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ARTEMA SAGA  作者: Rozeo
第1部 
2/53

第一話「王家の血筋」

「助けて……!」


金髪三つ編みの少女の声がする。

どうやら鎖で繋がれているようだ。

どこか懐かしさすら憶える声質だったが、誰かは分からなかった。

だがその者は確かに俺を知っていた。

そして何度ももがく様に手足を動かす。


今助けに行く、とは言わなかった。

だが不思議と手は彼女を救おうとしている。

誰がこんな目に……。

俺は自身の大剣で鎖を断ち切ろうとした。

斬れない。

それどころか、魔女らしき者の声が何処からか木霊してくる。

夢中だった。

俺はこの為に呼ばれた、そんな気さえした。

身体中から汗を放出しながら、俺はやっと瞳を開いた。

夢だったのだ。


ボロボロのベッドで寝そべっていだ俺は、珍しく早くに目を覚ます事になった。

小鳥の鳴き声で目を覚ます、というような形にはならなかった。

悪夢の後の、嫌な目覚めだった。


状況を整理した。

俺は昨日コカトリスを殺し、マゼラにいる。

そしてマゼラと言えば、昨晩話した男の素性が気になった。

店主が宴会に連れてきた、見窄らしい男。

昨日はほろ酔い状態で特に騒ぐような事は無かったが、聞けばロキ・レノンの末裔に当たるらしい。


ロキと言えば今俺が身につけている暗黒の鎧を元々所持していた者で、その昔はサルデアという国を築きた上げた初代国王である。

彼はアンデッド化した時に闇落ちしたのだが、その子孫があんな汚い格好をしているとは。


俺はまだ二十歳にも満たない若き青年の顔を思い出した。

肉にありつく顔はただの子供だったが、俺が暗黒の鎧を勝手に奪った事に何一つ口出ししてこなかった。


気弱なのか。

いやそもそも力がないのか。

俺は勇者という扱いだが、身分だけで言えばレノン家の足元にも及ばない。

レノン家と言えばクロウ家と並んでサルデアの名門とされた家系である。


「もう一度、会ってみるか」


俺は酒場を再び訪ねることにした。

マゼラの町ももうちょっと活気付いてくれればなぁ……。

思ったより、魔女の支配は行き届いていないようにも見える。


酒場の戸を叩いた。

宿屋も決して綺麗とは言えない内装だったが、この酒場も負けず劣らずだった。

とはいえマゼラの町で情報が集う場所と言ったら此処である。


「ぼ、僕に何か用ですか?」


若干追い詰められたような表情で男は言った。

名をアルフレドというらしい。

とんがり帽子を被っており、見窄らしい服装だった。


「昨日は聞きそびれたが……レノン家再興の夢はないのか?」


単刀直入に俺が言うとアルフは俯いて言った。


「僕では力及ばすです。このご時世乞食をしていくしかないのです。それが運命だと思っています」


「良いのか?本来なら贅沢三昧だぞ」


「………………」


性格は悪くない。

後はその曲がった根性をどうするかだった。

暴君と呼ばれた男は数多くいる。

アルフにその様な要素は感じられなかった。


「レノン家五代目かぁ……」


俺は欠伸をし、うーんと伸びをした。

どうも早起きは慣れない。


「外ではそんな大声で言わないで下さいね。命を狙われちゃう」


「そんなもんか?」


「ええ」


「じゃあ何で俺には打ち明けてくれたんだ?」


「あんな美味しい肉……初めてだったから。それにコカトリスを一人で倒せるなんて……思って」


「理由になってないな。まあお前みたいな餓鬼は嫌いじゃない。俺は当分マゼラに居座ろうと思う。仲良くしよーや」


俺はボンッと若者の背中を押した。

そしてカルーアミルクを頼む。

どうもキツい酒は口に合ってない。


「今日はタダには出来ませんぜ」


「チッ、バレたか」


俺は一文無しだった。

それにこの国でカルーアミルクはいかほど高級品なのか。

想像に難くない。


「それにしても昨日握手を求めてきたあの客人は宿屋の店主だろ?何もしてないのはあの物乞いだけか」


「僕も何もしてません」


「ならそろそろ動け。王家の末裔という立場ならな。昨日集まった四人の中で、一番将来性があるのはお前だ」


「………………」


アルフは恥ずかしそうに俯いた。

それにしてもサルデア国がここまで衰退するとは。

俺が実権を握ってもいいんだぞ?と試しに言おうとしたその時だった。

酒場の戸が開き、外からフードの剣士が入ってきたのである。


「レイヴン……!」


アルフが声を上げる。

レイヴンと呼ばれた男は背中に剣と盾を装備しており、顔はフードでよく見えなかった。

だがレイヴンと呼ばれる男はこの国に何人も存在する。

正式名は〇〇〇・クロウのはずだ。


「俺にも昔レイヴンという名の友が存在した。お前もクロウ家の一人か」


俺の問いかけを無視し、レイヴンはドカドカとアルフに迫り寄った。


