第十八話「開幕」
あれから約一年が過ぎた。
南側諸国をドロイドの襲撃から護るべく、俺は戦士になることをアシュラから勧められ一つの指輪を貰った。
理由はいつか話そう、としか言わなかったのだが、一応素直に受け取っておいた。
それはそうと、この一年で王女との仲も深まり、零社(戦士を率いる組織)の中では上司である魔人ソアクーラとの親交が深まった。
体長六メートルの彼は一年前のゼラートの戦いで大活躍したという戦士の幹部だ。
俺の剣の腕も飛躍的に伸び、ソアクーラの部下として申し分ない力を手に入れた。
まあ殆ど隠し持っていたアルマクルスのおかげだが。
この一年で雑用の任務を終え、いよいよ本格的な戦闘任務を受け持つ存在に這い上がったのだった。
漁師をしていた頃に比べ、未来は明るい。
なにが起こるか分からないのが、人生の良いところで、悪いところでもある。
ソアクーラは肌が緑のランプの魔精のような巨人である。
戦士としてある程度認められてきた俺はある秘密を明かされた。
ーータイムマシーン。
千年前まで時空を遡る事が可能だという。
また未来に行くことも出来るのだが、俺は過去に興味があった。
四十代前半の姿のアシュラ。
不老不死には見えない。
俺はソアクーラと巨大ヘリに乗り、出動した。
ヘリコプターを近くに寄せ、マシンを起動。
俺たちは千年前へと旅立つのだった。
タイムマシーンは時計のいっぱい付いた蒸気機関車に似た形をしている。
クルクルと針が回り出し、たちまち千年前のスノウランドに着いたのだった。
ハモンとの戦いが行われていた時代。
アシュラの実の父が何故千年前に生きているかは謎だったが、その理由も分かるかもしれない。
防具も一式揃えてもらってある俺は、ミルナ島に降り立った。
戦士三級に分類される俺は制服の着用義務があった。
千年前のミルナ島。
此処で俺たちは山の麓の零社の基地を目標にヘリを進めていた。
零社の基地に着くなり金の指輪がキラッと光った気がした。
「やはり居たな!ディバインドロイド『ムラサメ』!」
実力はあのキャンディスにすら匹敵する、ゼンマイだらけの武士。
そう今回の任務は暴走した彼を止めること。
何故零社がそれを企んでいるかは謎だったが、俺たち二人ではーー些か荷が重い。
あっという間にソアクーラが斬られた。
目にも止まらぬ早業。
光属性剣技「閃光」を彷彿とさせる動きは、正に一流。
この時代のディバイン・ドロイドを止めることは何か大きな意味があるのだろうか。
チクショー!チクショー!!
その時俺の身体が光った気がした。
上司ソアクーラが死んだ。
と同時に不思議な光が俺を包み込む。
この瞬間だけ無敵になった俺は、ムラサメのビームサーベルを持ってしてでも死ななかった。
斬れない敵は初めてなのか、ムラサメは思わず膠着する。
「何故拙者の攻撃が!?」
今はこの不思議な力に縋るしかなかった。
俺はヘリまで戻りタイムマシーンの場所まで涙を堪えながら帰るのだった。
任務失敗。
だがこれが今の俺の日常にあたる。
零社が何故我々二人ではディバイン・ドロイドを倒せると見越したのか不明だが、もしかしたら始めから見捨てるつもりでーー?
いや考え過ぎか。
過酷な任務の日々だが漁師の頃より充実している。
癒やしに俺はペットの羽付き猫を招き入れる決断を下した。
名前は「ソアクーラ」。
可愛らしい黒毛の飛び猫だ。
二十五歳の誕生日を迎えたある日、アシュラが約一年ぶりに零社の寮があるスノウランドまで足を運んでくれた。
そう、零社の本拠地は大陸北部のスノウランドにある。
遂に……真実が彼の口から語られる。
「お前の……本当の父親はレナ・ボナパルトだ。母親はナオミ・ ブラスト。俺と同列の神々に値する」
「なっ……!」
「だがお前の母親はもうこの世にはいない。喧嘩した際レナによって窒息死させられたのだ」
馬鹿なコレを受け入れろと?
