第三十七話「結成!レジスタンス」
ついにあの娘に逢える……!
俺の胸の鼓動は高鳴っていた。
既に酒場の店主に居場所を聞き出し、ギルガメッシュに乗って言われた池のある場所へ向かっている。
元はヒュドラだから、やはり水が必要なのか……?
不確かな推測を脳裏に浮かべながらも、俺は運命の場所へと白馬の足を進ませていく。
コカトリスの一件があってからギルガメッシュはある程度俺を認めたようだった。
既に夕方となっており、言われた東南東の方角は木が生い茂っていた。
緊張するなぁ……!
俺がアスカ以外の女子と話すのは、片手で数える程しかない。
ほぼほぼココナツ村で過ごしてきた俺にとって、彼女との邂逅は些か今までとは違う何かを感じ取らずにはいられなかった。
見えてきた……あれが例の池か。
幸い水浴びをしているわけではなさそうだ。
白い衣を身にまとい、長い金色の髪を魅せるその姿は夢の少女と完全に一致した。
俺はゴクリと唾を飲み、ギルガメッシュの背から降りた。
池は三十センチほどの深さで、それでいて巨大だった。
少女もこちらに気付いた。
束の間の静寂が木々に囲まれた水辺に訪れる。
何か喋らないと……。
くっ、調子狂うなぁ。
ある程度想定はしていたが、自分はやや赤面していた。
冷たい綺麗な池にジャブジャブ入っていき「こんにちは」と言ってみた。
返事はない。
どういう事だ、俺が一方的に惹かれる関係だってのか?
少女は考える仕草を見せてから「アレ……」と池のそばにある大きな石版を指さした。
少女に気を取られ過ぎて半ば無視していたが、立派な石版だ。
端から端まで十メートル近くある。
幻想的な雰囲気のこの場所で、彼女は何をしていたのか。
「『神がこの世界を創り、それを四人の息子たちに支配させた。人は彼らを四天王と呼ぶ』コレ、本当なの?」
「ちょっと俺には分かんねーかな……キミ、名前は?」
「ナミ……」
ナミの横顔は美しく、その瞳は澄んでいた。
石版の一節を汲み上げたようなのだが、帝国の支配と関係があるのだろうか。
四天王?
帝国を束ねるボス集団か?
石版によるとそれぞれ、ヨシ、ハイ、スギ、ガクとコードネームで呼ばれているらしかった。
神の子四人……!
ハウルもこの事を知っているのだろうか。
レダスは多分知らないだろう若過ぎる。
俺はナミが手のひらで水を掬い上げるのを、ただじっと見つめていた。
「アタシ……待ってたの」
「え?」
「この世界の救世主を。貴方なんじゃないか、って」
「そんな大袈裟な。確かにコカトリスは倒したけど……」
「フフッ」
女の子に期待されるとパワーが漲ってくるけど……。
それよりも重大な事がある。
「俺、キミを夢で見たんだ。なんか凄く懐かしい感じがして……ハウル、やレダス、といった仲間もいるんだ。一緒に来ない?」
「ハウル……?レダス……?」
「二人共頼もしいんだぜ?」
俺は手を頭の後ろで組んで笑ってみせた。
ようやく緊張が解けてきた。
やはり惹かれる何かがある。
「メシアの連れに相応しいのかしら」
吹き出しそうになった。
俺がメシア?
つまりその……救い主?
だがナミちゃんの眼差しは真剣だった。
「キミ……ヒュドラに変身出来るんだろ?キミこそ救世主に相応しい気がする」
「知ってるんだ……アタシの力の使い方……分かったかもしれない」
ナミちゃんは華奢で小柄だった。
同い年か、一個下くらいだろう。
声も可愛らしく、ずっと聞いていたいと心から思えた。
小鳥が、彼女の手にとまった。
アスカもミステリアスだが彼女も負けず劣らずだな。
だが男勝りといった感じは全然しない。
根っからの女の子って感じだ。
小鳥を撫でる姿は是非目に焼き付けたかったが、彼女はやがて此方に向き直った。
小鳥がバサバサと羽音を立てて去る。
俺は彼女の口から放たれる言葉を待った。
「分かったわ。共に行きましょう。今日は何か特別な事が起こる予感がしてた」
笑顔を見て安心する自分がいた。
手を繋いでギルガメッシュの元へ……ってそんな勇気あるわけ無いじゃん!
