第二十二話「終末の騎士」
翌朝、キャンディス・ミカエラはソラとアイシアとスカーロイがフィーネを連れ去ったロボットを追って消えた事を知った。
事情を尋ねるとしたらーー零社しかない。
キャンディスはアシュラの後ろに乗る形でエアバイクでスノウランドへ向かった。
ソラは自分の甥。
お互い仲間と認めた以上、そう易易と死なせてはならない。
それにしても意外だった。
ソラ達がフィーネのために命を張った事ーー。
四十歳の頃のフィーネは知っているが、あの時の彼女とは違うのかもしれない。
どんな人にでも表と裏はある。
それはあのレナにしても同じ事で、キャンディスは兄であるレナが喧嘩によって一瞬邪悪さをコントロール出来なくなり、ナオミを死に追いやったのも、数々の闇の試練を乗り越えてきたレナにとって決して不自然では無かったのである。
因みにこの間グレンによって復活した二十八歳のナオミはレナと喧嘩する前の段階の彼女。
当然レナや自分に加担していた訳だ。
スノウランドの零社本部が見えてきた。
北の大陸ですら雪は降っていなかったというのに、此処は……。
想像世界の七不思議の一つだった。
ビルの中へ通してもらうと待っていたのは細川という名の博士だった。
元北の覇者キャンディスが来たとなると面会を快く承諾してくれたのである。
昨日現れたのは半透明のディバイン・ドロイド。
知っていることを聞き出さないと。
「自分が造った。彼を追いたければタイムマシーンを使え。千年後の技術ならディバイン・ドロイドを作り出す事が可能だ」と言う。
さては黒幕ね?と身を乗り出すキャンディス。
「ディバイン・ドロイド達は言うことを聞かなくなった。私はただ……世界の平和を願って。ソラには期待している。私は彼が過去にムラサメを葬ったナオミの息子だと知っていた。そしてアイシャ。言い伝えではソラの良き支えになるという。私はこの世界の技術を日本に持って帰りたいのだ。言うことを聞かないディバイン・ドロイドよりも優秀なものを現在開発中だ」
話が本当なら細川は黒幕ではなかった。
戦士であるソラの強力な後ろ盾になり得る男だ。
「博士は現実世界の人間なの?」
「そうだ。ゲートを開けるのは自分だけじゃないぞキャンディス・ミカエラ」
細川はさも得意そうに話を続ける。
「半透明のディバイン・ドロイドの名は『ハルカゼ』名前とは裏腹に凶暴な性格を持つ。彼や『ムラサメ』を造るのは現代の技術では不可能だった。私はタイムマシーンで千年後に渡り、合計三体のディバイン・ドロイドを完成させた」
零社本部の中はスッキリしていて所謂オフィスのような場所だった。
細川の話はまだ続く。
「『ハルカゼ』を追いたければタイムマシーンで千年後へ行け。終末の世界はディバイン・ドロイド達が暴れまわったおかげで廃墟と化している。生き延びたモンスターも強力なものばかりだ。それでもソラ達を助けたければ止めはせん」
「師匠の力を借りたほうがいいんじゃ……」
とアシュラ。
確かにその通りだった。
みすみす自分の息子を見殺しにするの?
お兄ちゃんそれでも父親?
キャンディスはアシュラの千里眼でレナの居場所を捜させた。
どうやら此処フローズンシティに居るという。
アシュラはテレパシーを使い、レナに話しかけているようだった。
「私にもレナに話させて」
アシュラの肩に手を置き目を閉じる。
そうすることでキャンディスもテレパシーで対象に話しかける事が可能だ。
(ソラがピンチなのよ?そんなのでナオミが喜ぶと思う?)
レナは黙っていた。
「まだ暗黒の鎧は捨ててない。阿魏斗も傍に立てかけてある」
と話すアシュラ。
(それが答えなんじゃないの?伝説の戦士の座は誰のものかしらねー。ソラかスカーロイかしら?)
ソラがピクリと動いた。
いやナオミの話をした時既にレナの心は動いていた。
あと少しーー。
(お兄ちゃんのバカー!)