二十五歳までアシュラが口を塞いでいた理由はコレか。
これじゃあまるで俺は神々の血を継ぐ神族じゃないか。
「単刀直入に言うしかない。後悔し現実逃避に陥ったレナは此処、想像世界を創った。レナの罪を誤魔化すべくキャンディスは自身を黒幕に仕立て上げ……」
ちょっと待て。レナ・ボナパルトはそんなクズ野郎だってのか?
俺の母ナオミブラストを殺し、仲間に助けてもらおうってのか?
「お前は海に捨てられた。拾ったのがこの世界の漁師、ファエンガさんだ」
つまり……俺の名はボナパルトじゃねぇソラ・ブラストだ。
ファエンガ夫妻には感謝してる。
だが俺は……あのナオミ・ブラストの息子だってのか?
「聞くにも絶えない内容だろう。だが神々の契としてキャンディスが死ねばレナも死ぬ。現実世界に逃げ帰ったかもしれないレナを探すより確実にお前の父を、キャンディス・ミカエラを倒す事で殺せる」
アシュラは続ける。
「だが復讐の道など虚しいだけだ。好きにすれば良いが、鍵を握るのはお前ともう一人、アイシャ・シルバーウィンドだ。二人が力を合わせれば或いは……伝説を遺せるかもしれない」
俺とアイシャが……?
俺の緊張の面持ちを察してか、猫ソアクーラが頭をスリスリと寄せる。
おかげでとんでもない二十五回目の誕生日になった。
最後に人狼の鎧を置いておく、と言い残しアシュラは出ていった。
あれから千年後の世界を、レナは創ったというのか。
レナと行動を共にしていたアシュラは当然千歳にはならずにこの世界に移動。
そういう訳か。
ったく、創造主グレンにしろレナにしろロクな神がいない。
深くため息をつき、ナオミ・ブラストが着ていたとされる人狼の鎧を見つめた。
俺が着るには小さ過ぎる。
だが大事に取っておくに越したことはない。
いつかタイムマシーンで会いに行くとしたら……この毛皮の鎧を着た女性だ。
この金の指輪はナオミの結婚指輪。
チクショー何で自分の嫁を。
俺はレナへの怒りで燃えていた。
「北へ行くぞソアクーラ。アイシャも来てくれるかな?」
二つ返事でオーケーを貰えた。
友情以上の何か……いや今は考えるのはよそう。
アイシャは可愛らしいし美人だが今は恋愛の気分ではない。
俺はヘリで北へ向かった。
三級の戦士だが、キャンディスに用があると言い、止める者は居なかった。
やはり俺に死んでほしいのか?
王女アイシャが行くのを止める者は当然いたが、やけにすんなりお国のためだという理由で見送られている。
初めて目にする北方諸国の大陸。
不意になんだか泣き叫びたくなる感情に襲われた。
(母さん!)
途端に黒い羽根が突如現れ、グレンという男が話しかけてきた。
「哀れな漁師の子よお前にもう一度チャンスをやろう。
二十八歳のナオミに会わせてやる。
タイムマシーンと儂の魔術を駆使してな。
だがどうも他の者までついでに生き返ってしまうようじゃ。
見事二十八歳同士の戦いを乗り切り、無事生き残ったなら何でも願いを叶えてやるぞ」
ヘリに乗った俺に……あのグレンが!?
目を開いた刹那二十八歳になっていた。
その証拠に顎髭が生えている。
二十八歳のアイシャは美しく胸が若干膨らんでいた。
グレンの話は続く。
「舞台はこの北方大陸。ゲートの使用は不可。ゲートを使用を使用した者には罰を与える」
二つの世界を行き来するゲート。
そんな物まで呼び出せる奴と殺し合いをするのかよ。
「儂が復活させるのは十二名の選ばれし者たち。
順に、異世界人レナ、ハーフエルフナオミ、最強の召喚士キャンディス、竜使いメリア、占い師イザベル、獣人マンティコア、クロウ家の戦士アンガス、センジュ族の男ハモン、その息子アシュラ、魔女アンドロメダ、儂の娘フィーネ、そして道化師エルメス、だ。
各地に三体のディバインドロイドを放つ予定だ気をつけてな」
丘に現れた巨大な魔法陣から残りの人物たちが姿を現した。
ここに希望などない。
これは非情なまでの……殺し合いに発展する。
彼ら十二名に我々二人を足した十四名による生死を賭けたサバイバルゲームの幕が切って落とされるのだった。
初めて目にする強者たちだったが、殆ど存じ上げていた。
だがやはり許せないのは……金髪のレナ。
グレンの声は彼らにも届いていたようで、北の国の丘での戦いは避けられない。
凱鬼で太刀使いのレナに斬りかかる。
自分にしては素早い動きだ。
三年違えばこうも変わるか。
だがレナも歴戦の勇者。手元のアルマクルスが無ければ瞬殺もあり得た。
だがこうして剣を交え鍔迫り合いに持ち込めている。
この怒りを……力に変える時。
アイシャが中級雷属性魔法サンダーアローで加勢するが、二十八歳のレナは不死身だった。
グレンが心に語りかける。
(レナを殺すにはナオミとメリアとキャンディスが死ななければならない。
なにお前が勝ち残ればすべてを手にするんだ心配するな)
じゃあ今コイツと戦うのは無意味……!
