第二十五話「お尋ね者」
ゲートを潜った俺達はとある村に出た。
プラズマブレスが示すところによると北の山の麓の村で、あの島亀を起こした角笛があった付近だった。
つまり北の大陸で、此処から一番近い都市はフィーネイルだった。
レナが言った。
「イカロスらしき者が祀られてるな、この村は……。一応の戦いの準備をし、アルマゲドンを呼ぼう」
レナは俺の父親だが創造主グレンの魔法で今は同じ二十八歳になっている。
と言うよりスカーロイ以外の仲間全員が二十八歳になっており、俺ソラはスカーロイを兄のように慕っていた。
何歳か分からないスカーロイ・ヨアーネだがいつか教えてくれるだろう。
それよりも自分に兄弟ができたことが素直に嬉しかった。
それにしても本当にイカロスが祀られてる。
ハヤブサ斬りを見せたら喜ぶかな?
とっくの昔に死んでるんだろうけど、幻影はこの俺の技を見て関心を寄せるに違いない。
何にせよイカロスは英雄で、南の大陸の方が彼は有名だった。
イカロスの石像にニッコリ微笑み、俺達は店で「超回復薬」等を購入した。
回復薬の強化版であるソレは、多少値が張るものの体力を最大まで治癒する優れものだ。
これから向かうフィーネイルで、母ナオミは何かを思い出してくれるだろうか。
例えそこで思い出さなくても、南の大陸という宛てが俺達にはある。
王女アイシアは金色の巨竜アルマゲドン亜種を遠き彼方から呼び出した。
彼女はグレンの末裔でこの世界の王女にあたる。
竜と永遠の契約を結び、弓矢も使える頼れる仲間だ。
とは言え本当に頼れるのは俺、レナ、スカーロイ、ナオミの四人だった。
何を隠そう我々四人は虫の細胞を体内に取り込んだ「インゼクター」である。
またキャンディスはインゼクターではないものの、「召喚」に加え黒魔法と補助魔法が使える優秀な魔導師だ。
そしてアシュラ。
ここ最近では主戦力から離れているが、何を隠そう彼の父ハモンの離れ業「タイムワープ」が将来使えるようになるかもしれない重要人物なのだ。
つまり七人誰も欠けてはならない。
俺達は到着した体長二十メートルのアルマゲドンに乗り、フィーネイルを目指した。
あのネロもゲートを使える。
今頃、想像世界の何処かに帰ってきているかもしれない。
何にせよナオミの記憶を戻す。
先ずはこれだった。
飛んでいく。
この空の向こうに、幸せはあるのか。
兄を得た、父を得た、そして母も……。
漁師のファエンガ夫妻には感謝しているが、自分は神族であり、エルフのクォーターであり、アイシアの恋人だった。
誰も欠けさせはしない。
恩のあるセンジュ族アシュラや、叔母であるキャンディス含め、絶対に守り切る。
俺は巨竜に跨りながら南の方角を目指していた。
あの山より北にも陸は続いている。
それでも主要なのがフィーネイルでありゼラートなのが、特にナオミにとってはだった。
辿り着く。
なにか様子がおかしい。
軍隊が来ているのか?
まさか。
俺達は様子を探るべくアルマゲドンを都市の脇に着陸させた。
この凄まじい殺気は都市の中心部から来ているのか?
レナがボソッと「地底人……」と呟いたのを、俺は逃さなかった。
「え?」
「レイヴンが言ってたんだ。黒騎士率いる軍隊が地底には存在するって」
「って事は機械兵は既に奴らの手に!?」
「多分な……」
千里眼の使えるナオミとアシュラが見た限りでは機械兵は敵の手に落ちていた。
中心には黒い鎧の騎士……レナの悪い予感は的中した。
「そう言えばフィーネイルが危ないんだった。レイヴンの話、あまり鮮明には覚えてなくて、誰にも話すこと無くここまで来たんだ。でもこの禍々しい騎士っぽいオーラがそれを思い出させた」
この壁の向こうには既に敵の軍隊が……。
俺は思わず唇を噛んだ。
「王女アイシアとその部下たちを処刑代に!」
敵の声が此方まで来ていた。
まさか一ヶ月の間にここまで……!