ああ、またレイさんにイジられるパターンだコレ。
「ギルガメッシュお願いだ彼女も一緒に乗せてやってくれ」
「今日の俺は気分が良いから、一回きりだぞ?」
ホッと胸を撫で下ろし、俺達はハウル達が待つ寂れた村へ向かう。
それにしても四天王か……いずれ戦う相手になるのか?
まさかね……。
ナミちゃんが俺の腰に手を回し後ろに乗るのは、年頃の俺には緊張モノだった。
「立派な白馬……しかも喋るんだね」
「ああ……俺の相棒さ」
「図に乗るんじゃねぇ!」
「フフッ……」
「ごめんごめんギルガメッシュ」
日が暮れる前にガゼの城下町にたどり着きたかった。
今日は今まで生きてきた中でダントツ一番のとんでもない日だった。
メシア、かぁ……買い被り過ぎだよ……。
これは俺の運命の物語。
この後、傭兵の後輩としてガゼに向けてモドリ玉を使う。
モドリ玉とはその名の通り、一瞬で町にワープできるアイテムでハウルが持ってる。
俺は白馬に跨りながらナミの戦闘力を計算し始めていた。
先ず間違いなくぶっ飛んでる。
それだけは言える。
俺達は森を越え、村への歩道に躍り出るのだった。
ーー
大陸第二の首都ガゼに着いた。
夜なのに人で賑わっており、あちらこちらに電灯が見られた。
ナミがハウルやレダスと打ち解けるまでさほど時間はかからないだろう。
二人共きっと根は良いヤツなんだ。
そして根は良いヤツと言えば真っ先に思い浮かぶのがココナツ村の二人、特にアスカだが、町を歩いていると見覚えのある顔に遭遇した。
「レイさん!アスカ……!」
サングラスを首にかけ、アロハシャツを着ていたガタイのいい男レイと、カーディガンにスカートを履いたアスカは俺との再会に心底驚いていた。
「なんでここに?」
「貴族アイシャに呼ばれて来たんじゃよ。お前こそハウルさんの付き添いか?」
レイさんはハウルを知ってる……!
そしてアスカは「無事で良かった……!」と言った。
アスカの元へと駆け寄る。
「心配させてごめん……!」
「……少し見ないうちに前より頼もしくなったな」
「え?」
「いや気のせいか……私はレイさんの付き添いで此処ガゼまで来た。今晩何か重要な話があるらしい」
ホントアスカって歳の割に大人びてるよなー。
でもクールゆえの脆さも知ってる。
そして向こうも俺の事を完璧だなんて思ってないだろう。
いいんだ今はこんなでもいつか真の漢になる!
そしてレイさんやハウルにも認めてもらうんだ!
ナミちゃんは既に俺に期待していた。
何考えてるかまだよく分からない所もあるけど、お馬鹿ではない気がするんだ。
寧ろ遥か先を見通してるかのような不思議な女性だった。
「ん?」
アスカがナミの存在に気づいた。
幼馴染だから恋のライバルにはならないだろう。
と俺が心の中で念じると傍にいたレイさんが「ケッ、これだからガキはよぉ……」と呟くのが聞こえた。
レイさんもしかして、ちょっと酔っ払ってる?
