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超技術で史実をぶん殴る  作者: ネムノキ
走り続けろ
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面倒な国際連盟臨時総会

《千九百三十年三月八日 スイス ジュネーブ》


 久々にやって来たスイス。

(いつかは観光で来たいなあ……)

 そんな儚い夢を抱きつつ、国際連盟の臨時総会にやって来た。

 さっきから、私をこんなところに連れて来やがった元凶のフランスの連盟大使が長々とした話をしている。

 参加者の皆が退屈そうに聞いている内容は。


『『ナイル流域水行政改革』と『アンデス水量問題調査隊』は国際的な水問題に関わるのだから、国際連盟で管理すべきだ!』

 だいたいそんな感じのことを、装飾たっぷりに言っている。

 フランス連盟大使が話を終えると、当事者達の反論が始まる。


『わざわざ国際連盟に組織を創ると、手続きが煩雑化するから反対!』

 と、ペルー。


『既に対象国で片付いた問題だ。口出しするな』

 と、エチオピア、イタリア、イギリス、日本。


『俺達も加わらせろ』

 と、チリ、ボリビア。


『やるなら早く決めてくれ』

 と、ペルシャ、アフガニスタン。


 そして、私の番がやって来る。

「それで、**所長はどうお考えで!?」

 ねえフランス連盟大使くん、私が人の顔と名前覚えられない、って、連絡されてるよね? 他の連盟大使はそれに配慮して発言してるよね? 何で君だけ空気読まないかなあ?

 でも、お陰で私達の『勝ち』は決まっていることが、分かった。

 内心でフランス連盟大使を嘲笑しつつ、発言する。

「確かに、『ナイル流域水行政改革』と『アンデス水量問題調査隊』は、国際的な水問題の解消の切っ掛けになり、ひいては紛争の原因のひとつを解決することは明らかです。なので、私としては、国際連盟の下管理されることに、賛成です」

 フランス連盟大使は、ニヤリと嫌らしい表情を浮かべる。

「しかし!」

 ここで私は、強く主張する。

「この二つの事業は、国でなく! 我々信州研究所が始めたことです! 本来国際連盟がやるべきことをやらないから! 私達が! 始めたことです!」

「私達が働いていないとでも!?」

 フランス連盟大使が野次を飛ばし、他の連盟大使から白い目で見られてたじろぐのを尻目に、話を続ける。

「何とか関係諸国から許可を得て! 計画が動き出してから!『我々がやってやろう』等と。……国際連盟は、いつからそんな盗賊紛いの組織になったんですか!?」

 馬鹿にされたと思ったのか、フランス連盟大使は顔を赤くする。実際馬鹿にしているんだから、その反応で正しいよ。

「しかし、国際政治が難しく、そんな簡単に物事を進められないことは、重々承知しています」

 ここは一転して、声のトーンを落とし、次話す要求を通しやすくする。

「そこで提案します!『水評価計画』の外部協力者として、我々信州研究所を加えることを!」

 これは想定内だったのだろう。フランス連盟大使は顔色をもとのものに戻す。


「その上で、『水評価計画』の会長に、我々に最も協力してくださり、又水問題の当事者でもあります、イギリス大使に就いて頂きたい!」


 そして次の発言を拍手で迎えられた瞬間、フランス連盟大使は慌てふためいた。

 これは、事前の根回しの成果だ。

 まず、イギリスがかけてきていた『ちょっかい』に対して、私が『ドバイ演説』で盛大に喧嘩を売り。イギリスと私達の仲は明白で巨大な利益が無ければ協力出来ない程度には悪い状態だった。この隙を、フランスは漁夫の利を得るべく狙ったのだろう。事前に話をしたペルシャの連盟大使から、そんな接触があったと聞いたし。

 でも、この大恐慌を乗り切るには、この『喧嘩』を手打ちにする必要が、双方共にあったのだ。そして、研究は私の得意分野で、国際政治はイギリスの得意分野なので、協力しようと思えば協力出来た。

 そこで、既に双方が協力体制にあった『ナイル流域水行政改革』の話し合いのついでに、これらの『水問題』関連の国際的な取り仕切りをイギリスに任せて、私達信州研究所は現場を纏めることを決めた。

 一見これは、私がイギリスに頭を下げたように見える。だけれど実際は、イギリスにこの難解な現場を纏められるだけの知識と技術は無い(というよりも私しか持っていない)ので、私の機嫌を損なうようなことをすれば、イギリスの失点になりかねない。でも私も、ここまで大きくなった話を纏めるには政治的センスが無く。母国日本も取り纏められる自信が無いため、政治的センスは世界一なイギリスに頼る他無い。そんな、双方共に相手に依存した状態なのだ。

 そんな状態に持っていけるので、フランスのせいで大きくなってしまったこの話を、イギリスと私達で分業しよう、という協定を結んだのだ。

 イギリスは、事情を知らない連中には、喧嘩相手を倒せたというポーズが取れる上に、この大恐慌の中各国との政治的繋がりを取れる。

 私は、イギリスから政治的センスを(勝手に)勉強する機会を得られ、研究に集中出来るようになる。

 双方ウィン・ウィンの協定を結べた。

 そして、『手土産代わりだ』と、イギリスは各国に根回ししてくれたのだけれど、結果がこれだ。

(ジョンブルと全面戦争しなくて良かったー)

 心底ほっとしている。

 私が座ると、私の提案通りに話が進み。フランス連盟大使は全く口を出せなくなる。

 なにせ、言い出しっぺはフランスなのだ。そしてそれに、条件付きとはいえ、妥当な条件で従うと私が言ったのだ。おまけに、フランス以外に話は通っているときた。今更フランスは反対出来ない。反対すれば、自分達の欲深さを晒すことになる。そんな政治的失点を犯せる程、フランスは幼い国家では無いのだ。

「では、賛成の方は起立お願いします」

 議長の言葉に、全員が立ち上がった。フランス連盟大使は、凄く苦々しい表情だ。

(ざまーみやがれ)

 これでようやく、研究に集中出来る。私はほっとした。

イギリスと信州研究所との手打ち。


主人公が基本的に『研究馬鹿』なこと、信州研究所に、国際政治に関わる体力と技量が無いことを理解出来ていない方々には、完全にイギリスに主人公が屈服した、という形になるのがミソです。

でも、主人公達の実態を知っている方々は『こいつら組みやがった!』と。敵とも手を組めることへの尊敬と。政治的なセンスを主人公達が、技術力をイギリスが得る機会を手に入れたことに対する警戒心を与えるという反応になります。


正に双方ウィン・ウィンなのですが、敵対している相手に対してそんな共闘状態に持っていける時点で主人公の政治的センスは進歩していますし、手札も揃ってきているんですよね。

最初の大方ハッタリだったころからしたら、成長したなあ(親バカ?)。

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