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超技術で史実をぶん殴る  作者: ネムノキ
最初から全力
47/70

いつの間にか始めていた エチオピアの教育改革

《千九百二十九年五月二日 エリトリア アスマラ》


 ドバイでの演説の後、日本の外務省の人と護衛にホテルに缶詰にされ。翌日、日本の駐ペルシャ大使館の職員に怒られた。曰く「やり過ぎだ」とのこと。

 一方で、こうも言われた。

「助かった」

 日本は中東諸国からの石油に依存しているため、それらの国々のご機嫌を取らなければならない。何ならイギリスのご機嫌よりも重要だそうで。

 そんな中で、ムスリム寄りの発言をしたことが、とっても中東諸国の人々の自尊心や愛国心を刺激したそうで。日本の外務省としては、手の平返しに思える程仕事をしやすくなったそうな。

 倒れた英連邦大臣? 何か病気療養に入って、大臣を引退したんだって。健康は大事なのにねえ。と、皮肉を言ってみる。


 そんな訳で。私は、この外遊の最大の目的地となるエチオピアの手前、イタリア領エリトリアの首都アスマラまで来た。

 真新しい、何か良く分からないデザインの建物の多いアスマラでは。一カ月程前に、初めて信州研究所がアフリカに造った支部『信州研究所アディスアベバ支部』で。樹木排水の実証実験の担当をしている、アディスアベバ支部副支部長から。実験のために苗を用意してくれているナツメヤシ畑の木陰に座って、現地の話を聞いていた。

「なるほどねえ……」

 副支部長によると。イタリアがエチオピアに進出したかったのは、イタリア本国の人口が増えすぎ、仕事が足りなくなり。またイタリア本国に鉱物資源があまりないのが原因だそうだ。

 だけれど。エチオピアは鉱物資源があまりないし、河と谷が入り交じった交通の便が非常に悪い土地だ、ということもあり。本音としてはあんまり植民したくない土地だった、のだとか。

 それでも人口は増え、困っていたところ。極東の日本という小さな島国が、今ある国土を開発することで経済を発展させ、同時に増えすぎだった筈の人口問題を解決し人手不足が叫ばれる程仕事と居住地を増やしたことに、イタリアのドゥーチェと王は注目。真似してみたところ、これが凄く上手い手だったようで。

 エチオピアに進出する必要が無くなってきているそうな。

 それでも、将来のために市場は確保しておきたいよね、と、エチオピアには経済的に進出する方針に切り替えた、とのこと。

 だけれど、エチオピアやイタリアのアフリカ植民地には、大きな問題があって。その解消のための支援を、アディスアベバ支部はエチオピアとイタリアの両国から暗に頼まれているのだとか。

「『大学を創ってくれ』って、そんな簡単にねえ……」

「本当、困りますよ」

 今、エチオピアでは教育制度を初めとした、様々な社会制度の改革の真っ最中だそうで。日本の戦国時代さながらに諸侯に権力が分かれていたのを中央に集めたり。憲法を作り始めたり。初等教育をする機関を作ろうとして、教師不足に挫折したりしているそうな。

「うーん」

 これについて、私や信州研究所が出来ることは、あまりない。

「……とりあえず。見所のある、エチオピアの人を何人か、アディスアベバ支部で助手として雇ってみる? 老若男女問わずが条件だけど」

「よろしいのですか?」

 副支部長は驚いた様子で尋ねてくる。

「うん。今でも、案内人とか通訳とか雇っているんでしょ? その延長線上の話だよ。あ、予算以内には収めてね?」

「ありがとうございます!」

 副支部長は頭を下げる。その様子に、何となく、既に目を付けている人がいることを察した。

「……もしかして、仕事の外で勉強教えている子でもいた?」

 かまをかけてみると、副支部長は固まった。

「あちゃー」

 私は頭を抱える。教師不足で困っている地域でそんなことしたら。しかも『お金持ち』がそんなことしたら。そりゃあ『大学創って?』なんて話になるよ。

「……や、やってしまったことは仕方ない、か」

 気を取り直す。副支部長のやったことは迂闊だけれど、あんまり人のことは言えないし。それに、考え方によっては、良い一手と言えた。

 エチオピアの人達からしたら、信州研究所なんて、どこか遠くから来たお金持ちの道楽集団でしかない。そんな人達が、自分達が願ってやまない、『教育』を受けさせてくれたら。お金持ちの道楽集団は、お金持ちの良い人達に変わる。

「君達のことだから、報酬らしい報酬なんて貰ってないんでしょ?」

「……はい」

 縮こまる副支部長に言う。

「責めてる訳じゃないの。でも、どうせなら、やり方を変えてみたら?」

「変える?」

 おずおずと尋ねてきた副支部長に、私は頷く。

「うん。今は、どんな風にやってるの?」

「え、ええとですね……。午後の暑い時間帯に、ヒエとか野菜とか貰う代わりに、勉強を教えています」

 一応言っておくと、副支部長という男は、どこかの大学で教授をやっていてもおかしくは無い程度には頭が良いし、人に教えるのが上手い。そんな彼から勉強を教わるにしては、些か安すぎる報酬だろう。

 でも、彼の善性と、今後アフリカで研究を展開していく都合からすれば、エチオピアの人々には、最低限の読み書き計算位は出来てもらわないと困る。

 現地の人達が足し算引き算出来ないと、注文した数だけナツメヤシの苗が届かない、ってことになるからね。いや、現時点でもイタリア側の協力者はそのことを嘆いていた。なにせ、何万本という単位で苗が必要なのだから。

「なら、こうしてみよっか。ヒエとか野菜、もしくはお金を、授業料としてちゃんと払って貰うの」

「それは!?」

「話は最後まで聞いてね?」

 はやる副支部長を抑え、説明を続ける。

「そして、貰った野菜とかお金で、ご飯を作るの。昼食か夕食かは君達が考えるとして。で、作ったご飯を、生徒さんに食べて貰う。授業料は、ギリギリ利益が出ない程度で貰ったら良いんじゃないかな?」

 学校の、教育の重要性を分からない人だっているだろう。そんな彼ら彼女らだって、ご飯を貰えると分かれば、勉強しに来る。前世で教育制度を普及させたい国や組織が常用していた手だ。

 私達がやるには、予算の問題とか外交上の都合とかがあるから、このやり方で授業料を取るのが色々な意味で限界だろうけれど。

「……良いのですか?」

 その光景を想像したのか。今からワクワクしている副支部長に、私は手をパタパタと振る。

「いいのいいの。ただ、貰った野菜とかお金の使い道は、生徒さんや保護者さんにちゃんと説明すること。必要な資金は、エチオピア政府と日本の外務省と相談してからだけど、ちゃんと用意するから。やってみたら?」

「やってみます!」

 副支部長は、グッと両手を握った。

エチオピアの辺りでは、ヒエの仲間のテフという作物が主食らしいです。

つまり、副支部長は勝手に主食と野菜貰って勉強教えていたと。


今の時代の倫理観なら、首や降格間違い無しですね。

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