これじゃあまるでお尋ね者じゃないか……!
「近くに殺気を感じる……追え。ネズミ退治だ。だとよ。逃げるぞ」
アルマゲドンは無口だが一応話せる。
聴覚の出来が我々とは違うようだ。
「留守の間に北を散策していたようだが、地底人が湧いて来たことに気が付かなかったのか?」
「済まない。あの山より北にはエルフ族がいた。調停を結ぶのに時を要した」
「チィ……」
アルマゲドンの返答に対し舌打ちをするレナ。
銃に手をかけるスカーロイ。
早くアルマゲドンに乗って逃げないと殺される!
「向かうは南の大陸だ。スノウランドまで逃げるぞ」
スノウランドが敵の手に落ちていない保証は無かった。
一ヶ月間、現実世界を訪れていたツケが回ったか。
でも俺達はインゼクター。
束で掛かればきっと黒騎士も倒せる……!
「今黒騎士を倒しに行くのはナンセンスだ。レナの判断は正しい」
とスカーロイ。
リーダーはレナ、と言わんばかりの口調だ。
だが今そんなことはどうだっていい。
全員で乗り込み、南へ向けて飛び立つ。
今は多勢に無勢。
南にも機械兵はきっといるが、上手く破壊できている事を祈るばかりだ。
最悪地獄絵図も想定された。
アルマゲドンも仕事をしていたんだ。
北のエルフ族……いつか会ってみたいなぁ。
キャンディスは彼らエルフ族が居たことを知っていただろう。
それでも調停を結ぶところまでいっていたかは疑問だ。
とにかく……今は逃げ切れねぇと……!
暫く飛んでいると飛空艇が後ろから追ってきた。
空中戦……最悪俺達の死が待っている。
機械兵を操るコンピューターが地底人の手に落ちた今、南の大陸すら決して安全とは言えない。
それでもアイシアを慕う民がいる以上、逃げ帰るとしたら其処だった。
零社も滅ぶ一途を辿る今、南の支配は必須事項と言えた。
敵の飛空艇のビーム。
紙一重でアルマゲドンがかわす。
振り落とされそうになる所を、俺たちは何とか堪えた。
そして我々は海を越え南の大陸上空へ。
もうそろそろ……飛び降りるしかない。
インゼクターの体力は桁外れだ、
おまけにキャンディスには召喚獣たちがいる。
一か八か飛び降りるか……。
俺はレナに判断を委ねた。
スカーロイ、この勝負引き分けだ。
俺達のリーダーはレナ・ボナパルト、ただ一人だ。
「アルマゲドン、なるべく下降してくれ」
飛空艇はすぐ傍まで迫っていた。
そしてビーム砲が命中。
ピンク色の光線は容赦なく巨竜の脇腹に当たった。
揺れるアルマゲドン。
レナは堪らず舌打ちしていた。
「飛び降りようレナ」
敢えて父さんとは言わなかった。
だがそこは気にしていない様子だ。
レナは頷き、スノウランド目掛けて飛び降りた。
かなり勇気がいる行動だ。
バラバラに落ちた俺達は、各地の機械兵殲滅に尽力できる。
ようし、俺だって!
思っている合間にスカーロイが飛び降りていた。
傾くアルマゲドン。
後で超回復薬を施すからな。
行くぞソアクーラ!
ペットのソアクーラを抱きかかえ、俺は樹海に向けて飛び降りた。
恐らく辿り着くのはマジョルカになるはずだ。
生きろよアイシア。
アシュラは最後まで巨竜の背中に残る覚悟のようだった。
残るべきだったのか。
だが飛び降りないと最後まで生き残る可能性は少ない。
何より飛空艇がすぐそこまで近づいているのだ。
アルマゲドンとの契約者アイシア。
例え地底人に捕まろうとも確実に助け出してみせる。
もうフィーネの時みたいに仲間を失うのは沢山だ。
センチピードのインゼクターは人間離れした生命力で樹海に叩きつけられた。
胸に抱えたソアクーラは無事だ。
かなりの痛みだがこの俺も生きている。
衝撃音を聞いてやって来たのはあのネロだった。
「上空から降ってくるとは派手な登場だな。ソラ・ボナパルト……」
だからソラ・ブラストだってば!