トドメだった。
妹キャンディスを見捨てはしない。
どんな時でもお互いの味方でいよう、そう誓いあった仲だった。
十分後、フル装備のレナがいた。
暗黒の鎧は聖なる鎧には性能で劣るが、注目すべきは太刀「阿魏斗」。
両手で扱う分、その攻撃力は計り知れない。
アシュラもレナの弟子としてその絆は決して浅くない。
レナ、キャンディス、アシュラの強力なパーティーが再結成された。
ここにナオミがいればだが、言っても仕方がない。
タイムマシーンを起動させた。
向かうのは千年後の世界。
ディバイン・ドロイドがタイムワープできるのは恐るべき事実だが、終末の時代にソラはいるはずだ。
死なないで、ソラ!
キャンディスの願いと共に、終末の世界に着いた。
朝だというのに静けさで溢れかえっている。
本当にスノウランド?
「あのアイシアって娘もメリアとの融合体なんだろ?」
「ええ。だから何としてでも助けなきゃ!」
アシュラが千里眼でソラ達を見つけるよりも早く、クリーチャーのお出ましだ。
自分達を餌だと思っているに違いない。
恐らくアレはーー。
「サラマンダー」
体長は五メートル程だが、フメア山での縄張り争いに敗北せずに生き残っている所を見ると、決して油断ならない。
マグマで覆われた巨大なトカゲは、チロチロと舌を出しながら接近してきた。
「キャンディス、今のお前なら三体目の契約クリーチャーに出来るんじゃないか?」
「え、ええ……。普通は二体までだけど……」
「お前なら大丈夫だ。フェニックスと合成獣(三首の竜)だけじゃ不安定だろ?」
確かにそうだった。
そして戦いから遠のいていたはずのレナのこの指摘。
本当は戦いたくてウズウズしてたんじゃない?
「行くぞ、キャンディス、アシュラ!」
レナは根っからのリーダータイプだった。
相手にとって弱点となる氷の剣技を放つべく身構えている。
それにしても阿魏斗を始めとする漢字表記の武器の性能は凄まじく、あの細川との関連を想像させるのだった。
氷結。
氷の礫を放ちながらの連続斬りだ。
キャンディスはイザベルの憶えていたエンチャント(補助魔法)をこの十年で使えるようになっていた。
また召喚獣であるフェニックスは逞しく進化し、回復の術も多分に備えていた。
補助魔法「鬼人化」!
氷結の威力が一点五倍になる。
またアシュラは手元から流星群と呼ばれるビームを放っていたが、それはサラマンダーの素早い身のこなしでかわされていた。
本来ハモンの技である「流星群」は合計四つのビームをそれぞれの腕から放つ技なのだが、今回は一つのビームに集約されている。
というより二十八歳のアシュラなら四つのビームを放つことすら容易い。
ディバイン・ドロイドとの戦いに向けて、力を温存しているのだろう。
そしてレナの「氷結」。
氷の力を帯びた連撃は確実にサラマンダーに効いていった。
恐れをなした相手は素早く逃げ出す。
とうとう彼を三体目の召喚獣にすることは出来なかった。
キャンディスが口を開く。
「きっともっと私達に相応しい召喚獣がこの先で待っているはずよ、行きましょう。アシュラ、アルマゲドンは見つかったかしら?」
「見つかったっスけど、ソラとスカーロイは傍にいないっスよ。此処から西の方角っス!」
センジュ族への差別を乗り越え、いつしかアシュラも明るくなっていた。
そして彼もーーソラへの思い入れはある。
「早くアイシアの元へ向かわないと『ハルカゼ』もそこへ向かってる!」
事態は一刻を争う。
「皆これに乗って!」と三首の合成獣を召喚する。
エアバイクなんかなくても……これなら!
そして例え「ハルカゼ」と言えども歴戦の勇者三人を相手にどう立ち向かえるかな?
キャンディスは「ムラサメ」なら確実に、「ハルカゼ」なら七、三で勝てると読んでいた。
そしてソラやスカーロイと力を合わせれば勝てない者など存在しない。
あの島亀フレゼルにだって勝てたのだから!
スノウランドとテルミナの国境を跨ぐ。
例え廃墟と化していようとも……此処は南の大陸だ。
待っていたのは半透明のディバイン・ドロイドだった。
一歩遅かったか!
アルマゲドンを跳ね飛ばし、アイシアを連れ去ろうとしている。
「ムラサメ」を傀儡化したフィーネならまだしも、何でアイシアを連れ去ろうとするの?
