間話「時を越え」
あの後「母さん」や「(ミオナって名の)叔母さん」にも会った俺はソラ一族の確かな繋がりを感じた。
母さんにも立派な漢って認めてもらえたかな?
武勇伝はある程度あるしそれも大事なんだけど、肝心な中身が伴っていないとな。
マイアの父もアメリカから帰ってきたようで、俺に血の繋がる家族がいる事が本当に嬉しかった。
父アーロンを復活させる魔法を編み出すのは難しいだろうが、俺はちゃんと前を向けてる。
ソラ爺ちゃんとも打ち解けてきたし、レナも王として新しい時代の先頭に立っている。
やっぱり全て「邪心」が悪かったんだ。
あの後レナの過去について調べたんだが、邪心が住み着きそうな体験を沢山してる。
ナオミさんも支えにいるし、今度は大丈夫だろう。
(ソラ一族の「特殊能力」かぁ……)
俺はまだ習得できずにいた。
何やらシールドのようなモノらしいのだが、自分をメシアと本当は認めないところも、こういう所からきているかもしれない。
俺はナミ達とフランスの海岸線に位置するココナツ村跡地に赴いた。
新たに家を作りかけで、今アイシャがドラム缶のお風呂に入ってる。
スタイル良いし、ドキッとするよな。
それにしても貴族出身なのによく文句言わないなー。
愛の力ってやつか?(殴られそう)笑。
頭の真っ赤な薔薇はずっと枯れずにいた。
告白した時ナミに言われるまでアイシャさんの好意にはほぼ気づかずにいたわけだが、思ったほど我儘じゃない。
喋り口調がキツイ時もあるが綺麗な花にはトゲがあるっつー事で。
俺は色気満点のアイシャの入浴をチラチラ見そうになりつつ、家づくりの合間に砂浜に躍り出た。
アスカとは船で抱き合って以降信頼関係はグンと増した。
レナ戦でも一応護り抜いたわけだしそこは有言実行か。
ツンツンしてるのは相変わらずなんだが時折魅せる笑顔が何とも可愛かった。
クールだとばかり思っていたが、彼女も旅の中で明るさを手に入れたのだろう。
そしてナミは、初めて会った次の日から大幅なキャラ変を行っていたのだが、元の彼女に戻ってもこのまま居ても、どちらでも愛すつもりだった。
綺麗な透明でも虹色でもどちらでも素敵さ。
気づけば俺は夕日を眺めながら、砂浜でナミの隣に座っていた。
顔が近くなる。
俺は手を繋いだまま唇を重ねた。
あの後ハウルは天才の名を欲しいままにし、黒魔術の発展に貢献。
今も尚未来都市アクゼに居てキャンディスって人の後釜に座り、レナやナオミとヨーロッパ大陸の平和に力を注いでいる。
レダスはアルマゲドンという彼の相棒と共に、悪の怪物の退治屋をやってるみたい。
イケメンだしヒーロー的な存在として、皆からの注目を集めている。
俺達男三人のうち勇者と呼ばれるとしたら「邪心」にドドメを刺した俺だった。つまり競争には俺が勝ったんだが、あいつらなら名声で直ぐに追いついてくるだろう。
レイさんは初めはココナツ村跡地に来る予定だったんだけど、アクゼとカゼの間に鉄道を引く計画できて、今はそれに専念している。
何気に機械に詳しいんだよなー。
そしてギルガメッシュはあれから恋人を作り、新たな人生をスタートしている。
フランスに来てはどうかとも思ったが、彼は彼の思い入れのあるブレイブ村で住む事を選んだ。
スペインって呼ばれてた場所にあるそうなんだ。
そう、皆元気にしてる。
俺もナミ、アスカ、アイシャと幸せを築かないと。
風がノートの一ページを露わにさせた。
書いてあるのは以下の内容だった。
春の風に悪戯な闇
君の為だと偽ってみせよう
力の限り影を抱き寄せ
花の香り存分に愉しむ
逆光を浴び嬉しき事かな
夜の果てに気を病むが如し
か弱き肌に見惚れる事無し
風邪を引いても気に留める事無し
溺愛し死に葬られ
辿り着いたは癒しの跡か
黄色く咲いた貴方とも
笑い合うことすら夢のまた夢
一見暗い文章だが、逆の意味で読み取るというものだった。
そう、俺もナミと同じでキャラ変してたんだ。
旅は楽しい事ばかりじゃなかった。
途中でアーケオスさんを失ったし死にそうな目にもあった。
それでも暗い文章から希望を見出す手法を身につけ、ナミと心を交わすことに成功した。
彼女複数という現実にナミすら疑問を憶えた事もあっただろう。
それでも俺は此処に至り、三人と暮らす覚悟は揺るがない。
これはこれで一つの愛のカタチだろうなんて思えるようにもなったんだ。
「ちょっとぉ。キスしてたでしょ」
バスタオル姿のアイシャが背後にいた。
そこ突っ込むかぁ?