「これで何度目だと思ってる、王権を俺に渡せ、さもなくば斬る!」


胸ぐらを掴まれたアルフは涙目である。

それでも代々受け継がれてきた王権を簡単に手放すつもりはないらしい。

何か深い事情がありそうだった。


「ぼ、僕は知ってるぞ……!レイヴンが本当はお金や女性目当てで王権を狙ってるって。そんなのあんまりじゃないかぁ……!」


「なんだとてめぇ。このままでいいと思ってるのか!」


レイヴンが剣を抜いたその時だった。

俺のファントムソードが割って入る。

どうやらレノン家の末裔はそこまで腐っては無さそうだ。


「なんだお前は!」


若干たじろいだクロウ家の末裔は思わず盾にも手を掛ける。


「俺はこの国がどうなろうが知ったこっちゃねえが、話が一方的過ぎるだろう。もっと冷静になれ」


「だ、黙れ!これで何回目だと思ってる!」


振り上げようとした剣を俺は大剣で叩き落とした。

所詮武器を所持していてもこの程度だろう。

アルフの前に躍り出て睨みつけると、レイヴンはそれ以上何も言ってこなかった。

そして


「覚えてろ!」

と店を跡にする。


「ありがとうございました」

と頭を下げるのは王家のアルフだった。


(なんだかなぁ……)

俺は大剣を持っていない方の手で頭の後ろを掻く。

店主が「勇者様に勝てるものか」

とやっと言葉を口にする。


「さて……」


ガタガタ震えているアルフの肩に手を当て、信じるものがあるなら突き進め、とだけ言った。

サルデア城には人間の死体や幽霊がいるだけである。

国を挙げるにはやはりレイヴンのようなやる気のある者に任せた方がいいのか。

知るか。俺はアルフ側に着いたんだ後は知らん。

酒場を跡にしようとすると、僕を助けて下さい……と泣きつくアルフの姿があった。


「自分で何とかしろ、と言いたい所だが……」


俺は店主と顔を見合わせた。

かぶりを振っている彼を見て、フーッとため息をつき、俺はこの言葉を口にした。


「着いてこい。死にたくなければな。どうもあの分だとレイヴンはマジでお前を殺しにかかる」


礼を言うアルフを無視し、額に手をやった。

本当に王族かコイツ……。

店主も勇者様に守ってもらえるなら、と喜びカルーアミルクを差し出している。

グビッと飲み干し外に出る。

味は格別だった。


アルフは十九歳の茶髪の青年だった。

聞けばエルフの血を少し引いているらしい。

あのナオミもハーフエルフだった事もあり、悪い印象は持たなかったが、レノン三世めエルフを娶っていたか。

エルフ族は初代国王ロキ・レノンの統治の頃からこの国で差別の対象とされており、ナオミも昔は辛い想いをしたはずだった。

だが国王がエルフの血を引いていれば、誕生する国は別のテイストを帯びる事になる。


「お前の祖父になら会ったことがある。その頃はサルデア王国も元気だった」


七年前の出来事である。

だが今はーーアルフの力を借りて勢力を伸ばしていく事になるのか。

ああもう、これだから面倒事は嫌いだ。

後継者争いだの、政略結婚だのに首を突っ込むのは好きじゃない。


「アルフ、どうした?」


歩道でガタガタ震えているアルフに対し目をやると、後ろを気にしている事が分かった。

黒のフードを着た集団。

レイヴンとその(しもべ)達と見て間違いない。


「殺気をあまり感じなかったな。痛い目見るというより死ぬぜ?」


とファントムソードを振り翳す。

敵は四人。

クロウ家の末裔とその僕達は、囲うようにして俺たちと対峙する。

既に殺す覚悟は決めていた。

アルフに伏せるよう促し、回転斬りを見舞う。


クルクルと回転しながらも、俺は地属性剣技「桜花」を放っていた。

ヒラリと花びらが剣先から飛び散り、範囲攻撃を可能にする。

敵は、あっという間に絶命した。


「レイヴン……せめて顔だけでも見ておくか」


俺は死体のフードを取った。

そこで初めて、レイヴンが人形であった事を認識する。

嫌な予感がする。

何者かがクロウ家の者を先に殺して操っていた事になる。


ギャアアァ


又もや烏が飛んでいた。

頭を押さえて伏せていたアルフが立ち上がり声を上げる。


「レイヴンを操っていたのは恐らくあの八咫烏です。名門クロウ家を操り、この国を支配しようとしたに違いありません」


クロウ家の者は烏と親交が深い。

それを逆手に利用したか。


「さっきまでレイヴン本人を疑ってたくせに……」


「いえ、あの大きな烏を見て確信しました。八咫烏はヒトを襲います。そして死体を操るのです」


「だがこれでスッキリしたな。元々はクロウ家もお前の仲間だ」


「はい!」


アルフは隠し持っていた弓矢を取り出した。


「これで射止めてみせます!」


「落ちてきたら俺の大剣で退治してやるよ」


コカトリスに比べたらなんて事はない相手な筈だ。

だが何故クロウ家の者たちは八咫烏にやられたのか。

まさか墓場に直接訪れて……!


