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超技術で史実をぶん殴る  作者: ネムノキ
最初から全力
50/70

エチオピアにて 国王さんから尋ねられる2

「改めて聞かせてくれ。貴女が、我が国に投資した理由は何だ?」

 そう言った国王さんの視線は、確かに鋭いものだった。だけれど、その奥には、理解出来ないものを見るような恐れが存在している。

(なるほどなあ……)

 微妙にトラウマを刺激される視線だけれど、理解出来る。

 私がエチオピアに投資したお金は、中々の額だ。技術指導に本来かかる値段も併せれば、日本やヨーロッパでも、ちょっとした街が造れるレベルだろう。

 でも、研究開発、って、そんなものなのだ。街が造れるレベルのお金なんて、安い方だ。私の前世にあったとある研究なら、トータルすれば南北アメリカ大陸を買える位のお金が必要だったものもある。

 ただそれを、この『王』、いや『政治家』に言ったところで、理解されないだろう。だって研究開発は一種の博打で、政治家はリスクを徹底的に避けるのが仕事だからだ。リスクを潰すのが仕事だからだ。そうして支出を減らして必要なところに分配するのが、政治家の仕事だ。

 そんな彼からすれば、こんなお金をドブに捨てるようにしか思えない行為、到底許すことは出来ないだろう。

(どう説明しようか)

 この王を説得するのに、研究者的な思想とか人道とかをぶつけても無駄だろう。なら、少しだけ政治家的な攻め方でいこうか。

「先程国王さんが言った通り、研究のためです」

「ほう」

 『それだけではないだろ』という表情をする国王さんに、私は説明する。

「今回、我々信州研究所が貴国に指導している『コンクリート』と『重機』の技術ですが、これらはとにかく使ってみてデータを収集することが重要な技術です。これらは、日本からのデータは十分にありますが、正直不満なものでした」

「不満? 十分にあるのにか?」

「はい。日本の風土は温暖で穏やかなので、集まるデータは普通の環境のものでしかないのです。満足出来たのは、塩害に対するデータだけです」

「済まないが、私にはそれで十分だと感じられるのだが」

 首をかしげる国王さんの言葉を否定する。

「研究者、技術者としては不満ですよ。そりゃあ、想定内の環境のデータも、何万何億と必要ですが、過酷な環境のデータこそ、これらの技術を発展させるのに必要なのですから」

 いまいち理解出来ていない様子の国王さんに、分かりやすいであろう例えをする。

「晴れた良い気候の時だけ実験された銃と、天気に関係なく、何なら泥まみれの実験もしてみた銃、どちらを使いたいか、という話です」

「それは泥まみれの方だが……、なるほど」

 理解してくれたようだ。安心して説明を続ける。

「そういう意味では、エチオピアでの工事に参加するのは最高です。日本の河とは比べ物にならない程大きな河や山、変動の大きな気候の下で重機が働き、コンクリートが使われる。それらのデータは、私達が欲してやまないものです」

 これらのデータは、コンクリートや重機の耐久性を上げるのに必要なものだ。前世の車開発でいうところの、『F1』や『ラリー』『耐久レース』に相当する。

 もちろん、他の理由もある、

「そしてエチオピアは土地が広い上に、標高が高いところから低いところまで揃っていて。なおかつ高温な場所から温暖な場所、多湿な場所も乾燥した場所もある。単純に得られるデータの種類も多いのです」

「つまり、我が国に技術指導する際得られるフィードバックが、君達は欲しい、と?」

「はい」

 国王さんの問いを肯定する。

「コンクリートも重機も、日進月歩の技術です。なのに日本の技術は出遅れています。貴国からの情報が得られれば、それに追い付くことが出来る。何なら、追い越せるかもしれない」

「その見返りが、貴女からの資金援助、な訳だな?」

「他のものも含めた見返りですけどね」

 苦笑して返すと、国王さんは思い当たるものがあったようだ。

「他の、というと、『樹木排水』か?」

「あと、『水草を使った水温低下』の実験も、ですね。このふたつは日本では出来ませんし、何より膨大な土地が必要です。貴国からの協力が得られたことで、これらの実地試験が可能になりました。本当、助かりました」

「なるほど……」

 国王さんは、うんうんと頷く。

「そんなに助かったなら、もう少し我が国に還元して欲しいが」

 冗談めかして言われた言葉に、私は「なら」と言う。

「私達信州研究所が、私塾を開く許可をくれませんか?」

「……ああ、貴女の国の外務省からもそんな相談があったな」

「はい」

 信州研究所アディスアベバ支部の副支部長が勝手にやっていた、塾のようなもの。これの許可を正式に貰おうと思っての発言だったのだけれど。

「許可しよう。書類は後から用意させる」

 あっさり許可が出てしまい、少し呆ける。

「……良いのですか?」

「勿論だ。我が国では、専門的な知識はまだまだ不足しているからな。何なら、僅かばかりだが資金の援助もしよう」

「それは助かります」

 頭を下げる。

「では、そこら辺の詳しい話をしましょうか」

 でも、この国王さん、何か企んでいそうなんだよね。

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