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超技術で史実をぶん殴る  作者: ネムノキ
走り続けろ
60/70

リベリアにて 簡単なお仕事1

 十月四日に『大恐慌』が始まった。史実より二十日は早い、始まりだった。

(大丈夫。準備は出来ている)

 そう自分に言い聞かせるも、内心は『何故』という言葉で一杯だ。

 そんな中、外務省から、とんでもない『仕事』を頼まれた。




《千九百二十九年十一月十日 リベリア モンロビア》


 本当、忙しかった。

 外務省から依頼された仕事をこなすべく、ここ一カ月私はヨーロッパ中を飛び回った。

 依頼内容は単純で『技術を売る変わりに資源や技術を貰ってきて』ってことだ。

 大恐慌以前から、日本政府はそう売り込みをかけることを期待してはいたのだけれど。たった数日で株式市場の状況はドン底に落ち。なのに悪化する見込みはあっても良くなる見込みは無いとなって、なりふり構わなくなったのだ。


「その売る技術、私達の技術なんですが」


 そんな文句、言う筈もない。だって払うものは払って貰えるし、攻勢をかけるには良い時期だ。


 その、中休み的なお仕事として、私は西アフリカに位置する小国家、リベリアにやって来ていた。

「では、本題に入りましょうか」

 リベリアの大統領との会談。本題に入る前の長ったらしい無駄話を終え、本題に入る。

「今回貴国に来たのは、外務省からの要望を伝えるためです」

「ほほう?」

 リベリア大統領は、嬉しそうに笑う。私がヨーロッパでやっていたことから、何らかの貿易協定を結べると希望を抱いているのだろう。

 仕方がない。今の時代のリベリアには、仕事らしい仕事が無いのだ。コーヒー園はブラジルとの競争に負け。ゴム園は東南アジアの植民地のものに太刀打ち出来ず。何か農業をしようにも適した土地が無い。そして、漁に出ようにも、船を造る技術もお金も無い。

 それも、仕方がないことなのだ。元々リベリアは、アメリカの解放奴隷の捨て先で。専門的な技術を持った人なんて、解放奴隷にはいなかったし、めぼしい資源がある場所はイギリスに押さえられていたのだ。

 だから、私の訪問に希望を抱くのも、当然のことなのだ。だけれど。

(ごめんね?)

 全く申し訳無さを感じないけれど、そう心の中で謝ってから、私は告げる。


「貴国が先住諸民族に行っている虐殺行為を止めなければ、我々は貴国を援助出来ません」


「……は?」

 リベリア大統領は、硬直する。それを良いことに、更に条件を告げる。

「具体的には、先住諸民族の扱いを、アメリコ・ライベリアンと同等のものにすること。そうすれば、我々は貴国を様々な形で援助出来ます」

 そう言って暫く待つ。

 アメリコ・ライベリアンというのは、アメリカの解放奴隷の子孫達のことで、ここリベリアの支配階級の人々だ。彼らの先住諸民族に対する扱いは虐待という言葉では生温いもので、まさに虐殺、といったものだ。

 それを止めろと、私は言ったのだけれど。そんな、自分達の特権を捨てるようなこと、普通は出来ないし、しないし、したくない。

 リベリア大統領は理解が及んだようで、震えながら言った。

「あ、あのですねえ、『日本の』外交官さん? それは内政干渉というもので……」

「勘違いしているようですが」

 私は意図的にリベリア大統領の言葉を遮る。

「この要望は、我々信州研究所が、外務省から言われた諸々を、分かりやすく伝えただけです」

「……しかし! 日本と西アフリカには何の関係も無いでしょう!?」

 リベリア大統領は、ヒステリックに叫ぶ。

「まだ、勘違いしていますね」

 私は、大袈裟に呆れてみせてから、言う。

「要望してきた外務省は、日本、イギリス、フランス、イタリア、アメリカ、のものですよ?」

 リベリア大統領は、完全に呆けた。

 この仕事を頼まれた時、私も唖然とした。だけれど、聞いてみれば納得の理由だった。

 この時代、欧州諸国はアフリカに植民地を持っていた。というよりも、アフリカのほとんどが欧州諸国の植民地だった。リベリアの周囲も、欧州諸国の植民地だったのだ。具体的には、西隣はイギリス領、東から北隣はフランス領、といった具合に。

 そんな中で、リベリアでは、先住諸民族に対する虐殺に反抗する動きも当然あり。リベリアは何度も内戦状態に陥っていた。その影響は当然、西のイギリス領のシエラレオネ、東と北のフランス領西アフリカにも波及し。その後始末に、イギリスとフランスは何度も駆り出されていた。

 不景気になりつつある今、リベリアというまともな産業の無い、政情不安の国で内戦が勃発するのは明らかなので、イギリスとフランスはリベリアでの内戦を抑えたかった。だが、有効な手があまり無い。そこで、私に圧力をかけることで、間接的にリベリア内戦を抑えようとしているのだ。

 また、アメリカは、実質リベリアの宗主国だけれど。この不景気でリベリアに構っていられなくなったので、その面倒見を誰かに押し付けたがっていた。そこで、私達信州研究所にリベリアという不良債権を押し付けると同時に、最後に『自由民主主義の主』らしいことをしておこう、と、イギリスとフランスに便乗。

 そんなことをされて、『一国の産業の発展』を勝手に任されて困っていたところに、イタリアが協力を申し出てくれた。

 イタリアは、エチオピアとの戦争を回避したことで、用意していた軍事力を持て余していた。そんな中に、リベリア問題が持ち上がる。先住諸民族の扱いを急に変えたとしても、荒れるのは目に見えている。なら、何も考えずに『戦争だ!』と叫ぶ馬鹿共に現実を見せるのに丁度良いと、私達がリベリアに進出する際、軍事、警察的な協力を確約してくれた。

 また、この不景気は長引きそうなので、早めにイタリア企業の稼ぎ先を確保する必要もあり。リベリアという『未開発の市場』を手に入れるには、先住諸民族を弾圧されていては、人手の確保的な意味で面倒臭かった。なにせ、アメリコ・ライベリアンはリベリア人口の一割もいないのだ。

 で、我が国日本は、イタリアに乗っかっておこう、と考えた訳だ。

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