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超技術で史実をぶん殴る  作者: ネムノキ
最初から全力
49/70

エチオピアにて 国王さんから尋ねられる1

《千九百二十九年五月二十八日 エチオピア アディスアベバ》


 はるばるやって来たエチオピアの第一印象は、『川と谷が多い』という感じだ。東部の乾燥地は割となだらかなところが多いらしいけれど、それでも『割と』という程度で、説明してくれるイタリアの駐エチオピア大使館の職員からすると、かなり起伏が激しいらしい。日本の駐エチオピア大使館の人はそうでもないと言うけれど。

 それでも、アディスアベバまでの道のりはイタリアの人も日本の人も、現地のエチオピアの人も同意する程険しくて。谷と川が入り交じった地形は、まさに天然の要塞で。何故エチオピアが独立を保てたのか、良く分かる。

 そんな地形なので、イタリアは、当初エリトリアからアディスアベバまで真っ直ぐ繋げるつもりだった鉄道の計画を、変更する羽目になったそうな。ソマリランドからエチオピアへの鉄道は敷設が始まっているから苦情は出ていないけれど、エリトリア側からの敷設の予定は未定になったため、エチオピアとしては微妙な心情なんだとか。

 私の援助で造られている水路とか、イタリアとエチオピアが共同で建設している橋とかを視察しつつ。雨に降られたりしながら馬と徒歩でたどり着いたアディスアベバは。

「うーん気持ちいい」

 とても春らしい気候で。疲れた体に優しい風が吹いていた。

「ここは年中こんな感じですよ?」

 エチオピアから、案内兼護衛として付けて貰った近衛兵の人が、少し訛ったフランス語で説明する。

「まあ、こんな過ごしやすい場所だからこそ、首都になったのですが」

 熱帯の安定した気候の、二千五百メートルという標高の地は、こんなにも快適なんて。前世の知識で知っていても、経験として知るのは、知識の深みが違うなあ、としみじみと感じる。

「ここを首都にした人は偉いね」

 三割程リップサービスを込めて言うと、近衛兵は照れたように笑った。

 一応、親善も兼ねての訪問なので、一カ月程はエチオピア側の用意した建物に泊まることになる。そう日本の外務省の人から聞いていたし、私も同意していたんだけれど。

「……へ?」

 案内されたのは、エチオピアの宮殿だった。宮殿、といっても、普通の家にしか見えない、質素なものだ。そこに、護衛の兵士が分かりやすく立っていて。素人目だけれど、警備はしっかりしている。

「え、いいのこれ?」

 護衛の近衛兵の人は、してやったり、という表情で言う。

「これは、我々の貴女に対する誠意です」

「誠意?」

 意味が分からずに聞き返すと、近衛兵の人は「はい」と答える。

「そこからは、私が答えよう」

 そう、王宮の方から唐突に出てきたのは、溌剌とした男だった。

 彼が誰か分からず混乱すると、近衛兵の人はさっと跪く。その動きに、彼が誰か悟ったものの、どう行動すべきか分からずあたふたする。

「楽に。貴女も、そんな慌てないでくれ」

 ハハハ、と軽快に笑う彼に、私は確認を取る。

「貴方が、この国の王様ですか……?」

 外務省の人達から、エチオピアの皇帝は、元摂政の方だと聞いている。

「ああ、その通りだ。**……、いや、シンシュー研究所の所長さん」

 どことなく威厳と説得力を感じる彼の言葉に、この男が件の国王なのだと確信した。

「貴女は、この国を救ってくれた人だ。中には『聖母マリアの化身』だなんて言う人もいる程だ。だからそう改まらないでくれ」

「……分かりました」

 この国で一番の権力者という割にフレンドリーな国王さんに毒気を抜かれる。この様子なら、尋ねても無礼では無いだろう。

「では、先程おっしゃった『誠意』とは何ですか?」

「ああ、それはな」

 国王さんは、少しだけ姿勢を正し直して答える。

「この宮殿が、今のエチオピアを表しているからだ」

「どういうことですか?」

「この宮殿、宮殿というより家にしか見えないだろう?」

 咄嗟に返事が出来ない。なにせ、国王さんの言う通りだからだ。

「無理に答えなくて良い。その反応で分かるからな」

「……すみません」

「まあともかく、今の我が国には、宮殿を建てる余裕も、技術も無いのだ。何なら、お金を積んで建ててくれる国もない。なのにヨーロッパ諸国に占領されていないのは、ひとえに扱い難い地形と緩衝地帯としての役割からだ。だが、その役割も、終わろうとしていた」

 国王さんの雰囲気が、重苦しいものになる。

「ヨーロッパ諸国が、勝手に我が国をイタリアのものにしたのだ。勿論我々は抵抗し、一回は勝ったが、次も勝てる見込みは無かった。まさに絶望的な状況だった。だが、状況が変わった」

 国王さんの重苦しい雰囲気が、柔らかいものに変わる。

「イタリアは、我が国を武力をもって占領する必要がなくなったらしい。その原因は、君の母国の日本にある」

 これはきっと、イタリアが日本の『農林業発展計画』を真似していることを指すのだろう。

「それだけではまだ足りなかった。イタリアは次の手として、ダムを使って経済的な侵略を狙ってきたのだ。これは、国民からの声もあって断れなかった。だが、貴女が資金と技術を援助してくれたことで、我々はイタリアに何とか対抗出来る見込みが出来た。だが、貴女は言う。『これは研究の為だ』と」

 国王さんの視線が、鋭いものになる。

「改めて聞かせてくれ。貴女が、我が国に投資した理由は何だ?」

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