第二十七話「漢の闘い」
俺、ソラ・ブラストと仲間たちはサルデアの山を目指していた。
レイヴンが遺した情報をレナが脳内で捻り出し、そこに地底へワープする術が遺されているとされたからだ。
だが地底人が千年間も南から出てこなかったところをみると、かなり見つけにくい仕掛けか或いは一方通行だった。
念入りにモドリ玉を用意し合成獣に乗り、テルミナ上空を越えミルナ島に到達する。
黒騎士を倒したら直ぐ元の時代に戻ろうという作戦だった。
一瞬の気の緩みも許されない。
アイシア、そしてアシュラの為にーー。
七人が手分けして山を散策し、不思議な魔法陣を見つけるまでそう時は掛からなかった。
問題は魔力を注入しないと仕掛けが作動しない仕組みになっていることだった。
レオン・ライデンと同じ系統の魔力。
レオンの子、マンティコアの弟子だったナオミなら或いはだった。
ナオミが手を翳し魔力を放出。
無事魔法陣は赤から白へと色を変えて光りだし、我々七人はタイムワープと魔法陣によって千年前の地底へと足を踏み入れることに成功した。
南サヴェア。
千里眼を駆使したナオミが地名を言い当てた。
遥か北に北サヴェアがあるとの話だ。
それにしても暑苦しい所だ。
アルマクルスを持っている者でないとそもそも黒騎士にダメージを与えられない為、他の者は黒騎士対ソラのタイマンを実現させるのが現実的と言えた。
それにしてもタイムワープは千年単位でしか発動できないのか。
今更ながら驚きを隠せない。
まあいい。
どのみち黒騎士と戦うなら若造の頃の方が良い。
俺がアルマクルスをギュッと握りしめているとレナが「俺がやろうか?」と言ってきた。
確かレナは不死身の身体を持つ。
アルマクルスを彼に渡せば黒騎士への勝機はある。
でもーー。
どうやら魔法陣はナオミのような者が魔力を注がない限り使えないようだった。
それはさておきアルマクルスである。
レナに任せるかそれとも俺が自分の使命と受け取るか。
グレンのサバイバルが開催された時、アルマクルスは俺を選んだという見方ができる。
人狼の鎧がナオミ・ブラストを選んだようにーー。
母の愛が詰まった十字の御守りは、今や体の一部となっていた。
「レナに任せたらどうだ?」
とスカーロイ。
俺の身を案じているようだ。
先ず黒騎士レベルと戦うにはインゼクターである事が絶対条件になる。
それはそうとして黒騎士が一対一のタイマンに潔く引き受けてくれる可能性もある、とレナは言う。
「分かった」
俺は大人しく引き下がった。
まだ神族としての特殊能力が開花していない今、自分が黒騎士に挑むのは無謀だった。
俺だって自分と相手の力量を計る事ぐらいはできる。
でも真・ハヤブサ十人斬り試したかったなー。
アルマクルスを一時的に手渡す。
もしレナが勝ったら、いやレナが負けても直ぐにモドリ玉を使う手はずになっている。
繰り返すようだがレナ・ボナパルトは不死身である。
暫く歩いていると城らしき物が見えてきた。
黒騎士に一騎討ちを挑みに来た、と素直に言ってみる。
彼が本当の騎士道タイプなら応じるはずだ。
最低最悪の事態となればモドリ玉でおさらばさ。
少ししてから城の門がギギギ……と開いた。
「我の名はゼオ。誰だ一人で挑んでくる愚か者は」
不老不死とは言え、一対七ならダメージは負わないにしろロープでグルグル巻きに縛り上げる事は可能だ。
だが黒騎士ゼオの軍隊全部を相手はしてられない。
やはりここは一騎討ちだった。
それにしても流石黒騎士、とんでもない気迫だ。
「阿魏斗の生霊、ハモンが強い敵と遭遇して唸ってる。早く始めようぜ」
レナは黒騎士を全く持って恐れてはいない様子だった。
あの域に到達するまで長かっただろうな。
自分も同じ二十八歳として絶対に負けられない。
久しぶりにアルマクルスを下げたレナと、黒騎士ゼオの闘いは始まった。
敵兵も城壁からいつでも矢が放てる状態で此方を見守る。
それにしても一騎討ちに持ち込めたのはラッキーだった。
後は父さんを信じるだけだ。
敵も、剣を抜いた。
大剣使いのようだ。
それ相応の斬れ味を恐らくは誇るだろう。
ナオミを始めキャンディス、そしてスカーロイといった者達が固唾を呑んで見守る。
動いたのは二人ほぼ同時だった。
太刀と大剣がぶつかり合う。
火花散る最初衝撃はやや黒騎士有利に見えた。
神々顔負けの腕力だ。
レナはサソリのインゼクターだぞ?