「あ、そうそう村でこんなカード貰ったんだ。アスカのだぜ凄くない?」
俺はポケットからアスカの絵柄のカードを取り出した。
「コカトリスとの戦いの際に少し折れちゃったんだー」
「コカトリス!?マーク、勝ったの?」
「皆で勝利を掴みとったんだ」
「そっか……マークの可能性に気づけてないのは私みたいだね」
俺達が話しているとナミちゃんが近づいてきた。
自己紹介を互いに済ませ、ナミちゃんがフッと囁いた。
「王の如く」
「はぁ?」
ナミちゃんの言ってる意味はよく分からなかったけど、とにかく今からアイシャって人の屋敷に行くらしい。
どうやらハウルにオーク討伐を依頼した人みたいで彼女と会うのも何かの縁だろう。
でもナミちゃん俺にあんまり気がないみたいなんだよな。
てゆーか「はぁ?」って言ってごめん。
アスカとはただの幼馴染だし、これから先何かあるとしたらナミちゃんなんだろうけど……。
「コカトリスを倒してもガキはガキのまんまだな」
レイさん絶対酔ってる……。
俺達六人と一頭はアイシャの屋敷を訪れた。
既にレイさんは面識があるようで、立派な建物のドアはギギギィと開いた。
使用人に通され六人はそれぞれテーブルの席についた。
流石第二の首都ガゼ、この屋敷といい、文明が進んでいる。
絵画が壁には展示してあり、隅には鎧兜が置いてあったりと部屋は高級感が漂っていた。
そこへカツカツと音を立てながら女性が入ってきた。
派手なドレスに身を包み、頭には一輪の薔薇が刺してあった。
「レイ、ハウル。ソナタらを呼んだのは他でもない。例の件じゃ。だがその他の者は誰じゃ?信頼出来るのか?」
「生死を共にすると誓いあった仲です」
ハウルが珍しく敬語を使った。
やはり先輩は先輩。常識がある。
例の件についてレイ、ハウルは既に聞かされているらしかった。
俺やナミといった者達の助けが必要な件なんじゃないか?
俺はゴクリと唾を飲み、アイシャさんの話を待った。
「そうか……レジスタンスも七人に膨れ上がるか」
「いえ、八人です。ギルガメッシュがいます」
俺が思わず口を挟んだ。
鋭い眼光で睨んでくるアイシャ。
よく見れば美人なのだが、恐ろしい目つきだ。
「す、すみません……」
と引き下がった。
二十五歳くらいだろう。
貴族らしく上から目線が目立つ。
でもレジスタンスって?
まさか帝国に楯突く気?
「今日は不思議な日……」
とナミ。
おい、お前ら二人黙れ、と目で訴えかけるハウル。
ナミがそうであるように、アイシャさんも強いのかなぁ……。
なんかハウルの反応見てるとそんな気がしてくる。
「で、レジスタンスのリーダーじゃが……長きに渡ってココナツ村の安泰を保ってきたレイ殿に任そうと思う。妾は面倒事が嫌いじゃ」
面倒事が嫌いなのに帝国に楯突くのかよ!
掴めない人だなー。
今まで会った主要人物の中で唯一苦手だ。
だがこれでハッキリした。
俺の運命は帝国の四天王に立ち向かう事。
ナミちゃんの心を射止め、王になる……ん?
アスカが俺とナミの関係性を感じだったのか?
睨んでる……ああ女の子は謎だ。
と、とにかく!
俺はココナツ村に居た時より充実してるし、アスカとも一緒に過ごせるわけだ。
今日始めてアスカの俺への想いの琴線に触れたわけだが、これが長い葛藤を生む事になるなんてこの日はまだ気づいてなかったんだ。
ーー
翌朝、珍しく早く起きた俺はアスカとギルガメッシュと共に食料の買い出しに行く事になった。
ガゼの町は流石に賑わっており、ここからなら飛空艇に乗ればアクゼまで一瞬だろう。
誰もがそう思いそうな場面でアイシャの意見は慎重だった。
「妾はここのところ帝国に目をつけられている。飛空艇に乗るのは至難の業だろう。歩いて行こう」
如何に貴族と言えど自身の飛空艇を買うのは無理があるのか。
とすれば帝国の飛空艇に乗ることになるが、アイシャはそれは断られると踏んだのだろう。
つまりギルガメッシュに食料を運んでもらう形で、歩いて行く事になるのだ。
尋常じゃない距離の徒歩の旅になりそうだ……。
俺が朝っぱらからどんよりしていると、アスカがそれを察したのか「道中で修行になるんじゃないか?」と小声で言った。
帝国の者に聞かれるのが危険なのは百も承知だが、改めてとんでもない事に巻き込まれたもんだ。
そうそう、お前は何でレイさんに着いてきたんだよ。
丸腰じゃ危ねーぞ?
