第十九話「ソラの決意」
此処は創られてから千年後の想像世界。
北の帝国と南の共和国の二つの勢力に分断される形になっており、キャンディス・ミカエラの独裁体制が取られる機械兵の蔓延る北の帝国にて、命を賭けたサバイバルが先程開始された。
因みに零社をバックに付けたシルバーウィンド家を象徴とする共和国では、伝説の戦士の存在が陰で謳われていた。
何にせよ闇の力をモノにしたい俺ソラ・ブラストは、機械兵の攻撃による死を防ぐべく、魔女アンドロメダとの一時的同盟を企んでいた。
俺は長い黒髪のドレッドヘアー。
ナオミとレナを足して二で割ったような髪型だ。
先程丘でチラッと見たナオミ・ブラスト。
人狼の鎧を着ていたが、中々の美人だ。
此処は北の大陸最南端の村、ナヴィド村。
王女アイシャとは逸れてしまったが、獣人マンティコアが味方についたのなら、ある程度は安心か。
何にせよ帝国の支配の下、アイシャを排除しに機械兵を派遣しかねないので、やはりキャンディスの次に強力な魔女とは一時的にせよ手を組むべきだった。
次点で強いのはあのレナか。
いや、不死身であることを考慮すると実力は魔女を超えるのか。
だがアルマクルスは自分の手元にある。
それがせめてもの救いだった。
老婆の家を出る。
ナヴィド村はそれほど発展していない、コンクリートでできた家々が並ぶ小さな村だった。
俺がアンドロメダとフィーネに発見されるのに、それほど時は掛からなかった。
嘗ては南の大陸を支配した魔女と、アイシャの祖先。
どんな技を繰り出すかは計り知れない分、やはり交渉に持ち込むしかない。
空に浮かんだ二人の女性は此方に気づくや否や、フワフワと漂いながら近くに着地した。
金の衣を着た褐色肌の女性と、厳ついピアスをした毛皮のコートを着た女性。
二十八歳の頃の実力は如何に。
俺は名剣凱鬼をいつでも握れる体制を取りながらも相手が口を開くのを待った。
「あと二年もすれば闇空の呪いを発せたモノを。とはいえ目の前には十四名のうちの一人。妾に楯突くか?」
「アタイが幻術で操ってやろうかい?」
「待ってくれ!」
俺は彼女達がなにを言っているか殆ど分からなかったが、戦いの雰囲気は察した。
駄目だこんな所で死んではならない。
「闇の力に興味がある。一緒に手を組まないか?」
機械兵がいつアイシャ達我々を始末しに来るか分からない。
キャンディス側に付いたレナやアンガスといった者は今頃呑気に昼寝でもしているかもしれない。
だからこそやはり……手を組まねぇと。
俺はアンドロメダから発せられる言葉を待った。
「フム……お主名前は何という?」
「ソラ・ファエンガだ」
一応ブラストというのは隠しておく。
すると魔女は意外な反応を見せた。
「ククク……『ソラ』とな?コレは闇空への序曲じゃ。気に入った。フィーネ、この男に望み通りの幻術を施せ」
俺が着ている鎧は戦士三級を示すもの。
因みに一級にもなれば服装の制限は無くなるのだが、やはりディバイン・ドロイドが出てきた時のためにも俺を殺すのはナンセンスと踏んだか。
フィーネ・シルバーウィンドが放つ黒紫の邪気は、俺をあっという間に飲み込んだ。
そして再びを目を見開いた時、俺の目は朱色と化していた。
「フィーネ、闇ソラを連れてこの村の金品を集めておいで。妾は暫しの休息に入る」
魔女が言ってた『闇空への序曲』って何だ?
