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超技術で史実をぶん殴る  作者: ネムノキ
走り続けろ
63/70

ペルー まだ注目されてないもの2

「いえ、貴女達のしたいということは理解しています」

 ペルー大統領は、言葉を選びながら言う。

「ですがそれは、貴女達の事情であって、我々には関係ありません」

 そう言われるのは想定していたし、当然のことだ。

 『ナイル流域水行政改革』は、信州研究所(日本)、イタリア、エチオピア間の問題でしかない。それを持ち出されたところで、ここ南米のペルーには関係の無いことだ。

 だから私は、未来確実に起こる、前世では発生した出来事で軽く脅す。

「そう言われるのは理解しています。ですが、我々が目を付けているのは、インカ帝国時代の施設なのです。今の貴国は、乾期でも水不足に悩むことはありませんが。この施設が老朽化しているのは確実であり、放っていた場合貴国が乾期に水不足に襲われるようになるのは確実です」

 水不足という脅し文句は効いたようで、ペルー大統領は前のめりになった。

「ということは、どの施設なのか、目星は付いていると?」

「幾つか目星は付けています」

「なるほど……」

 ペルー大統領は、何やら考え込む。

(結構長いなあ)

 長考だ。それだけ真摯に私の提案を聞いてくれているというのは、嬉しい。

(脅しが効きすぎたかな?)

 そう悩む程ペルー大統領は考え込む。

 そしてようやく、ペルー大統領は口を開いた。

「まず、我が国に派遣予定の人数は何人でしょうか?」

「五百人規模を予定しています」

 この五百人は、日本全国の大学の教授や学生に、一時的に信州研究所に出向して貰ってから、ペルーに来る人が大半だ。流石にこれだけの人数を、信州研究所だけで用意は出来なかった。

 けれど、お金を貰って好きな研究が出来るということで、まだ各所に打診段階のこの出向は、既に希望者を抽選しなければいけないことになっているらしい。私も、お金を貰って好きな研究が出来るなら、間違いなく応募するから、当然の反応かな。

 ペルー大統領は頷いてから、言った。

「なるほど。では、条件を言います」

 条件。どれが来るだろう、と事前に考えた問答を思い出す。

「はい」

「まず、現地の調査には、我々の用意した案内人の指示に従うこと」

「当然ですね」

「ホテル等の宿泊施設は、こちらが指定したものから選んで使うこと」

「問題ありません」

 これらは、当たり前の条件で想定内だった。でも、次は変化球な条件だった。

「そして、イギリスの考古学会と共同でやってください」

「イギリス?」

 多分、考古学の権威と一緒にやれ、ってことなんだけれど。

「どういうことでしょうか?」

 その意味をちゃんと聞いておく。

「はい。考古学については、イギリスは素晴らしい技術を持っています。彼らの案内の下であれば、やって貰っても構いません」

 私達としては全く問題の無い条件だ。むしろ、助かることだ。でも、ペルーの側には問題になるかもしれないことがひとつ。

「それだと、調査隊は千人規模になると思われますが……」

「構いません。千人でも二千人でも、一万人でも来てください」

 その言い方で、理解した。

 調査隊が滞在する間、ペルーには調査隊員を通じて外貨が落ちる。この不景気の中、ペルーのような産業基盤の貧弱な国にとって、その収入は貴重なものとなる。だから、調査隊の人数が増えるような提案をしてきたのだ。なら、こちらも泣く泣く没にした案を提案出来る。

 その前に、確認を取っておこう。

「ペルーとしては、調査隊の人数が増えることには、問題は無いのですね?」

「はい」

 良し、言質は取った。

「なら、中東諸国等やイタリア、エチオピア等にも声をかけましょうか?」

 一瞬、ペルー大統領の頬が緩んだのを、私は見逃さなかった。

(やった!)

 内心で喜ぶ。ペルー大統領は、この提案を断らないだろう。

 そして実際、断らなかった。

「我々としては構いませんが。派遣なさる三カ月前には、連絡をください。我々にも準備がありますので」

「分かりました」

 準備だけれど、中々速く終わるんだなあ。いや、終わらせる、のか。それだけ、ペルーの経済は悪いってことかな。

 不安を覚えつつも、尋ねる。

「他にも、条件はありますか?」

「はい。アンデス周辺に水をもたらす施設に壊れている場所があるなら、我々としては修復を行いたい。なので、その技術指導を、貴女達信州研究所とイギリス考古学会にお願いしたくあります。その、イギリス考古学会との繋ぎも、貴女に取って貰いたいです」

 これも、予想出来ていた条件ね。問題は無い。

「分かりました。任せてください。他には?」

 ペルー大統領は、少し考えてから言った。

「……ありません」

「では、文書を作りましょうか」

 この後私達は、『アンデス水量問題調査隊』の細かい条件を詰めていった。


(でもこれ、下手をすると調査隊一万人規模になりかねないけど、大丈夫かなあ?)

 話し合いが終わってから、寝泊まりに貸してくれている日本の大使館の客室で思った。

(……半年前には連絡することにしよう)

 そう勝手に決めて、私は日本向けの報告書を書いた。

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