第三十五話「世界の行く果て」
対ムドー戦の作戦は立てられた。
手短に話すとこうだ。
先ずパトラが能力吸収の力を発揮し不老不死を無効化。
五人で力を合わせムドーを倒す。
ソラ神が一人でムドーを倒せた過去がある事からこの作戦は現実的だった。
だが相手は元地底の覇者。
万に一つだが全滅という事も考えられる。
「本当にスカーロイを倒したのはムドーで合ってるのー?」
首を傾げるパトラに対しキャンディスが、
「シヴァの占いに……賭けてみる?」
と一言。
俺は精神を集中した。
あのイザベル譲りの力をここで発揮できるようになれば未来は明るい。
現にゼオとの修行でマンティコア譲りの戦闘能力は恐らく手にしている。
「頑張れ!」
とキズカ。
三人の女性の熱い視線にミオナの心が揺れ動く。
ーー見えた!ーー
あの日スカーロイを葬ったのはムドーで違いない!
奴は此処レイピアの地下道にいる。
自分でもそこまで脳裏に鮮明に映し出されるとは思わなかった。
発動率は百パーセントではないが、まあ占いの力をほぼモノにしたと言えた。
レイピアの地下道。
俺達五人は視線を合わせ、大きく頷いた。
「本当にパトラは能力を吸収出来るのか?」
ミオナがまだ完全には信じらなれない、との口調で言った。
だがパトラは過去にアイシアのテレパシーの能力を奪った事がある。
今思えば恐るべき力だがムドー攻略には必須と言えた。
(やるじゃねーか……四人ともお前に気がある。楽園と揶揄される場所に連れていくのがお前の使命かもな)
現実世界……。
俺はアーロンの囁きの示す場所への行き方が分からなかった。
先ず五人全員分の神秘の秘薬を集めなければならない。
だがこのご時世、それは不可能である。
俺はアーロンの言葉を頭の隅に押し込み、ムドーとの戦闘に心を集中した。
スラム街を抜け地下への入口に迫り寄った。
この鉄の扉を開けて少し進めばムドーがいる。
俺達は意を決して中へと進んだ。
居た、見たことある仮面を付けた男。
だが相手はあのサガより数倍強いと覚悟しておいた方がいい。
早速パトラが前衛へ躍り出た。
ふん!と両手を合わせ念じる。
僅か数秒で終わったから驚きだ。
パトラもキャンディスに負けず劣らずの天才かもしれない。
それはさて置き、これで恐らくアルマクルスを持っていない他の四人もムドーに傷を負わす事ができる。
キズカとミオナが同時に斬りかかった。
二人共素早い動きだったがムドーはこれを大剣でガード。
しかも片手で、である。
流石はスカーロイを倒しただけあって腕力も物凄い。
もう片方の手で闇化した炎属性上級魔法「ダーク・ヘルフレイム」を俺に向けてぶっ放す。
キャンディスは全てを超えし者の召喚で忙しく、パトラもやや反応が遅れた。
俺は闇のマグマを三日月の盾でガードしようと試みたが、その威力は絶大。
鎧の上からもダメージを負った。
「ヒーリング・ノヴァ!」
とパトラが回復魔法を入れる。
やはり五人で力を合わせればムドーとも互角以上に戦える。
敵が魔術を放っている隙にミオナが「真・桜竜の舞」を放った。
あのレナをも彷彿させる一撃は確実に幾らかのダメージを負わせたはずだ。
キズカを追撃に移るが敵の念力が間を阻んだ。
宙を舞い壁に打ち付けられるキズカ。
そして休む間もなくムドーは白魔道士であるパトラに向けて幻術のようなものを放つ。
操られたパトラは回復魔法をムドーに施すのだった。
今までの敵とはレベルが違う。
もし不老不死が取れてなかったらと思うと足が震えてきそうだ。
しかもあろう事かムドーはパトラを盾にしている。
これでは俺とミオナも攻撃し辛いことこの上ない。
キャンディスの召喚はもう少しで完了するはずだが、それまでにパトラをなんとか元の状態に戻さねーと。
ムドーは無口だった。
だがあのスカーロイを殺した事は許されたものではない。
とにかく神々との戦争前に不穏なモノは潰しとく!
俺はムドーが魔術を放とうと身構えた一瞬の隙を逃さなかった。
魔導槍を投げる。
それは仮面を付けてある敵の顔面に命中した。
怯んだ隙にミオナがクロス斬りを見舞う。
俺はパトラの下へと駆け寄るのだった。
「目を覚ませ!俺が分からないか!?」
と肩を揺さぶる。
その時地下道が小さく揺れた。
キャンディスが全てを超えし者を召喚したのだ。
俺はパトラの手を引きキャンディスの後ろへと誘導した。
だがその間、ミオナはムドーに斬られていた。
大剣による攻撃はあの神々に最も近い女性である彼女でなければ一瞬で消滅させられていたはずだ。
俺は唇を噛んだ。
レイヴンから譲り受けた腰に差した暗黒剣で、ムドーに正面からぶつかっていく。
「全てを超えし者」と名のついた機械型の召喚獣だがその力はムドーに匹敵するとは思わなかった。
だが俺と力を合わせればーー奴を止められる!
俺は何としてでもミオナにトドメを刺せまいとゼオから教わった静と動の呼吸で一気に攻め上げた。
唸る暗黒剣。
敵の大剣が迎え討つ。
その時、アーロンの声が聞こえた。
(ソラの息子である俺がお前に能力を携えて消える時が来た。その名もインフィニティ・シールドノヴァ。付いたり消えたりはあるものの、発動中は無敵になれる代物だ。じゃあな。ミオナの事頼んだぜ)
インフィニティ・シールドノヴァ。
神々の血を引く者の贈り物だと?