「アスカちゃんに言いふらしてやる」
「ちょ、それだけはやめて!」
これは俺の不思議な物語。
ーー
たった三年間の良き政治の後、レナは寿命で息を引き取った。
同時に世界は闇に包まれそれから更に七年後、俺は今だ深い創造に包まれた世界を歩んでいた。
七年間の修行のような日々を経て、身も心も成長したと言えるだろう。
同時にナミやアスカとは別れたわけではないものの、離れ離れになってしまっていた。
俺が、この世界の新たな王になるーーそんな気も無きにしもあらずだった。
今目指しているのは南西のブレイブ村。
甞ての相棒、ギルガメッシュが住んでいる場所だ。
移動は黒馬を使う。
言語など扱えない極々普通の馬だった。
連れは今年三十五歳になったアイシャ。
彼女の容姿に大した変化は無いものの、確かな信頼関係が今では存在した。
頭の薔薇は健在だ。
「妾を後ろに乗せておるのだ。もう少しスピードを落とせんか?」
「悪いな、馬の心配なんかさせちゃって。でもこの黒馬は頑丈だ」
俺は急いでいた。
日が沈む前に近くの集落に到着したい。
やはり女は男に比べ方向音痴の割合が多く、今どの辺りにいるのか分かっていない。
そしてこの森の夜行性クリーチャーの危険度がどれほどのものか、俺は熟知しているつもりだった。
なんてことはない。
俺の大剣スネークで木っ端微塵にできる。
だが問題は俺達は休息を必要としている事だった。
「ヤッ」
一つムチを入れ、スピードを上げる。
この七年間で、俺は飢える人や力無く殺される人を見てきた。
このアイシャでさえ、今となっては戦闘のお荷物だろう。
だがギルガメッシュは違う。
上級黒魔法は疎か中級青魔法まで使う天才だ。
俺はアイシャの恋人として彼女の身の安全を確保しつつも、相棒と呼んだ甞ての仲間を捜し求めているのだった。
身長もあれから五センチ伸び、髪はレナとソラの中間のような黒髪ドレッドにした。
アイシャも今だ貴族言葉からは離れないものの、時折くだけた口調で俺に接するのだった。
(さて……どうしたものか。人狼の気配だ。さっきの遠吠えからしても間違いない。俺の祖先ナオミ・ ブラストも人狼の鎧を身にまとっていたと聞く。一筋縄じゃいかないだろう。喩え俺が上級剣技を駆使しようとな)
俺は黒馬から飛び降りた。
「ちょっと何処行くつもりー?」と背後で声がする。
「そこで待ってろ。血なまぐさいのは御免だろ?」
それ以上は聞かず、駆け出す。
喩え一般人に落ちぶれようと、アイシャは大切な仲間だった。
護る、この腕で。
俺の嗅覚から察するに人狼の移動スピードは速い。
戦闘は避けられないわけだな。
本当なら祖父にあたるソラがこの国を統治するはずだった。
現実はそうはいってない。
そればかりか強力なクリーチャーの縄張りは広がる一方で、闇がそれを促進させているかのようだった。
大剣に手をかける。
敵の身長は二メートル。
二足歩行の獣人だが、まだ視界には現れない。
「こんな事もあるかと思って上級剣技の他に笛の音にも拘ったんだ。間違って馬の方に行かれちゃ困るからな」
と今度は笛に手をかけ吹き始める。
眠りの詩から発生する効果はその名の通り催眠で、子守唄のような音色が特徴だ。
(さて……眠った奴を探さないと)
演奏は十秒程だった。
それでも俺は人狼が寝ていると確信していた。
今にも日が暮れそうな砂利道を、ザッザッと歩いていく。
「コイツか……」
仰向けになって堂々と寝ている人狼を、俺は冷めた眼差しで見下ろした。
野宿していたらアイシャが狙われたかもしれない。
何にせよここでトドメを刺しておくべきだった。
上級剣技「炎桜竜」
炎、地、風の三種類を混ぜた大技だった。
使うと体力を消費するが四の五の言ってられない。
中途半端な攻撃だとコイツは起きて飛びかかってくるだろう。
放った。
炎に包まれた花びらを纏う竜はスネークの剣先から現れや否や、まるで意志を持った生き物のように対象に吸い込まれていった。
勝負は非情なのだ。
弱肉強食の世界。
焼き焦げた人狼の毛皮を剥ぎ、アイシャの所へ戻った。
そう、毛皮を剥ぐ所をお見せしたくなかったのだ。
俺はニコリと笑みを見せ、再び馬に飛び乗った。
「お待たせさんっと。武器は基本コレ一つだが、防具はどんどんアップグレードしていけたらな、って感じだ。
行こう、もうすぐ日が暮れる」
剥いだ毛皮についてはなるべく触れさせず、俺達は集落へと向かった。