「好き放題しようとしたらしいじゃねえか。やれアルフ。一思いに射殺せ」


アルフの矢。

吸い込まれるように飛んでゆき、命中したかに見えた。

だが八咫烏は簡単には落ちてこない。


「まあ最初はこんなもんだ。俺の魔術を喰らわせてやるよ」


光るライオンの鬣の首飾り。

下級魔法フレアが、俺の左手から湧き上がる。

覇!と力み、燃え盛る火の玉は八咫烏目掛けて飛んでゆく。

ボワッと燃え上がり、八咫烏は地上に落ちた。


「墓場を漁るなんていい度胸じゃねえか」


と大剣を偲ばせたまま歩み寄る。

そしてそのまま落ちた対象に縦に斬撃を見舞い、トドメを刺した。

その瞬間、自分の足元が光るのが分かった。


「こ、これは……!」


嘗てのクロウ家の仲間の加護が、俺に施されたようだった。

レイヴンを名乗る者のうちの一人、アンガス・クロウの思念体が、無念を晴らした俺に力添えする。


「凄い、これは正しく『クロウ家の加護』!それが有れば背中から翼を生やす事すら可能に!」


とアルフ。

どうやら冗談では無さそうだった。

翼か……。

恐らく漆黒の翼だが、本当に自分は悪魔に成りかけている。

俺は思わず苦笑した。


「城に行ってみよう。そこにいるエルメスなら力を貸してくれるはずだ」


頷き着いてくるアルフにはまだ幼さが見えた。

これから成長していけばいい。

俺も早いとこ魔術のスキルを上げないと。

サルデア城は所々ひび割れていたが、由緒ある大きな城だった。

門を開け、エルメス!と言ってみる。


「あらどうしたのその子」


声だけの存在に恐る恐る近づくアルフ。

そして自分が王家の末裔である事を口にした。


「あらそうなの。でも力不足だと死ぬわよこのご時世」


「そ、それでも民の役に立ちたいんです!本来なら僕は今日死んだ命。それをレナさんに助けてもらった。僕は……いつ死んでも構いません!」


やっぱり根はしっかりしてらぁ。

俺は微笑みながら彼を見た。


「昨日コカトリスの肉を配って良かったんじゃない?こんな素敵な出会いがあったんですもの。エルメス興奮しちゃう!」


気持ちわりぃ。

俺は心の中で呟き、アルフに向き直った。


「暇潰しにサポートしてやるよ。この鎧も貰っちゃったしさ。一緒に死のうや」


ポンっと肩に手を置き、城から見渡せる景色を一望した。

ドラゴンが空を舞っている。

いつかアレとも戦う日が来るのか。

体長八メートルの赤いドラゴンだった。


「レナちゃんに朗報よ。この城の地下に隠し通路がある。その先にはこの島のあちらこちらにワープできる石板があるのよ。凄いと思わない?」


「そうか……」


「何よその反応」


「いや……まあ確かにすげーよ」


俺はドラゴンを望みながら物思いに耽っていた。

新たな伝説を生む事は可能なのか。

それにしても石板によるワープか。

この島のあちこちへ赴き、国作りの基盤を整える事は可能だ。


「俺は名誉の為に戦う」


「はい!」


アルフは当然納得済みだった。

ドラゴンは南の山の方へと消えていった。

神秘的な存在である赤きクリーチャーは島の西部では崇拝されていたりする。


石板を見てみよう、と地下へ下りる事にした。

それは宝物庫よりもまだ下の、隠し階段によって隔たれた場所だった。

レバーを引いた先に現れた螺旋階段を下り、途中で左へ。その先にある梯子を降りた先にある、狭い空間だった。


「こんなところがあったなんて……!」


とアルフも驚いている。

それぞれ赤、青、黄色、緑に分類される四つの石板はこの国の東西南北に移動できる仕組みのようだった。

任務があればここから行ける。

俺はエルメスに「よくやった」と目線を送った。

ただアルフは無理に出向いても犬死するだけだろう。

やはり俺一人で行くしかない。


「これからの国作りの一歩に欠かせない存在だ、この石板は。ここの事は誰にも言うなよ?」


と念を押す。

そして試しに使ってみるかと赤い石板に手を掛けた。

光が、俺を覆う。

ここから移動した先に、何が待ち受けているのか。

まあ深くは考えまい。

何故なら着いた先でも再び石板に触れればいつでも城に帰られるからだ。


「あ、ちょっと」


と驚いたエルメスの声を背後に、俺は一人島の奥地へと消え去った。

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