第三十四話「修行」
夜、傍に置いてあったアーロンの生き霊に話しかけられた。
繰り返すようだがアーロンはソラ神とアイシア神の息子で、現在俺が装備している黄金の鎧に取り憑いている。
(どうやらパトラ、キャンディス、キズカの三人の娘全員が気になるらしいな。まあ珍しい事じゃない。俺にも何人か側室はいた。けどなぁ……女への執着を取っ払わねぇと真の漢にはなれねぇ。闇の力を司るレナ神の真似事も、まあ悪い案じゃねえかもな)
執着……闇の力……?
俺は夜中に起き上がり、レイピアの主のベランダに出た。
そこに居たのはレナとも交流があったレイヴン。
何らかの理由で眠りにつけなかったのだろう。
俺はクロウ家の戦士に闇の力について聞いてみた。
暫くしてレイヴンが出した答えは「デビルズ・ゲート」と呼ばれる門を潜れとの事だった。
暗黒剣を持って入ればサタンの亡霊との邂逅が可能。
そこで闇の力を引き出してもらうのが今我々に出来る一番の近道じゃないかと。
レイヴンもアナザーワールドに来て長い。
デビルズ・ゲートと呼ばれる門を作り出すことすらクロウ家は可能なのか。
名門クロウ家と並ぶレノン家はマンティコアの血筋だと俺は最近知った。
つまり……サタンは遠い祖先との繋がりが……。
俺はゴクリと唾を飲み、禍々しい雰囲気の門を潜った。
中は真っ暗な空間だった。
暗黒剣を手にした俺に、サタンが語りかける。
「ワタシに力を求めるのですね。良いでしょう座禅を組みなさい。自分に揺るぎない絶対的自信を持つこと。肉体の強さもそれを後押しするでしょう」
頷き座禅を組む。
目を閉じた時、過去の親父との風景が映し出されるのだった。
これはサタンの幻術……!
今回はパトラの助けには縋らねぇぞ……!
俺は額に汗をかいていた。
これを乗り越えなきゃ、俺は漢にはなれねぇ。
幻術は更に強さを増した。
父親が暴力を振るうなど想像世界では良くある事だ。
そもそも秩序がしっかりしていない。
これが現実世界だと全く変わってくるとの噂だ。
俺は幻術の中で親父を睨み返した。
恐怖はもうない。
レナ戦でみせた雄叫びを上げるような気迫は、サタンの幻術を無に返した。
俺はサタンに別れを告げ、デビルズ・ゲートを出た。
出てきた俺の気迫で何かを察したのかレイヴンはこう告げるのだった。
「暗黒剣は君に譲るよ。どうやら僕はこのパーティじゃ足手まといだ。世界を旅し、帰ってきた時君が王だったらいいな」
レイヴンとは二年間の付き合いだった。
元々和平派で、温和な性格だった事は間違いない。
俺はレイヴンとがっしり抱擁をかわし朝まで一眠りを図るのだった。
強い肉体は自信を後押しする……。
フカフカのベッドで俺は考えていた。
スカーロイは銃使いで、タランチュラの能力も自分とは異質だった。
もっと自分に近い戦い方の強者に弟子入りするか……。
俺はキズカの師匠ゼオはどうかと思案し始めていた。
地底四天王の多くは改心し、彼なら闇の力の使い方を上手く伝授してくれる期待も持てる。
そこまで考えやっと眠りについた俺は、気がついた時には昼過ぎだった。
パトラ、キャンディス、キズカ。
三人全員と付き合うには執着じゃない本当の愛で接さないと……!
俺は昼食を手短に済ませ、キズカにゼオの居場所を聞いた。
此処から東の森を抜けた所に黒騎士の丘がある、其処こそキズカがゼオから剣術を教わった場所だそうだ。
父親を幻術の中で追い払った俺の気迫は中々のものだろう。
だが戦闘はアルマクルス頼みだということは否めない。
神々や能力者に比べ、腕力も劣っていた。
一人、レイピアを離れ森を進む。
キズカと一緒に来ても良かったかもしれないが、何にせよ修行はゼオと二人きりでするつもりだった。
そこまで薄暗い森、というわけではなかった。
視界は良好で、鳥のさえずりも聞こえる。
暫く歩いていると、前方に女の子がしゃがみ込んでいるのが目に映った。
語りかけてきたのは鎧の生き霊、アーロンだった。
(アレは九番目の神に最も近いと呼ばれる女だぜ?なんてったって俺の妹だからなぁ。名前はミオナってんだ)
神々の子孫ミオナ……!
ハッとする程の黒髪は左右に束ねられていた。
所謂ツインテールってやつだ。
ブラスト神に瓜二つの顔立ちは確かな遺伝子を感じさせるものがあったが、こんな所でどうしたんだろう?
「あの……君……どうしたの?」
「私は旅の者だ。麒麟との戦いで負傷した。油断さえしなければ……!」
(どうだ、可愛いだろう?お前の側室に加えてもいいぜ?)
俺は側室という言い方が嫌いだった。
だが負傷した女の子を見捨てるという選択肢はない。
俺はお姫様抱っこでミオナの身体を持ち上げた。
「ちょっ……何をする!?」
「レイピアに戻れば回復薬もあるし、何なら白魔道士もいる。俺は一旦君を街に連れて帰る事にした」
「男など信用できるか!」
「心配すんな。回復した後は俺の元から去ればいい」
このセリフを今パトラに投げかけれるとは到底思えなかった。
やはり修行は必要だな。
執着からの脱却。
例え愛をくれる美少女であっても依存するようじゃあ漢とは言えない。
俺はミオナを抱えたまま歩いていると、又もやアーロンが語りかけてきた。
(まさか俺の妹が気に入らねぇって言うんじゃねーだろな?ふざけやがって。ミオナな双剣使いでナオミ顔負けの美少女だぞ?)
