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超技術で史実をぶん殴る  作者: ネムノキ
最初から全力
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シャムにて 感謝を

《千九百二十九年三月十日 シャム バンコク》


 チャオプラヤー川の河口から、ボートに揺られて上陸したシャムの首都、バンコクで。

(なにこれ!?)

 シャム陸軍に警護される馬車に乗り、笑顔を貼り付けて街道の人々に手を振る。皆笑顔で、何かを大声で叫んでいる。

(コープ……何だろ? 良く分かんないなあ)

 罵倒されている訳ではなさそうだけれど。

 あれよあれよという間に王宮に着き、シャム国王とその王妃と面会して、儀礼的なやり取りをした後は、晩餐会に招待を受け。フランス風の料理とシャムの料理のどちらが良いか希望を聞かれて、間髪入れずにシャムの料理と希望したら何故か感涙され。

 といった調子で仕事に入れず歓待を受けること三日。四日目にして、ようやく本来の仕事に取りかかれた。

「これが、ディーゼルを作るのか……」

 感動しているシャム国王の前で、あらかじめ作られていた培養ディーゼルの培養槽に、緑色に濁った液体が流し込まれる。

「はい。この培養ディーゼルが、シャムの更なる繁栄に寄与出来ることを祈ります」

 礼儀としてそう言うと、シャム国王は否定する。

「何を言うのか。貴女達信州研究所のお陰で、我が国の繁栄は約束されたようなものだ。これで繁栄出来ないのなら、それは私達政治家が余程無能なのだろう」

 返答に困る発言に、私は苦笑いで済ませる。

 現在、第三研究室が大苦戦中の、脱硫装置の開発。

 これは、火力発電所の燃料となる石炭や石油に含まれる硫黄分が燃えて、硫黄酸化物になったものを取り除く装置で。この硫黄酸化物が、火力発電所の排気に含まれる炭酸ガスを取り出す際の邪魔になるということで、脱硫装置の開発に着手しているのだけれど。

 そもそも硫黄分の少ない木炭なら、脱硫装置が要らないのでは? と考えた第三研究室は、三菱財閥の協力を受けて試験的に造った小型の木炭火力発電所の排気から、炭酸ガスを取り出す装置の開発に成功。

 そこで私達は、シャムで建設中の大型木炭火力発電所に、この脱炭酸装置を取り付けて、実証試験をして貰えないか提案。日本の資本で培養ディーゼル施設の建設することと引き替えに、脱炭酸装置の実証試験の許可を貰えたのだ。

「木炭火力発電所が稼働するまでは、炭酸ガスを輸入して貰うか、炭酸ガスを使わず普通の空気を注入することでユーグレナ・オイリーが死なないようにして貰う必要がありますが。これでシャムは、産油国に仲間入りすることになります」

 「そうだな」とシャム国王は感慨深げに頷く。

 史実通りの未来なら、一九八〇年代だったか九〇年代には、タイランド湾にて海底油田及びガス田の開発が始まる。だけれど、そもそも海底油田を掘る技術、海上にプラットホームを建てる技術の無いこの時代では、まだまだ夢の話だ。

 そして、化石燃料、特に石油の国内需要のほとんどを輸入に頼っている今のシャム国内で。寿命の来たゴムノキを切り倒し、炭にし、火力発電所で燃やして炭酸ガスを取り出し、培養ディーゼル施設に炭酸ガスを送るというもの凄い手間がかかるとはいえ、車や船の燃料となるディーゼルが生産出来るようになる、という意義はもの凄く大きい。

「改めて、感謝を」

 シャム国王は、頭を下げそうになるのを堪えて礼を言った。

(一国の王が簡単に頭を下げることは出来ないもんね)

 それでも、頭を下げそうになった辺りが、この人の良さなのだろう。

「いえいえ。私達も貴国のお陰で研究が進んでいますので。むしろ、感謝させてください」

 偽悪的なもの言いで頭を下げると、「頭を上げてくれ」と言われる。

 言われた通り頭を上げると、シャム国王は溢れ出す思いを抑えるかのように、言葉を口にする。

「寿命の来たゴムノキで火力発電所を動かすなど、我々は思い付かなかった。木酢液から薬が作れるなど、我々は思いもしなかった。籾殻で電気が点くようになるなど、我々は考えもしなかった。

 だが、貴女達がそれを教えてくれ、そして技術と資金を貸してくれたお陰で。我が国に工場が建ち、給料の良い仕事が出来た。お腹を下し、死ぬ筈だった幼子達が元気に走り回るようになった。村々に灯りが灯った。その上で、我々自身の力で、車や船が動かせるようにしてくれた。

 この恩に、我々はどう報いれば良い?」

 うんうんと、護衛のシャム陸軍の人達も頷く。話が聞こえていたらしい、培養槽の調子を見ているシャムの研究者達も、強く頷く。

 胸が、熱くなった。私の、私達の研究で、大勢の人が幸せになったのだと、感じることが出来たから。

 泣きそうになるのを必死に堪えて。私は、感謝を口にする。

「ありがとうございます。その言葉で、私は救われました。私の、私達のやっていることは間違っていないのだと、確信出来ました。

 ……もしかしたら、今後貴国に頼みたいことが出来るかもしれません。その時、貸せるようなら、力を貸してください。私達としては、それで十分です」

「本当に、それで良いのか?」

 シャム国王は、驚きの表情を浮かべる。

「私達としては、です」

 何となくこのしんみりした空気を変えたくなって、私は軽口を口にする。

「もしかしたら日本はお願いを言うかもしれませんが。それでも、私達としては、研究に協力して貰えていることと、その言葉で十分です」

 更に目を見開くシャム国王。

「……貴女達の後に、幸福の続くことを、祈ります」

 何故か手を合わせだしたシャムの人達に、私は内心慌てつつ頭を下げた。

「ありがとうございます」

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