グググッと押し切り上を取るゼオ。
兜で顔は見えないが恐らく全力でレナに向かってきている。
とは言えレナも歴戦の猛者。
相手有利の鍔迫り合いでも、何処か余裕がある。
それもそうか。
彼は神々が認めた不死身の男。
千里眼やテレパシーは強力だが、不死身の能力こそ数ある神族の能力の中でも一際異彩を放っている。
ゼオも相手が雑魚では無いことを見抜き、戦いにこれから本腰を入れようと言った具合か。
「頑張って……」
指を組み見守るナオミに、意味深な視線を送るネロ。
自分より強い二人の闘いを食い入るように見守るイカロス。
そしてキャンディスは目を閉じてブツブツ祈りを捧げていた。
「辞めろ。補助魔法はよせ。これは男の戦いだ」
スカーロイの言葉にキャンディスは渋々頷いた。
鬼人化魔法があれば押し返せるだろう。
「クッ!」
堪らず押し切られ、レナが横に斬られた。
痛みは感じるだろう。辛かろう。
キャンディスがこっそり助太刀しようとしたのも無理はない。
だが斬られて尚、レナは自由に動ける。
アルマクルスによって勝機はある。
敵の心臓を貫いた。
不自然極まりないレナの動きに成すすべもなく倒れるゼオ。
計画通りだ、逃げよう。
俺達はフィーネイル行きのモドリ玉を使い、そこから黒紫の渦を通った。
レナはあの黒騎士ゼオにタイマンで勝ったのだ。
本当によくやってくれた。
フィーネイルには到着したばかりの飛空艇が会ったが、当然アイシアはまだ殺されていないとナオミが千里眼で言った。
「飛空艇の中にいたゼオ様が消えましたぞ」と大騒ぎだ。
「ナオミ、瞬間移動でアイシアとアシュラを連れてきてくれ。頼んだぞ」
どこか記憶を取り戻しそうな気配すらする、レナを見つめるナオミの目は輝いていた。
まあ肉弾戦に勝利したのだから無理もない。
ナオミは飛空艇の方向を見て消えた。
フィーネイルの町のスクリーンにはキアラス、又の名をハーピィ・クィーンの映像が大々的に映し出されていた。
「この町はキアラス様に任せな。地底四天王の紅一点。ゼオはドジで消されたようだけど、あたしゃ負けないよ」
地底四天王……!
まだゼオと同じレベルの奴が三人も居るのか……!
