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超技術で史実をぶん殴る  作者: ネムノキ
最初から全力
5/70

中々思い通りにいかない

《千九百二十八年(昭和三年)一月四日 『信州研究所』》


「駄目かあ」

 私は、研究員達と頭を抱えていた。

「まさか、ここで躓くとは……」

 政府や財閥から、多額の資金と人員の支援を得る切っ掛けとなった、『培養ディーゼル』。この研究が、予想もしていなかったことが原因で頓挫していた。

「『炭酸ガスの抽出方法の確立』なんて、楽勝だと思っていたのに……」

 今、商業的に行える炭酸ガスの抽出方法は、原油か褐炭が必要となっている。だけれど、ディーゼルを造るのに原油が必要なままだとよろしくないし、褐炭の国内生産量も、そこから抽出出来る炭酸ガスの量もたかが知れているので、選択肢には無い。

 なので、手っ取り早く火力発電所の排気から回収出来ないか、と試行錯誤しているのだけれど。

「火力発電所の排気って、こんなに窒素酸化物とか硫黄酸化物が含まれているんだね……」

 貧弱な脱硫装置しか無い現在では、どうしても排気に高濃度の窒素酸化物と硫黄酸化物が混ざる。この、硫黄酸化物が特に問題で、二酸化炭素を排気から抽出する際、とても邪魔になるのだ。

「それに、煤塵も多いです……」

 研究員が指摘する。

「それは、第三研究室が成果を出すのを待つしかないね……」

 因みに、第一研究室は培養ディーゼル。第二研究室は金属再結晶化技術。第三研究室は火力発電所の効率化。第四研究室は合金やコンクリート等の改良。第五研究室は人員を集めているところだ。

「……とりあえず、普通の空気を送り込んでも、少量のディーゼルが出来るから。ポンプ、というか、培養槽に空気を送り込む装置を改良しようか」

 そう第一研究室の当座の方針を決め、第三研究室をせっつきに行く。

 するとそこでは、論争が起こっていた。

「だーかーらー! 煤塵の回収装置を優先してください!」

 どうやら、第四研究室の室長が殴り込みに来ているようだ。

「しかし、政府と海軍から、廃熱回収ボイラーを優先的にやれと……」

「火力発電所の煤塵があれば、ポルトランドセメントが改良出来るんです! こっちは住友とか大倉とかの財閥からせっつかれてるんですよ!」

 うわあ面倒臭い。早速派閥争いとか。

「私の研究所でそんな無駄なことしないでよ」

 呆れつつ、言い争う二人の間に割り込む。

「所長!」

 第四研究室室長が驚きの声を上げる。

「火力発電所の煤塵、特に石炭火力発電所のフライアッシュは凄いでしょ?」

「はい! あれは骨材の革命です!」

 第四研究室室長が元気よく答える。彼女は、この時代に女性でありながら研究者を目指していただけあって、とても勝ち気だ。第三研究室室長ではそのうち論破されていただろう。危ないところだった。

「でも、不純物があると、その性能も落ちるでしょう? ねえ、廃熱回収ボイラーの研究はあとどれ位で出来る?」

「……あと二カ月はかかります」

 第三研究室室長は苦虫をかみ潰したような表情を浮かべる。そりゃあ、始めは火力発電所相手だけの研究だったのに、気付けば軍船や機関車のボイラーまで相手にしないといけなくなっていたのだから、研究も遅れるし、嫌な気分にもなるよね。

「よろしい。じゃあ、廃熱回収ボイラーの研究が終われば、メインボイラーの効率化と同時並行で脱硫装置の効率化よろしく」

「所長!?」

 第四研究室室長が悲鳴のような声を上げる。

「あのね? フライアッシュの高品質化はメインボイラーをもっと高温にして、脱硫装置を強化しないと出来ないの。で、廃熱回収ボイラーはその研究の予算を引っ張ってくるために必要。だから、今は我慢して」

「……分かりました」

 渋々といった様子で第四研究室室長は引き下がった。

(餌がいるかなあ……)

 頭ごなしに否定されて、良い気はしないだろう。

「確か、成分的に稲藁とか籾殻の灰はセメント造りに使える筈なんだけ……」

「やります! やらせてください!!」

 餌を垂らすと、すぐに食いついてきた。

「う、うん。じゃあお願い」

「ヒャッハー!」

 第四研究室室長は奇声を上げて去っていった。

「……ありがとうございます、所長」

 ため息をついていると、第三研究室室長が頭を下げた。

「ん? いいのいいの。第三研究室でやってることは軍事力、特に海軍力の向上に繫がるからね。お得意様から頼まれてるし、君達には頑張って貰わないと、ね」

「お得意様、と言うと、軍、ですか?」

「特に海軍だね。あと各財閥。陸軍から貰った予算は殆ど第五研究室用だけれど、少しは君達に行っているんだよ? 責任重大だね」

「胃が痛くなりそうです」

「お粥用意しようか?」

 そう言うと、第三研究室室長は困ったように笑った。

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