レナサイドにいるのはメリア、キャンディス、アンガス……そしてナオミ!
此処は逃げるしかねぇ!
「退くぞアイシャ!何としてでも生き残ってくれ」
他方ではハモンとエルメスが手を組みアンドロメダと対峙していたし、彼女の傍にはフィーネがいた。
あのアシュラも父ハモンとの再開を若干喜んでいるかに見える。
その時、猫ソアクーラが体長二メートルに巨大化した。
跨り、飛ぶことに成功したがアイシャとは逸れてしまった。
ため息をつく間もない。
後方にはあのキャンディスが控えているのだ。
グレンもとんでもないゲームを思いついたものだ。
だがもう後には引けねぇ。
俺が勝ち残り、母さんと再び打ち解けるんだ。
マンティコアの傍にはイザベルが佇んでいたようで、早くもこのゲームのグループ分けは決定した。
だが、この大陸の地理は全く知らない。
二十八歳なら十四名全員詳しくないはずだ。
プラズマブレスを駆使すれば問題ないが、あれが支給されるのは戦士二級からだ。
丘を越えた所に村が見えてきた。
先ずは体制を整えるべく休憩といくか。
俺は「よくやった」とソアクーラの頭を撫でた。
家の門を叩く。
そこに居たのは北国の老婆だった。
神妙な趣の彼女は既に話すまでもなく事情を悟っているかに見えた。
彼女が口を開く。
「アイシャ・シルバーウィンドはその祖先フィーネとは違い光に満ちておる。彼女無しにして道は開くまい」
アイシャはフィーネやグレンの千年後の子孫。
千年を経て性格が似ていないのも当然か。
「だがそれよりもお前自身がレナに勝つには闇の力に手を染めなければならない。それで無くなる優しさなら始めから無いのと同じじゃ」
つまり非情になれと。
自身の奥底の悪と向き合い、それで無くなる光など無用だと。
俺は初めて見る老婆が全てを知っているのに不信感を憶えたが、占い師ならここまで見通す事も可能か。
「婆ちゃん占い師なのか?」
「左様。あのイザベルの子孫は北へ移住した。彼女やマンティコアと手を組むこと、期待しておるよ」
「アイシャは無事か?」
「うむ、あのマンティコア・ライデンが匿っておる。早くもこのゲームは四つ巴となったな」
「グレンはやはりディバイン・ドロイドを放つつもりなのか?」
「それは分からん。だが何れにせよこの広い大陸と言えど逃げるだけで道が開けるとは思えん」
「そうだな……先ずは俺が強くならねえと」
そしていつかはナオミとも打ち解ける。
今は変えられない運命でもいつか変える。
俺はこの村にアンドロメダとフィーネが訪れた事を明かされた。
「いつか此処も見つかる。闇を知るアンドロメダとぶつかるのも道理だが、手を組もうと努めるのも悪くない。好きにせい。何せ一対二じゃからの」
「何から何までありがとう。後はこの凱鬼で……道を切り開くだけだ」
確かナオミ・ブラストは剣を持っていた。
後に知るその剣の名は斬牙。
この凱鬼が選んだのは自分という事になるのだが、彼女と再会するのはもう少し先の話。
「いつか」
魔女を超え、レナも超える。
俺はそう心に決め、魔女との交渉に挑むべく、家を出た。




