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超技術で史実をぶん殴る  作者: ネムノキ
走り続けろ
69/70

凍結された研究

「で、なになに……、航空機以外のモノの検証もあるの?」

 適当に巻かれていた図面をひとつ、適当に広げて呆れる。

「どれだ? ……ああ、航空機以外はそれだけだぞ」

 第一研究室室長がそう言う。

「そうなの? えーっとこれは……『灯浮標』かな?」

 疑問符付きなのは、私の知っている灯浮標、ライトブイとかなり違った設計になっているからだ。

「そうだ。海軍と空軍、それに海上保安庁からの注文だな」

「ふむふむ。……電線を海底から通すとか、無理でしょ?」

「俺もそう思う。電線が千切れたら、と思うとな。第五の、お前はどう思う?」

「無理ではありませんが、事故があった時危険なので止めた方が良いです」

 第一研究室室長と第五研究室室長の言う通りだ。

「だよね。波力発電装置内蔵したらいいだけの話なのに、何でしてないんだろ?」

 そう言うと、何故か皆黙り込んだ。

「え? 何か変なこと言った?」

「変というか……。所長、もしかして知らないの?」

 第四研究室室長が尋ねてくる。でも、そんな言い方だと何のことか分からない。

「え? 何を?」

「波力発電の実験は凍結されたでしょう? 新聞にも載ってたわよ?」

「……え?」

 第四研究室室長曰く。

 波力発電の研究は、千九百十九年から房総半島にて行われていたけれど。試作の波力発電装置がしょっちゅう壊れるので、私が中東にいた頃に、予算不足を理由に実験は凍結されたのだとか。

「ほら、『農林業発展計画』で『籾殻発電機』が普及して、ダムが何個か出来て更に増える予定でしょう? それで前よりも電力供給が増えたから、わざわざ難しい波力発電装置を研究する必要もなくなった、って国は判断したのよ」

「ええー……」

 滅茶苦茶だ。確かに電力供給量は増えたけれど、それでもまだ不足しているのに。それに、離島への電力供給を考えると、波力発電は必要だ。

「波力発電って、そんなに難しくない筈なんだけどなあ……」

「そんなことありませんよ」

 第五研究室室長が私の呟きに反論する。

「波力発電は、近海や堤防に設置する以上、どうしても設置コストが高くなりますし。付着するフジツボや海水の腐食の保守点検も頻繁に必要です。また、台風や津波にも弱いため、かなり困難な技術ですよ」

 言われてみると、確かに難しそうな技術だ。

 だけれど、未来の知識を持つ私は、そう思えなかった。

「とりあえず、簡単に図面書いてみるよ。紙とペン貸して」

「おう」

 第一研究室室長が差し出した紙とペンで、ざっくりと図面、に満たない概念図を書く。

「こんな感じ?」

「これは……」

 私が書いたのは、『振動水柱型空気タービン方式』に分類される波力発電装置だ。波そのものではなく、波によって上下する空気を使って発電する仕組みで、発電出力は五百ワットにも満たない。

 だけれど、灯浮標程度ならこれで足りるのだ。史実では、これを搭載した航路標識ブイの先駆けにして完成体は『益田式航路標識ブイ』として知られていた。

「なるほど、波で上下する空気を使って発電するのか」

「軸受けの精度が良くないとかなり効率落ちそうね」

「保守点検も楽そうだな」

「発電出来ると思いますが、出力は小さそうですね」

「これなら、フジツボもマシだろうな」

 わいのわいのと図面(?)を検証し、皆が出した答えは。

「これ、波力発電の研究をしていた人達に渡しませんか?」

 というものだった。

「うーん……」

 その提案に、私は悩む。

 別に波力発電装置の研究やら名誉やらを渡してしまうことに躊躇は無い。けれど、そのために必要となるやり取りで、貴重になってきている、私が参加する研究の時間がなくなるであろうことが、嫌だった。

 せめて、民間への技術指導が上手く行っていたなら、研究の時間と両立出来ただろうから、波力発電の研究を渡しただろうけれど。

 悩んだ末、私はそのことを伝えることにした。

「別に渡すのは構わないけど。そのやり取りは私がやることになるよね? それは……」

「許可を貰えるなら、私がやりますよ」

 伝える途中で、第五研究室室長に遮られた。

「でも、私所長で責任者だし。波力発電装置の件は間違いなく大事になるから、責任者の私が話をした方が良くない?」

「そこは考えがあります」

 第五研究室室長は意外なことを言い出した。

「波力発電の研究に関わっていた人達を集めて、信州研究所の、もっと言うと私の第五研究室の一部門として取り込もうかと思いまして」

 そう言われて、私は気付いた。

「……もしかして、人手足りてない?」

「はい」

 第五研究室室長は深々と頷く。見回すと、他の室長達も頷いていた。

「なので、所長の書かれた波力発電装置の概略図を元手に、増員を図ろうかと思いまして」

「いやまあそれはいいけれど」

 と肯定はしておいてから、私が彼の提案に悩む理由を言う。

「そんなことして、信州研究所一強になるのは嫌だし。それに、私達の研究は軍機の絡むのもあるから、正式な形で研究員を増やすのは難しいのよ」

 そう言うと、室長達は唸って考え込んだ。

 元々、陸海軍を狙って私の技術を売り込んだこともあって、私の研究所の研究は、軍事機密が絡むものもある。だから、どれだけ忙しくても、下手に増員することも出来ないのだ。

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