アーロンとは短い間だったが仲良くなれた。
アイツの分まで俺は戦う。
敵のダーク・ヘルフレイムを俺は無敵の力で受け流してみせた。
戸惑うムドー。
今しかない!
全てを超えし者のビームサーベルによる連続斬りと、俺の暗黒魔導斬りはムドーをあの世へ葬った。
苦しい戦いだったが得たものは大きい。
完全に我に返ったパトラがミオナの傷を治癒するのだった。
その時だ。
角笛の音。
どうやら北東から神々の軍団がレイピアに向けてゾロゾロと侵攻中だということだ。
迎え討つには俺達五人の力が不可欠だった。
アーロンがくれた力……無駄にはしねぇ。
俺は転がり落ちていた魔導槍を拾い上げ地上へ出た。
どうやら鍛冶屋のジンも黒騎士ゼオも戦争には参加しないようで、ネロという男が一人で大軍を睨み返していると言う。
相手の兵士の数は二千。
総大将はソラ・ボナパルトで、ナオミとアイシアをはじめフィーネやアシュラといった者たちもいるそうだ。
勝てるのか。
レイピア軍はたったの五百。
しかも寄せ集めの兵である。
俺は集った兵たちをネロに任せ、左サイドから突っ込む作戦を立てた。
つまりネロたちに気を取られている隙に総大将の首を狙うのだ。
それしか勝ち筋がない。
戦場は砂地だった。
奇跡でも起きない限り、こちらの敗北は濃厚だった。
それでも俺は神々に抗うと誓ったんだ。
行くぞ皆!
作戦通り左サイドから隙を伺った。
意を決して敵軍に攻め込んだ。
魔導槍で突き崩す。
無論、自分が先頭だった。
背後でミオナがクロス斬りを敵に放っているのを感じる。
迷わずソラの元へと突き進む。
一、二度斬られた感覚があったが、今の自分は半分不死身だった。
そしてパトラはムドーから能力を奪い不老不死である。
背後でキズカが倒れているのを感じた。
ここで俺が止まれば皆殺られる。
何より総大将は直ぐそこなのだ。
背後でキャンディスの悲鳴が聞こえた。
こんな戦争初めから無茶だったんだ。
脳裏で何度も自らを諭す声が聞こえた。
そして遂にミオナも死んだ。
上空ーー。
烏の羽をバタつかせたレナが猛スピードで接近してくる。
敵の武器は太刀阿魏斗。
ハモンの生霊が潜んでいるとの噂だ。
槍と太刀がぶつかった。
円を描くように兵たちが場所を空ける。
「俺は一度お前を殺し損ねた。そんなもんレナ様のする事じゃねーんだよ!」
一騎打ちである。
パトラも見ている。
二人の暗黒魔導斬りがぶつかり合う。
衝撃波は戦場全体に響き渡った。
俺はムドー戦からの連戦に疲弊していた。
パトラのタイラント・ノヴァがあれば勝てる。
だが男の一騎打ちでそれは無しだ。
レナが黒、ソラが白、ならば自分は灰色だった。
非情にもキャンディスたちを死なせ自分もレナに殺られようとしている。
インフィニティ・シールドノヴァは時偶無敵状態が外れる時がある。
その瞬間に斬られれば終わりだった。
レナの放つ最上級剣技「虹」。
空間を侵食していく一撃を、なんとか盾と鎧で耐え凌ぐ。
凄まじいダメージだ。
二発目は到底耐えれまい。
だが大技を放ったレナも上空で息を切らしている。
今しかない。
パトラの回復魔法を待たずとも勝ってみせる。
ハァァァァア!!
キャンディスはムドー戦で全てを超えし者を召喚したため、連続でそれを召喚するには至らなかった。
だが彼女はアイツを遺してくれた。
黒き炎のフェニックス!
召喚士が居ないフェニックスなど持って数分だろう。
だが死に際に放ったキャンディスの意思を無駄にはしない。
不死鳥斬!!!
光るアルマクルス。
俺は黒鳥の羽に埋もれながらも暗黒剣から奥義を放った。
レナが敗れた事で目の前の空間が裂け、現実世界らしき景色が目の前に拡がっていた。
勝ったのだ。
あの伝説の創造神に。
近くにいたのはパトラだけではなかった。
レナとグレン、ミルナを除く伝説の五神。
これ以上血を流すまいとソラは握手を求めてきた。
俺がレナに代わる六神目、そして不老不死のパトラがあのミオナすら成し得なかった七神目の座に就く形となった。
だがそんな事ははっきり言ってどうでも良かった。
俺とパトラは遂に楽園と揶揄される現実世界に辿り着いたのだから。
抱き合いキスをした。
ずっと前から俺を想っていてくれたパトラ。
キズカたちの分までこの新たな世界で生きるんだ。
空には大きな虹が掛かっていた。
最早ソラ達への殺意は消沈し、薔薇色の未来への一歩が今まさに踏み出されたと言えた。
スペインーーこの場所の地名だそうだ。
七神がそれぞれの居場所を求めて散っていく。
アルマクルスはまだ自分の手元にあった。
ハーレム生活は成し得なかったが大き過ぎる前進を実現した。
上空を、烏が舞っていた。
「来世会おうな」
俺はレナの幻影を見送った。




