欠ければどこか浅いと感じる。
思いやりは言葉の節々や仕草に無意識に現れるものだ。
「巨竜に乗ればイタリアまでひとっ飛びだな。乗せてもらおうか」
「いいですよ。ただここで一つ重要な事を言います」
「何だ」
「マークはアキレウスが前世の一人、私はヘラクレスが前世の一人なんです」
出た、アキレウス。
黙って聞いてりゃレダスがヘラクレスだって?
「彼らは一体誰なんだ」
俺が口を開いた。
「半神の英雄だとか。ゼウスたちと違い、彼らには寿命があったそうです」
なるほどな。
だがアテナやアフロディーテが不死なのかと謎は深まるばかりだ。
そもそも。
そもそも前世が誰だろうが俺には知ったこっちゃないし、アキレウスやヘラクレスが仮に有能だったとしても俺達に能力が受け継がれてるとは考えづらい。
まあいい。
そのうち彼らについても知る事になるだろう。
俺とナオミは巨竜に飛び乗り、スペインの地を跡にした。
上空、俺は思い耽った。
ナミやアスカは元々神々の一員だったのかと。
仮に彼女達が何者だったとしてもいい、記憶ごと奪い返す。
ソラと合流できれば四人の強者が揃った事になる。
レダスと巡り会えたのは運が良かった。
彼もまた彼なりの試練を乗り越え強くなっているはずだ。
「ヘラクレスについて知りたくないですか?」
聞けば剛腕で不幸な人生を送った男の話だった。
いずれはアキレウスについても聞きだしていいだろう。
「どこでその事について知ったんだ?」
「イギリスってとこに大きな図書館があって」
「一度行ってみたいものだ」
俺達の会話はそこで途切れ、レダスのアルマゲドンは千里眼を持つナオミの指示通りの場所に降り立った。
さあ十年ぶりの祖父との再会だ。
この比較的短めの黒のドレッドヘアーも、ソラやレナを意識しているに他ならない。
一つ息を吐き、俺は木製のドアをトントンと叩いた。
ーー
ソラの家は植物で覆われており、円形の扉は特徴的だった。
先ず現れたのは従兄弟のマイア。
彼に通され俺達は居間でソラと抱擁を交わした。
「ゼウスの事か?」
ソラには全てお見通しだった。
そしてレダスが言うにはマイアの前世はペルセウスという男だという。
アキレウス、ヘラクレス、ペルセウス。
三人の英雄が一致団結して初めて神々と対等に渡り合えるそうだ。
まあ言い伝え的なものだろう。
マイアとの再会は喜ばしいものだったし、仲間は多いに越した事はない。
だが問題はーー。
「ゼウスとの闘いで左腕が痺れて動かない。昔のようには闘えないだろう」
ナオミは知ってたんじゃないのか?
いや喩え隻腕でも、利き腕が残っている限りこの人を見限るのは早い。
「昔使っていた凱鬼という片手剣がある。アナコンダの大剣はマーク、君に預けよう」
キャンディスの取り憑いている武器を……俺に。
世界中捜しても見つからないようなスペックの大剣である。
天才召喚士キャンディス。
時にアルマゲドン、時にフェニックスを召喚し正義に身を捧げた女性である。
黒魔法のスキルも群を抜いており、数少ないゲートの解放者の一人である。
捜せば幾らでも逸話は残っていそうだが、とにかく大剣アナコンダは俺の手に渡ったわけである。
「ソラは元々片手剣の使い手だ。強力なのは言うまでもない」
とナオミ。
彼女はソラの母にあたる。
(キャンディス……俺に力を貸してくれ)
大剣が鈍く光った気がした。
さあ、これから五人で神々と向き合うのか?