アシュラがここぞとばかりに四発の流星群を放つ。
青白い光線は対象に吸い込まれるように伸びていったが、命中しても弾き返されるだけだった。
恐らくスカーロイの銃弾ですら、同じ結果だろう。
キャンディス達を乗せた合成獣は着陸した。
さあここからである。
一番頼りになるのはレナ!
ならば自分はそのサポートに回って……。
考えてる間に合成獣がやられた。
橙色のビーム。
クリーチャーの光線を彷彿とさせる技だが、やはり細川の発明の凄さは想像を絶する。
アシュラが接近し殴りかかとうとするが「待て!」と引き止めたのがレナだった。
どうやら「阿魏斗」じゃねーと……奴は斬れない。
元々アシュラの父ハモンの生き霊を偲ばせた物で、闇の力を司るレナにうってつけの武器である(因みに暗黒の鎧は元々レノン家の初代国王ロキの所有物だ)。
時魔法「クイック」!
スロウとは真逆のスピードを上げる呪文だった。
このキャンディスですら、習得したのは二十代後半である意味補助魔法の中では絶大な効果を発揮する。
自分一人でもムラサメと互角……レナがいれば……「ハルカゼ」だって!
レナは究極剣技を放とうとしていた。
その上が最上級剣技なのだが、魔導剣士であるレナは技の頭に「真」と付く、魔導剣士特有の技を放てる。
技の威力はお墨付きだ。
因みにソラは島亀戦で魔導斬りを連想させる技に成功している。
親譲りの才能か……。
レナが放ったのは「真・桜竜の舞い」!
桜と竜が合わさった魔法と剣技の合せ技。
対する「ハルカゼ」は二刀のビームサーベルで迎え討つ。
そう言えばスカーロイもビームサーベルを持っていた。
恐らく新時代を象徴する武器か。
いや、時代なんか関係ない!
レナの力は機械を超える!
レナは連撃の中で相手の両手首を斬り落としていた。
補助魔法「クイック」が無ければそうはならなかっただろう。
だが何よりレナの技の威力が高かったからに他ならない。
やはり最強の戦士は自分の中ではお兄ちゃんだ。
「やるじゃねぇか!レナ・ボナパルト!だが二人ならどうかなぁ?」
ハルカゼの背後から現れたのは三体目のディバイン・ドロイドだった。
そしてハルカゼの言葉は続く。
「今修理中のムラサメと此処にいるハルカゼ、シュンギクは合体できる。合体すれば名前は『全てを超えし者』って細川は言ってたなぁ!」
合体……全てを超えし者……!?
それを聞いて動揺したレナだったが、直ぐに切り替え斬りかかる。
だがシュンギクの放つ弾丸の方が一瞬早かった。
太刀でそれをガードするレナ。
キャンディスとアシュラが彼の元へと駆けつける。
「あばよ!お前らは合体が必要だと分かったぜ」
追おうにも合成獣が傷だらけだった。
そしてハルカゼとシュンギクの力はやはり中々のものだ。
合体すれば恐らく……レナでも勝てない。
一体どうすれば。
「この近くにソラがいる!スカーロイも一緒だ。先ずは彼らと合流しよう」
アシュラの千里眼はここに来て真価を発揮か。
そう言えばナオミも千里眼と瞬間移動が使えた。
ナオミ……もし貴方が居れば……。
それにしてもアイシアを連れ拐わせなかったのは良かった。
メリアは元レナの恋人である。
「フィーネを……助けたい。ソラが下した判断なの。信じるべきだと思う」
アイシアにメリアの人格は存在しない、そう思わせるような発言だった。
本来ならメリアはフィーネを憎んでいるはずだ。
レナもそう、私も……。
「どうするんスか?」
レナは腕を組んで考えていた。
取り敢えずソラ達と合流、話はそれからだろう。
だがフィーネは確実にソラとスカーロイの仲間、これだけは言える。
自分がレナ、アシュラ、ナオミを想う気持ちと大差ないかもしれない。
白の戦士か……。
キャンディスは合成獣を指輪に戻し、レナの言葉を待った。
「息子と……合流するぞ」
そうこなくっちゃ。
キャンディスは地べたに倒れたアイシアが起き上がるのを手伝い、レナを遠くを見るような視線で見つめた。