黒騎士は地底人のリーダーじゃなかった。
それにキアラスを支持するフィーネイルの民は一体……。
「何か裏がありそうだな。王女様と合流出来次第、ゼラートに帰るぞ」
とスカーロイ。
ナオミが究極剣技を使ったためかアイシアとアシュラの開放に問題は生じなかった。
流石はバタフライのインゼクター。
そしてアイシアは俺を見て一目散に駆け寄ってくれた。
「帰るぞ」とゼラート行きのモドリ玉を我々は使い、ネロとイカロスを含めた九人がテルミナ城に集う形になった。
アイシアに超回復薬を使う。
アシュラにも。聞けばアルマゲドンは他界したという。
貴重な戦力と同時に大切な仲間を失った。
ソアクーラがこうして元気にいられるのがせめてもの救いだ。
少し見ない間にアシュラはタイムワープの技を習得していたようだ。
ネロが口を開いた。
「これで俺のここに居る意味もなくなったな。何よりレナは本当の男だ。ナオミとお似合いだ、悔しいがな……」
「待てよ。お前はもう俺達の仲間だぞ」
レナがネロを引き留めようとしたその時だった。
「見て!あの町!グレンソールじゃない?」
島亀が此方に動いたせいで、今ではテルミナ城のバルコニーからグレンソールが見える。
港町グレンソールはナオミが生まれ育った場所。
行けば本当に記憶が蘇るかもしれない。
「タイムワープがもし必要なら言ってくれっス」
アシュラがもし捕らえられた時、縛られていなかったら違う時代に逃げ果せたかもしれない。
いや死に差し迫る状況が、あの技の習得に繋がったのか。
俺はナオミとレナに続きグレンソールへと赴いた。
「この噴水!マンティコアって人が昔居たんだよね?それから……!」
「それから?」
「貴方に会って……」
ナオミのレナを見る顔がどんどん笑顔になっていった。
そして抱きつく。
息子ソラ(俺)の事も思い出してくれた。
俺はレナにナオミとの二人だけの時間をくれないか提案した。
噴水広場で母さんと二人きり。
レナは快く承諾してくれた。
「母さん……話せて感激です」
「私もだよ、ソラ」
「一体何から話したら良いか……」
噴水の近くに腰掛け夕日を眺めながら話す。
「俺、父さんの事誤解してました。やっぱり母さんが選んだ男だけある」
「敬語を使うのか、ソラ」
「…………」
抱擁をかわす。
自然と涙が出てきた。
「会いたかったよぅ」
今はカッコ悪いとか気にしねぇ。
二十八歳の母さんに頭を撫でてもらう。
思えばファエンガ夫妻は温かかった。
それでも何処か壁を感じていた。
俺はアシュラに真実を告げられて以降、ずっとソラ・ブラストを名乗り続けてきた。
今までの孤独から開放された気がした。
夜。スカーロイとレナに呼ばれ、テルミナ城のベランダでこれからの作戦会議が開かれた。
地底四天王の一人、黒騎士ゼオを倒したは良いが同じクラスのがあと三人も居るという。
おまけに四天王を従えるリーダーの存在も明白になってきた。
「ナオミはもう寝ちゃったか?」
「今日は色々あったからな……」
「アイシアも寝てるよ」
ネロはもう暫く此処に留まるようだった。
ただいつ消えてもおかしくない雰囲気を漂わせていた。
イカロスの「斬鉄拳」をアシュラに習わせてはどうかの話が挙がったが、もっと他に話すべき内容があるはずだった。
北での四天王キアラスの支持率の高さ。
何処から資金を得ているか想像すらしたくないことを平気でやっていそうだ。
「北サヴェアはフィーネイルの真下付近という捉え方でいいだろう」
と来れば南サヴェアはサルデアの真下か。
何にせよ南の大陸は北や地底との全面戦争に突入しなければならない。
「アルマゲドンに杯を」
スカーロイの言葉に親子で頷く。
そこへまだ起きていたのかイカロスが姿を現した。
「私は今日、自分よりも遥かに強い二人の騎士を目の当たりにした。とてもじゃないがこの先自分が役に立つとは思えん」
「去るのか?」
「留守を任せよって事だ。北の大陸へはお前たちが行けばいい」
この意見には賛成だった。
留守の時、統率の取れるものが一人いるのでは全然違う。
レナが快くオーケーし、イカロスはロンダルギアへ去っていった。
彼は信用できるタイプの英雄だ。
何にせよレナにとってのナオミが、俺にとってのアイシアだった。
メリアの人格はレナを好むらしいが、今のところそれが前面に出て迷惑といった感触はない。
俺は地底四天王の三人目と四人目の姿を想像してみた。
一体どんなバケモノだというのだ。
そしてその上に立つリーダーこそ想像世界に全域において最も倒すべき人物だった。
レナ一人でゼオ相手に金星を挙げた。
皆で掛かればキアラスだって……!
流れ星が見えた気がした。
俺は願いを込める間もなくアイシアの眠る寝室へと消えた。