ああもうこの際どっちでもいい。
「この大陸の機械兵は奴らについた。ここはお前と俺が手を組んでマジョルカを救う方針でいいか?」
願ったり叶ったりだ。
ネロはカマキリのインゼクター。
仲間にいて頼もしいことこの上ない。
「今お前達七人はお尋ね者だ。俺はマジョルカさえ良ければそれでいいが……お前達はそうはいかんだろうな」
王女アイシアの治めている小国七つ。
おまけにフィーネイルも一時的にせよ支配下にあった。
巨竜が墜落したら先ず捕らえられるのはアイシアとアシュラだったが、その時は兄貴やレナと総出で助けに行くつもりだ。
キャンディスも無事だろうか……。
「ネロ、アンタが近くに居たのは不幸中の幸いだ。嘗ての敵同士も地底人相手では手を組むしかねーよな」
「そうか奴らは地底人か……」
ネロは特別驚いた様子は見せなかった。
地底に人がいても、ああそう、と言った具合だ。
まあでもあれだけの軍隊が突如現れたんならそうだよなぁ……。
殺気だけで察したがフィーネイルにいた地底の軍隊の迫力は中々のものだった。
それにしても嘗ては深かっただろうこの樹海も、ここ千年でかなり伐採が進んでいる。
俺は痛む身体にムチを打ち、ゆっくりと立ち上がった。
母であるナオミはあの時、蝶の羽をはためかせ飛んでいた。
記憶喪失の彼女がいま何処にいるか俺は知らないーー。
「イタゾ、アソコダ!」
見れば三体の機械兵が此方に向かってきていた。
この感じ……アイシャと初めて出会った時と同じだ。
だがあの時の俺とは次元が違う……!
戦士になり、神族になり、聖なる鎧を纏いインゼクターになった。
たかが機械兵、屁でもねえ。
だがあの地底人たちはどうか。
中央にいたとされる黒騎士の気迫は明らかにこの俺を超えていた。
いつからか戦わずしてその者の力量を計る事が出来るようになっていたがさて……先ずは機械兵の反乱を鎮圧する!
凱鬼を右、左に振り回し三体の機械兵を壊すに至っていた。
やはりこの程度……インゼクターじゃないアイシアやアシュラも十分倒せるレベルだ。
「お前の母さんは……元気か?」
「飛空艇の攻撃で逸れちゃって……」
「やはりそうか……」
ネロは不意に神妙な顔つきを見せたが、それ以上は何も言ってこなかった。
マジョルカの機械兵の反乱は早かれ遅かれ鎮圧出来そうだった。
問題は地底兵。
訓練された地底の民はこの南の大陸をも飲み込むか。
だが少なくとも一ヶ月弱でこの土地まで攻め込むには至っていないようだった。
王女アイシアの元、反旗を翻すしかない。
(アシュラ……アイシアをどうか護りきってくれよ……!)
肝心のプラズマブレスは落ちた衝撃で故障していた。
褐色肌のターバン姿のネロ。
零社の設立に貢献したという噂だが心から信用していいかは疑問が残る男だった。
だが今はこの大陸の未来のために、手を組むしかねぇ。
ネロが案内する樹海の切れ端には村があった。
ここの機械兵は大方破壊し終わっているようだ。
やはり機械の性能にも限界はある。
ディバイン・ドロイドでも無い限りーー人間には勝てない。
それにしてもマジョルカはレナや自分が唯一あまり訪れていないとされる場所だった。
コンクリートで出来た家々は時代を感じさせるが西にあるテルミナのゼラート程発展してはいない。
だが流石に魔女の出身地だけあって優秀な魔導師の卵が住んでいそうだった。
ネロが口を開いた。
「俺はお前の母さんに用がある。機械兵も殆ど倒せたようだし、仲間になってやるよ」
こんな形でネロを仲間に……!
ナオミへの思い入れは謎だったが、取り敢えずは頼もしい男が仲間入りした。
まだ絆というには程遠いが、いつか心を通わす時が来るのだろうか。
俺とネロは握手をかわし、村の魔導師たちの元を訪れるのだった。