まあ構う事はねえ。俺はこのアルマクルスと共にサバイバルを勝ち抜いてみせる。
操ろうと試みたらしいがアルマクルスがある程度予防は張ってくれたようだ。
そして漲る力……。
老婆の言っていたこともホラじゃ無かったな。
俺はこのサバイバルを勝ち抜き、やがては零社一の英雄になってみせる。
あの伝説の戦士スカーロイを超える。
スカーロイ。
名前だけならこの時代に生きる者なら一度は耳にしたことがある幻の戦士。
その姿を目の当たりにするのは戦士一級でも珍しいという。
しかしこの村の金品を攫えとな。
流石にあの老婆を裏切るのはやなこった。
俺はアンドロメダが宿屋に入った刹那、そっぽ向いて逃げ出した。
そのスピードはディバイン・ドロイド程では無いものの、目を見張る程のものだ。
闇ソラ。
彼女らはそう言っていた。
向かうとしたらーーアイシャ達の元。
マンティコア・ライデンとイザベル・クロウが匿っているという。
アイシャとも血の繋がりか何かがあるかも知んねーし、俺はアイシャの持つプラズマブレスでこの辺の地理を知りたかった。
まあ先ずは無事でいてくれることを願う。
南の共和国の象徴が死ぬということは永きに渡って受け継がれた崇高な血を失うことを意味する。
彼女が北へ向かうのを許可した零社は、伝説の戦士スカーロイの存在くらい信用し難い存在だった。
新しい時代が来るのか。
俺かアイシャがこのサバイバルを勝ち抜けば北の大陸を共和国のものにできるかもしれない。
俺はフィーネが止める声も気に留めず、先程の丘へ駆け出した。
キャンディスらはほぼ間違いなく北の中枢へ足を運んでいるだろう。
そこからなら機械兵を送れる。
だが彼女らの意志とは関係を持たないディバイン・ドロイドがいつかグレンの手によって放たれる。
やはり俺は完全に悪に染まっていねぇ。
マンティコア達と打ち解け、闇ソラとして三人を引っ張っていきたいものだ。
スピードだけでも分かる。
今の俺は戦士二級レベルだ。
十九歳のレナは一級だった。
だがあの頃に比べ戦士の平均レベルは確実に上がっていたはずだし、規模と時代が違う。
零社がタイムマシーンを使ったにせよ、あの時代の戦士は片手で数えるほどしかいなかったはずだ。
そしてこのアルマクルスがある限りーーどんな敵にでも金星があり得た。
獣人マンティコアと占い師イザベル。
本当にアイシャと打ち解けたなら心強い限りだ。
どうやらあの洞窟から只者ならぬ気配がする……。
丘から少しズレた場所にある隠れ家に、身長二メートル超えのマンティコアはいた。
そして赤髪のイザベル。
アイシャは弓矢を所持していたようでグレンとタイムマシーンが齎した八年間の間に弓使いとなっていたようだ。
いやーー魔術師と弓使いの混合。
魔術の矢はアンドロメダやハモンといった強敵にも、通用しかねない頼もしい存在だった。
マンティコアが口を開いた。
「微量とは言い難い量の邪気を感じる……誰だお前は?」
槍を持ったマンティコアは中々の迫力で、顔が整っているイザベルと仲が良いのはひと目見て分かった。
アイシャが口を開く。
「ソラ。私の仲間よ。信頼できる男性なの」
二十八歳のアイシャは以前に比べ落ち着きをはらっていた。
シルバーウィンド家の王女として……先ずは心強い味方を得られたか。
だが俺の闇は身体中を蝕んでいるのも事実だった。
アイシャを見たことで押し殺せていた闇が……マンティコアの殺気によって奮い立たされる。
俺はアイシャのプラズマブレスを引っ手繰った。
「どうするつもりだ?」
とマンティコア。
俺は構わずブレスの起動ボタンを押した。
「北の大陸……帝国を押しつぶしアイシャを世界の女王にする。そのためにもこのゲームには勝たなきゃならねえ。いつかはライオンさんとも殺し合いかもな」
唸るマンティコア。
眉間にシワを寄せるイザベル。
そしてアイシャは俺のダーク化に気づき始めていた。
(零社も信用ならねぇ。グレンに望みを叶えてもらうとすれば、五十歳の母の召喚……いやゲートを潜り現実世界とやらに行ってもいい。取り敢えずサバイバルを勝つことが先だ)
俺はアイシャのつぶらな瞳を見た。
プラズマブレスから放たれた3D画面は大陸の地図を描いていた。
砂漠を超えた所に大都市があるように見える。
Aiに問いかけると「フィーネイル」と呼ばれる帝国の首都だった。
ここからは少し距離がある。
キャンディスらは召喚獣に跨りフィーネイルへ。
とすると向かうのは危険か。
「俺がフィーネイルに潜入し機械兵のコントロールを逆転させる。それでしか活路を見いだせない」
「名案ですわ。マンティコア、私達も行きましょう」
想像世界の貧富の差は大きい。
富裕層は何不自由ない生活を送り、村人たちはプラズマブレスはおろかテレビすらない者の方が多い。
この俺も、ブレスは無い。
俺はアイシャにプラズマブレスをひょいと投げ返した。
俺の決意ーースカーロイもキャンディスも超えてやるんだ。
イザベルが二十八の頃といえばレナと出会う前の事か。
助かったぜ……特にマンティコアは拾い物だ。
よし……行くか。
闇ソラは洞窟を出るなり天を仰いだ。
(レナが死ねば想像世界は無に帰る。
そしてお前さんの身体は現実世界へ送られることになる)
グレンの声だった。
だが何でも望みを叶えてくれるんだろ?
