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超技術で史実をぶん殴る  作者: ネムノキ
最初から全力
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その頃の日本 災害救助隊初の大仕事

《千九百二十九年六月十六日 北海道 渡島半島》


 北海道駒ヶ岳が爆発した。

 その一報が政府から伝えられた時真っ先に動いたのは、災害救助隊北海道支部の保有する水上機『雷鳥』だ。一四式水上偵察機R型を、災害救助に使いやすいよう、低速時の安定性と整備性に重きを置いた改造のなされた機体で、国民から募集した愛称が付けられた機体だ。

 この機体で現場を偵察させようとしたのだが、真っ白な機体はすぐに汚れて室蘭基地に帰還することとなる。


「火山灰のせいで近付けない」


 航空機にとって、火山灰は天敵だ。実際、この時出動した『雷鳥』のうち二機は、長時間現場に近付く努力をしたため、基地に帰還後エンジンを全交換することになった。しかし、彼らの努力は無駄ではなく。史料とこの偵察の情報から、駒ヶ岳にて激しい噴火が予想されることが分かった。

 この報告を受けた政府は、噴火を原因とする大規模な火災が起こることを懸念。災害救助隊本部及び北海道支部に『出動命令』、神戸支部に『救援物資輸送命令』、東北支部に『出動待機命令』を発した。災害救助隊、創立一年未満にして初の大規模出動である。

 北海道支部はすぐさま自前の輸送船で移動を開始すると同時に、複座である『雷鳥』に、現場指揮の出来る『小隊長』(陸軍の少尉相当)を乗せ、先行させて現地の警察と協力し、駒ヶ岳周辺住人の避難を開始する。

 この時、予想外のものが避難を遅らせることになる。


「牛さ置いて行ったら、オラ達どう生きていきゃあいいだ?」


 北海道駒ヶ岳の周辺では畜産が盛んであり、畜産農家にとって牛は財産である以上に家族だった。現地の陸軍師団出身者のうち、希望者を集められた災害救助隊の隊員は、そのことをよく知っていた。よく知りすぎていた。

 そのため、人間の避難を優先する形ではあるが、牛馬の避難も現場の判断で始めてしまったのだ。

 この事実を知った災害救助隊の面々は、この危険な行動を止めようとするも、安全圏と思われる場所の畜産農家も進んで協力していたことで、この避難を受け入れざるを得なくなる。


 出動命令が出されてから四時間後。現場に到着した災害救助隊は防火帯を造るべく、森林の伐採や田畑の作物を踏み潰し始める。こちらでも、問題が発生する。


「田んぼ潰されちゃ生きていけねぇだ」


 政府から、この災害についての補助が出ると決められたことを知らない人が多かったのだ。この日に決定されたことを、ラジオも持たない一般市民が知るのは無理があるのだが。

 災害救助隊は補助回りの説明に時間を取られ、田畑に防火帯を造ることは遅れに遅れた。

 一方の森の方は。


「手伝わせろ」


 災害救助隊員だけでは、防火帯を造るのに人手が足りていなかった。そこに、現地の林業関係者が協力を申し出、それを災害救助隊も承諾。森林方面の防火帯造りは予定より速く終わった。

 この後、森林にて防火帯造りをしていた隊員の一部が田畑の方に向かうことで、なんとか田畑の防火帯造りは進むこととなる。


 予定より遅れてはいたものの、周囲の街や村の方向の防火帯を造り終えた。しかし、現場からの退却が終了していない十七日零時三十分、駒ヶ岳は小規模な噴火を始める。それに伴い、災害救助隊と林業関係者は現場からの退却を急ぐ。

 同日十時。駒ヶ岳が本格的な噴火を始めた。

 地鳴りと溶岩の噴出を伴う激しい噴火に、駒ヶ岳周辺の森や草原は燃え、また堆積していた火山灰が泥流となり避難区域の村々を飲み込む。


 噴火は十九日まで続き、二十一日にようやく活動が終わる。


 避難と防火帯のお陰で、死傷者こそ出なかったものの、降り積もる火山灰にこの年の北海道南部及び東北北部からの田畑の収穫が減る、場所によっては絶望的なことは明らかだった。

 そこで政府は、丁度行っていた『農林業発展計画』の第二弾として考えていた『物流改革』を、当該地域で始める。これは、道路網や鉄道網の統合、開発をすることで国内の物流を滑らかにし、経済発展の糧とする計画であった。

 丁度農林業発展計画のお陰で国内の食料生産量が増加していたこと、ひいては税収も増加する目処が立っていたこともあり、特に混乱は無く北海道や東北において物流改革が行われる。

 『大勢身売りする人が出る』と言われたこの災害は、終わってみれば北海道や東北地方が発展し、当然身売りする人も出ない、という結果に終わった。


 一方、災害救助隊は、この大規模出動で得られた『戦訓』の分析で忙しくなった。物資の管理、現場の判断と暴走、そして協力を申し出た一般人への対応等々。


「今回は上手くいった。だが、次も上手くいく保証は無い」


 災害救助隊の面々はそう危機感を抱き、組織や装備の改革と共に訓練に力を入れていく。


 後の世では『守護神』と呼ばれ、世界的に愛される組織となった災害救助隊も、この時はまだまだひよっこだったのだ。


 そして、国民の意識にも変化が訪れる。


「村にラジオのひとつ位、なきゃ危ねえな」


 災害救助隊の活動が、政府発表が伝わっていなかったことで遅れたことに危機感を抱いたのだ。

 国の方針もあり、以後最低限村にひとつ、ラジオが置かれることになる。


 その危機感は軍も抱き。


「情報伝達は死活問題だな」


 陸海共に無線機の配備が進む。同時に、火山灰等で航空偵察が出来ない環境への対策を考え始める切っ掛けとなった。



 このように、北海道駒ヶ岳の噴火は、日本各地の意識を変えていく出来事となったのだ。

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