それよりも先にナミ達の心を知りたい。
「ゼウスの罠だ。ナミ、アスカ、そしてシヴァ。彼らは洗脳されゼウスの家族となっている。寿命が無いのはゼウス、ポセイドン、ハデスの三人だけだ」
(やっぱり洗脳か……)
俺は手を頭の後ろで組んだ。
ゼウスを倒せば洗脳は解けそうだが、それまではヒュドラや白魔道士として行く手を阻むのか。
おまけにシヴァは魔導槍の使い手だという。
「ハウルたちも居場所が分かりゃ助太刀させんのにな」
幾らナオミが千里眼を駆使したとて、大まかな位置が分かっていないと彼の居場所を特定できない。
彼もまた才能ある者の一人だった。
「それにしても久しぶりだなマイア」
「僕も君に会えて嬉しいよ」
アルマクルスを俺が手にした今、彼との力の差は歴然だろう。
だが力云々よりも家族として、大切な存在だった。
ペルセウス?だったけか。
三人の英雄に数えられるんなら期待できるかもな。
オーラで幾らか力を推し測る事は出来る。
だがイギリスの図書館にあったとされる言い伝えも、軽視すべきものではなかった。
さあ、準備は整った。
今日はもう遅いのでソラの家で寝泊まりする事になる。
ナミとアスカとの殺し合いは何としてでも避けたい。
神々との闘いの緊張感は恐らく想像を絶するだろう。
ベッドが足りないので俺とソラは隣同士床で寝る事になった。
「大きくなったな」
ソラに言ってもらうのは光栄だった。
きっと心の持ち様まで見透かされたのだろう。
「ナミ達を愛してるか?」
「うん……」
「そうか…………儂の妻アイシアは半年ほど前にこの世を去った。時の流れは偶然に見えて必然だ。ナミ達が離れたのも試練かもしれんなぁ」
試練……か。
確かに平凡に見えて平安には程遠い。
メシアとしてどう在るか。
それは名誉の為などという次元を超えた自分自身への問いだった。
「今日はもう寝よう。おやすみマーク」
「おやすみ」
この大剣アナコンダの持ち主としてどう在るか。
深くため息をつき、俺は深い眠りに落ちた。
ーー
夜。夢の中で何者かに語りかけられた。
聞き覚えのある声……さてはレイヴン!?
彼の声は落ち着いていて奇妙な響きがあった。
「僕の寿命が尽きる前に伝えたい事がある。僕はそこに居るマイアの前世だ」
出た前世。
俺の前世の一人はアキレウスという話だった。
だが今度は身近な者同士の繋がりだ。
想像世界にいた頃、レイヴンはそれほど永く生き長らえ無かったのかもしれない。
歳のかなり離れたマイア・ボナパルトとして生まれ変わったのか。
「ーー『アルマ』スペイン語で魂を意味する」
目覚めた俺は夢の事を皆に話した。
「想像世界にいたジンと現実世界にいたジンにも何らかの繋がりがあると聞いたことがある」
とソラ。
残念ながら想像世界の方のジンは存じあげなかったが、とにかく「アルマ」の転生?的なものは存在するようだ。
言われてみればレイヴンとマイアは何処か似ていた。
空曰くレイヴンの方が涙脆く、マイアは何と言うかミステリアスな感じなのだが一人称が「僕」の所からして前世、後世だというのも頷ける。
他にも同じような関係の者たちはいるだろうか。
女性陣も視野にいれると出てくる可能性はありそうだ。
ーー「アルマ」クルス。
それは単なる十字架の意味に留まらなかった。
魂の交差や以心伝心、轢いては横だけでなく縦の繋がりまで意識を傾けろと言うのか。
俺はうーむと腕を組んだ。
テーブルを皆で囲む形で五人全員が座り込む。
そう言えばレイヴンもマイアも同じ黒い翼を所持していた。
もしや能力の受け継ぎもあり得るのか。
俺はアキレウスの能力を少しでも受け継いでいると言うのか。
「俺の前世、アキレウスについて教えてくれ」
不死身。
踵が弱点だが剣術の腕は最強クラス、との事だった。
シールドノヴァはソラの遺伝だけでは無かったのか。
そう言えばマイアはシールドノヴァを完全には習得していない。
ペルセウスやアキレウスか……。
何かゾクゾクッとするものが込み上げてきた。
そろそろ朝食を摂ろう、とナオミが立ち上がったその時だった。
玄関をノックする音。
立っていたのはパトラと名乗る女性だった。
なんと赤髪のシヴァの恋人だという。
「うっ……うっ……シヴァが変になっちゃってぇ。助けてくれるのはソラさんしかいないと」
ソラはパトラの肩に優しく手を添えた。
この二人は顔見知りのようだ。
「不老不死の能力も持ってます。アタシもソラさん達に力添えします」
この娘が不老不死だということで思い出した。
黒騎士ゼオがクローンになる前は不老不死だったという噂だったんだ。
まあ仲間は多いに越したことが無いし、あと一人加われば同数の七人になる。
「ハウルの居場所知らねーか?」
俺がダメ元で聞いてみた。
「此処から北西にある『南の森』でハウルと言う名の黒魔道士の目撃情報が出ているわ」
「君も誰かの生まれ変わりなのか?」
「え?」
「フフッ、何でもない。行こうぜ南の森へ」
南の森はイタリア北部にある。
スイスやドイツから見たら南にあるので「南の森」という名前がついている。
「先ずは朝食を摂ってからだろう?」
「ああ。だが何だかワクワクが止まらねーんだ」
俺はナミとアスカに依存はしていない。
取り敢えず彼女たちはゼウスの娘として安全は確保された形となっている。
いつか七対七でぶつかった時、倒してしまわないように細心の注意を払いたい。
俺はトーストを口に放り込み、マイアにレイヴンの影を照らし合わせるのだった。




