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超技術で史実をぶん殴る  作者: ネムノキ
走り続けろ
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手柄泥棒フランス?

《千九百三十年(昭和5年)一月三十日 東京》


 ロンドンで、軍縮条約について激論がかわされているニュースが連日流れる中、私は外務省と内務省から連名で呼び出しを受け、東京までやって来た。日本に帰ってきてようやく落ち着いて、久々の研究を楽しみにしていたのに。本当残念。

 さて、呼び出された外務省の応接室に行くと、外務大臣と内務大臣が揃って頭を抱えていた。

「……どうなさいましたか?」

「……ああ所長か。とりあえず、座りたまえ」

 内務大臣の言葉に従って、彼らの対面になるソファに座る。

 すると二人は顔を見合わせてため息をつく。

(え何……?)

 不安に思っていると、内務大臣が尋ねてくる。

「所長。政治家になる気は、無いか?」

「……はい?」

 思わぬ言葉に、聞き返してしまう。

「だから、政治家になる気は無いか?」

「ありませんよそんなの」

 私は断言する。

「だって、政治家になったら研究出来ませんし。今の、内閣の皆さんのお手伝いという立場で満足しています」

 そう、本音で言う。

 政治家になんてなってしまったら、研究を進められない。対アメリカの手札を増やせない。それは避けるべきことで。

 だけれど、私の研究が世界に与える影響が大きいのは、理解している。だから、オブザーバー的な立場で政治に関われる今の立場は、丁度良い立ち位置と言えた。

「そうか……」

 内務大臣は残念そうな表情でため息。流石の私でも、何かあったのか、理解出来る。

「何かありましたか?」

「それを君が聞きますか……?」

 何故か外務大臣に呆れられた。

「はあ……」

 気の抜けた返事をすると、外務大臣はため息をついてから、端的に言う。

「ペルーのことですよ」

「……ああ。『アンデス水量問題調査隊』の件ですか?」

 尋ねると、外務大臣は力無く頷き、理解出来ないことを言った。

「その件で、君が国際連盟から呼び出されたんです」

「……は?」

 理解が、追い付かなかった。だって、まだその調査隊は、編成と各国との調整の最中で。呼び出されるようなことは、まだ何もしていなかった。

「厳密には、『ナイル流域水行政改革』も関係しているが、な」

 内務大臣の付け足しのお陰で、少しだけ、理解出来た、かもしれない。

「『水問題』のことでの呼び出しですか?」

 二人は頷いた。

 水。それは全ての地球上の生物にとって必要不可欠なもので。昔から人々は水を巡って争いを繰り広げてきている。そこに口を出したことで、紛争になる可能性を、国際連盟は危惧している、のかな?

 そう思ったけれど、外務大臣に否定される。

「水問題は水問題なんですが。君の関係している、二つの事業が、世界の水紛争を解決するかもしれない。と、国際連盟は期待していましてね……」

 なら、何なんだろう?

「国際連盟は、この二つの事業の責任者を君として、その手柄だけを奪おうとしているのだ」

 なるほど。それは問題だ。

 『アンデス水量問題調査隊』も『ナイル流域水行政改革』も、完全な慈善事業でやっている訳では無い。慈善事業に見えるのはただの結果論で、実際のところは、私の特許料による荒稼ぎと、日本の国際的な評価を上げるためのものだ。そのために、信州研究所も、日本も、中々の資金を投じている。それをタダで国際連盟に取られるのは、結構痛い。

「手柄を奪うというのは、具体的には?」

「国際連盟の面目上の管理下に置くそうだ」

「具体的には、どの機関の下に?」

「『水評価計画』とかいう機関を新設するそうだ」

 凄い。『水アセスメント計画』なんて、八十年近く時代を先取りしている。

 じゃなくて。

「その資金の出所は?」

「実態が無い機関だからな。ほとんど君と我が国で出すことになる」

 思わず、私達三人は揃ってため息をつく。なにその滅茶苦茶な計画は。

「どこの馬鹿が考えたんですかその計画……」

「フランスらしいですね……」

「正気ですかフランス……」

「大方、『大国なのに関係出来てない!』等と、要らぬプライドを刺激されたのだろうよ……」

 確かにフランスは、この両方の事業に関与していない。だから、足を引っ張るついでに手柄を一部貰おう、というのだろう。

「……それで、何で私に政治家にならないか、聞いたんですか?」

「それはな、」

 内務大臣が説明する。

「君を国際連盟に送り込むことが出来れば、この企みを簡単に潰せるからだ」

「面目ではなく、実際にその『水評価計画』の長にしよう、というのですね」

 なるほど、面白い手だ。

「無理ですよ。だって私、それらの事業で凄い利益得られるんですから」

 そんなの、インサイダー取引を超越した何かだ。酷すぎてやる気も起きない。

「だから、どうしたものだと頭を抱えていたのですよ……」

 二人はため息をついた。

「そんなの、簡単じゃないですか」

 私は、そう注意を引いてから、とある案を口にする。

「それはいいな!」

「面白い手ですね!」

 すると二人は、乗ってくれる。

「では、ここは……」

「いやそれよりも……」

「そこはですね……」

 そうして私達は、悪巧みを始めた。

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