俺はこの世界でナオミやアイシャと幸せになりたいんだ。
思わず心の中で呟いていた。
アイシャとの恋愛関係。
全くのゼロというわけではないが、恋人と言うには浅すぎる。
俺はグレンの元創造主としての力に期待していた。
(儂も出来るだけの事はしよう。では一旦おさらばじゃ)
グレンのテレパシーは消えた。
そう言えばアシュラも同じような事が出来るんだったっけ…… 。
今頃ハモンやエルメスと行動しているのか。
ーー四つ巴。
だがいつアンドロメダとハモンが手を組み三つ巴となるか分からない。
俺はソアクーラを頭に乗せ砂漠に向けて歩き出した。
「千年の時を超え二人の女性が出会う時ーーこの世界の神族として君臨するでしょう。一種の予言よ」
イザベルが言った。
頭には黒い薔薇がある。
俺は「ふーん」と聞き流しながらあのプラズマブレスをアイシャから何とかして譲ってもらえないか考えていた。
あれは確かに便利だ。
暫く歩いていると草地から砂漠へと変化していくのが見て取れた。
そこへ煙と共にピエロが現れた。
「エルメスちゃん到着〜。あれその盾『エルメスの盾』じゃない?」
ハモンとアシュラは近くにはいないようだ。
マンティコアが身構える。
「それを持ってる人に悪い人はいないんだ〜。だから良い事教えてあげる。貴方神よ」
えっ……?
確かにレナとナオミの息子だが……。
「神としてその力を開放したければ、この先にある砂漠の寺院に向かうといいわ。ソラちゃんだっけ?」
嘘かもしれない。
いや今の彼女に、嘘を付くメリットは少ない。
こちらにはプラズマブレスがあるので寺院の位置は直ぐに検索できる。
大した時間つぶしにもなりゃしない。
「ありがとう」
思わず言うとエルメスはフフッと笑って消えた。
エルメスの盾。
円形の魔法防御に優れた盾だが、ここに来てこんな役に立つとは。
イザベルも頷き、我々は寺院に少し寄り道することにした。
未来都市「フィーネイル」。
そこに待つのは希望か、絶望かーー。
それまでに神族の能力を開放しておく事はかなり重要と言えた。
「ニーン」
ソアクーラが可愛らしい声を上げる。
マンティコアを横にしても全く怖がることのない肝っ玉の据わった羽猫である。
もう少し東か……。
ブレスの地図を頼りに方向を定める。
もし自分が戦士になってなかったら今頃王女を連れ攫った罪で牢屋行きだったはずだ。
つまりアシュラの案には感謝してる。
そのアシュラを従えるハモンとは出来れば戦いたくなかった。
それよりも敵としてはレナやキャンディスといった者の顔が浮かぶ。
「着いたかーー」
俺は砂漠の寺院を目の前にし、その扉をそっと開けた。
此処で俺は神々の仲間入りをするのか…… ?