俺はガゼの城下町を歩きながら「レイさんも無茶させるよなー」と漏らした。
するとアスカから返ってきた言葉は意外なものだった。
「実は二ヶ月ほど前から白魔法が使えるようになったんだ。パーティーには必須だから着いてこいって」
白魔法?
仮に下級だとしても大いに役に立つ。
寧ろキーパーソンになり得るとも言える。
一種のチームの生命線だ。
「スゲーな」
俺は素直に驚いた。
回復を司る白魔法はゆくゆくは解毒や麻痺直しといったことも可能になるはずなんだ。
七人……いやギルガメッシュも入れて八人なら、修行の末に神の子らに勝てるかもしんねぇ。
いつもポジティブなのが俺の良いところだった。
「で……ナミとはどういう関係なんだ?」
え?
こんな直球が来るとは予想だにしなかった。
もっとクールで恋とか愛とかには無関心な、強いて言うなら一匹狼キャラのお前が、何でそんなこと聞くんだよ?
いや分かってる……この感じ……間違いねぇ。
俺がポケットのアスカのカードを握りしめ、
「俺は……別に……その……」
と誤魔化そうとした、その時だった。
後ろから誰かに抱きつかれた。
この長い金髪は……ナミ!?
「マークは食べ物の事とか分からないでしょ?買い出しならアタシとアスカちゃんで行ってくる。じゃね〜」
ナミちゃん……イメチェンってやつか?
可愛いかも……って何で誤魔化そうとしたんだ、俺!
漢への道は遠いなぁ……。
更に可愛くなった、つまりイメチェンしたのを知ってからの後悔だろ……レイさんの説教パターンだ、コレ……。
トボトボと歩いてるとギルガメッシュが「そんなに自分を責めるな」と言ってきた。
珍しく優しいじゃん!
立ち直りが早いのも俺の良いところだ。
そうだよな、俺はまだ十七なんだ。
五十歳のレイさんに説教されても焦ることねぇ。
「ところでギルガメッシュって何歳なんだ?」
俺の質問に対しギルガメッシュは若干動揺したようだった。
雷を放てる白馬。
十歳は下回らないだろう、と思っていると返事が返ってきた。
「俺は………………元は人間だったんだ。帝国四天王でも一番厄介な長男ヨシの呪いだ」
四天王ヨシ…………!
一度石版を見ただけで四人のコードネームを丸暗記したわけではなかったが、やはり悪さしていたか。
「彼らは既に六十前後だが、容姿は若い。強力な呪文や能力を使う」
つまりレジスタンスとして奴らを倒すわけだなー。
恐らくヨシを倒されないと呪いは解けないパターンだろう。
俺が四天王への敵意から殺気を露わにしているととんでもない情報が耳に飛び込んできた。
「四天王末っ子のガク様が、此処ガゼの町においでになるそうよ!あと一時間くらいでご到着になるそうよ!」
町民の声が聞こえる。
っていきなり四天王と戦えるはずもない。
だって神の子だぞ、神の子。
此方は黒と白の下級魔法に剣士一人、射手一人、魔法の使える白馬一頭、ガトリングガンの爺さんに、謎の貴族の女性、そしてヒュドラである。
創造主の血を引く彼らには、せめてアスカらが中級魔法を使えるようになってから挑みたい。
七対一に戦況をもつれ込めさせるのも至難の業だろう。
「ガク様」は町民に人気だそうで、どうやらイケメンらしかった。
だがレイさんやアイシャさんは分かっている。
この大陸の政治が腐りきっていると。
七人の中で俺が王に相応しいと断言したわけじゃないけど、とにかくギルガメッシュの呪いは解いてやりたい。
「修羅の旅になるぞ」
気づけば背後にアイシャが立っていた。
「妾は武器など必要ないが……ハウルと一緒に武器屋を訪れてはどうじゃ?」
武器など必要ない!?
その華奢な身体で?
いや言われてみれば引き締まっているのか……ってそうじゃなくて。
ガクの到着まで一時間……俺はアイシャの半ば護衛のような立ち方をしているハウルと合流し、町の武器屋へと赴くのだった。