ミオナが美人、それは分かってる。
ただ、俺にはパトラ達がいるんだ。
あのキズカでさえ正式には認め合ってなくても恋仲にあるんだ。
いつか告白するとしたら三人全員にだ。
その時が来たらミオナとの関係も終わり。
どっちにしろ男嫌いみたいだしな。
アーロンを黙らせ歩くこと五分、前方に異様なオーラを感じた。
他でもない黒騎士ゼオである。
どうやら回復薬を所持しているらしく、俺とミオナはお礼を言った。
「女子に優しいのだな」
「……………………当然の事をしたまでだ」
ゼオと目が合う。
兜の上からでも殺気にちかいものがぶつかり合うのを感じた。
ゼオの所持していた回復薬のおかげでミオナの傷は癒えたのだが本題はここからだった。
「……俺を弟子にしてください!」
レイピアの防衛も兼ねてスカーロイ達は街に残るべきだった。
だが俺はーーパトラ達の次期彼氏としてやらなきならない事がある。
いつしかアーロンの上から目線も収まっていた。
ーー優しいだけじゃ愛せないーー。
俺は真剣な眼差しでゼオを見るのだった。
「悪くない面構えだ。良いだろう暫くの間弟子にしてやる。そこの女子はどうする?確か神々の子孫だったか?」
「私は……」
俯くミオナ。
どうやら訳ありのようだった。
女子の一人旅は確かに危険を伴う。
レイヴンが欠けた中、一緒にいて頼もしい存在である事は確かだ。
「深くは詮索しないけど、この世界には麒麟よりももっと危険な化け物も多い。俺と一緒にゼオ師匠の所で鍛えないか?」
どうやらゼオは街に食料の買い出しに行っていたようで、これから丁度黒騎士の丘に戻る所だったという。
ミオナは頷き俺達は丘を目指すのだった。
黒騎士ゼオーー。
地底四天王きっての硬派で剣の実力は高い。
また不老不死としての名も高く、千年以上このアナザーワールドに居座っている。
アンドロメダやイカロスといった幾多の強者が消える中ゼオの存在は安定していた。
丘に着いた。
先ずは殺気をぶつけて来いと言われたので、ミオナと一緒に並んで黒騎士に向かって気力をぶつける。
今のところ、若干ミオナの方が強いらしい。
恐るべき女だった。
流石神々に一番近い人と言われるだけある。
それにしてもミオナは良い匂いがする……って我ながらキモいなオイ。
とにかく俺はこの女の子より気弱なのだ。
キズカにしろキャンディスにしろとんでもない力を秘めてると言っても過言ではない。
つーかキャンディス化け物だぞ……。
俺は静と動を極めた呼吸法などを習い、一週間が過ぎた頃だった。
パトラからのテレパシー。
只事じゃなかった。
なんとあのスカーロイが暗殺されたという。
殺したのはソラじゃない。
彼はスカーロイとは絆があった。
あのスカーロイを殺せるほどの刺客、消去法でムドーの名が挙がった。
ムドーはゼオの実の兄である。
こうしてはおれんと俺はレイピアに戻る決意をした。
「ミオナ……君のような強者は是非来て欲しい。今人間側は人材不足なんだ」
この一週間でミオナとの絆が芽生えなかったというわけではなかった。
ゼオの鍛錬は厳しく、元弟子のキズカの強さにも納得がいった。
ゼオ師匠……アンタの事は忘れない。
だがレイピアを指揮する立場的にもう一緒にはいられない可能性が高い。
ミオナも俺達と居るほうが安全だよ。
アーロンがニヤリと笑ったような気がした。
森を越え、レイピアへ。
スカーロイは本当に死んでいた。
あの神々にも匹敵する強者として名高い彼だが、ムドーには敵わなかったというのか。
「許さねぇ……師匠の兄だが知らねぇが、殺したのが本当にムドーなら構うことねぇ、八つ裂きにしてやる」
俺は握りこぶしに力を込めながら言った。
ミオナを皆に紹介しこのパーティはハーレム状態になった。
あのレナすら羨むような五人体制だ。
男嫌いのミオナが俺に恋心を抱いているかは疑問が浮かぶ所だが、この状況は完全に俺有利だった。
何しろパトラ達がいるからだ。
パトラの猛アタックはミオナの心にどう映るのか。
あ、アーロンお前居たんだっけ……。
鎧に棲み着いた生き霊がとうとう邪魔になってきたが、そんな事はまあいい!
俺はパトラ、キャンディス、キズカ、ミオナと共に神々と戦う。
ゼオを仲間に加えるのは無理があるし、何よりこの編成を気に入っているのだ。
ミンフィアにいた頃よりは強くなれた気がしていた。
先ずはムドーを叩きのめし、それから攻めてくるソラ軍を迎え討つ。
俺は先頭に立ちこの街を守るつもりだ。
いつしかソラ軍の侵攻にも怯えなくなっていた。
神々が何だ、かかってきやがれ!
二十九歳になってやっと長年自分がこうありたいと思う姿に追いついてきた気がした。
ムドーを倒し、レナも倒す!
現実世界で四人と過ごす!
俺の気迫が以前と違うのをパトラ達は感じているようだった。