左右に分かれた扉の先には地下への階段が待っていた。
緑色の炎の篝火は不気味さを醸し出し、ミイラでも出てきそうな雰囲気だった。
マンティコアが言葉を放った。
「強力なクリーチャーが潜んでいるかもしれん。引き返すなら今だぞ」
あのエルメスを信用出来るのか。
俺は一瞬進むのを躊躇ったが、不思議な力に吸い寄せられるような形で歩を進めた。
「行こうぜ。クリーチャーなら四人がかりで倒せる」
闇ソラの本領は戦いでのみ発揮される。
例えばこのマンティコア・ライデンをも超える力を、神族になることで手に入れる事になるのか。
聞いたところマンティコアは半神でシルバーウィンド家とも近い血族に分類されるという。
俺はジリジリッと、でも確実に階段を下っていった。
「大丈夫だよ。私達強いから」
とアイシャ。
持ち前の明るさを発揮か。
二十八歳の彼女は正直かなり頼もしい。
丘でマンティコアに護られていなかったら命の危険もあったがまあいい。
生き延びたんなら……共に来てもらう。
獣人マンティコアは渋々頷き一行は広い空間へと足を踏み入れた。
戦士は五級から一級まである。
だがここで神族になれば一級に成り上がるのも夢じゃない。
待ってろスカーロイ、キャンディス。
神でもねーのに最強呼ばわりされるお前たちに勝ち、元漁師が最強の座に腰掛けてみせる。
空間の中心部まで足を運んだ刹那、ゴゴゴ……と周りの石像が動き始めた。
「罠ですわ。皆さん気を引き締めていきましょう」
占い師イザベルですらこの罠を予言する事は出来なかったか。
まあいい……闇の力を試す時だ。
凱鬼を抜く。
マンティコアも自身の魔導槍に手をかけている。
ナイトの形をした合計八体の石像は各々の武器を手にゾロゾロと中央の我々を囲む形で向かってくる。
だが。
この先に石碑のようなものが設置してあるのを、俺は見逃さなかった。
神聖な雰囲気…… 間違いねえ俺はアレに導かれて…… 。
この一年で習得した剣技「 桜花」を放つべく味方との間合いを取る。
俺は勝ち続ける。
今は落ちこぼれの三級でも世界を変えてみせる。
三体の石像に向かって土属性剣技「桜花」を放った。
クルクルと回りながらの美しき範囲攻撃。
花びらが散る様は、正に剣に夢中になった俺にとってテンションの高まりを促すに相応しい。
と同時に凱鬼の剣先から邪気が溢れていた。
どうだ名付けて「 漆黒の桜花」だ。
三体の石像を破壊した。
またアイシャは氷の矢で一体の頭を撃ち抜いていた。
そしてマンティコアは、残る四体の石像をイザベルによるサポート技「鬼人化」によりより一層逞しさを増した状態で突き崩していた。
勇者を彷彿とされるその動きには流石の俺も関心したものだ。
そして。
いよいよ石碑と向かい合う。
ーーミルナ・シルバーウィンドーー
と書かれたところを見ると神の墓か?
俺が片膝を降り祈りを捧げると不思議な力が身体中に広がった。
ん?これは刺青?
だが不思議と痛くない。
どういう事だろう。
いつの間にか腕から背中にかけて波を彷彿とさせるタトゥーが施されていた。
「良かったな」
とマンティコア。
ミルナは彼の母にあたる。
皆で祈りを捧げたが、どうやら神族になれたのは俺だけのようだ。
一般的に魔術による入れ墨は痛みを伴うらしい。
何が俺を護ったのか。
何にせよこれで心置きなくフィーネイルで暴れられる。
あのフィーネ・シルバーウィンドはグレンとミルナの娘か。
ならばレナとナオミの息子の俺にも当然神族の位は譲受されるべきだったし、それを今成し遂げた。
待ってろ…………バカ親父……!
寺院を出るなりフードを被りエアバイクをブルンブルンいわせている男が目に止まった。
「俺の名はスカーロイ・ヨアーネ。戦士だ。君大した殺気だな。これからフィーネイルに向かう。一緒に乗ってかないか?」
スカーロイは俺を指さしていた。




