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超技術で史実をぶん殴る  作者: ネムノキ
最初から全力
42/70

その頃の日本海軍

 災害救助艦隊の活躍と農林業発展計画による国家予算の逼迫の煽りを受けて、大日本帝国の守護神たる日本海軍は、予算の拡大を諦めざるを得ない状況になっていた。

 災害救助艦隊が予備艦隊となっているからこそ、実質的な人員や予算の削減を防げている(と日本海軍の上層部は考えている)ものの、カネが無限に湧き出てくるものではない以上、それは致し方のないことだった。

 だが、予算を拡大出来なかったことが、次世代の艦の建造に差し障り。海軍内での派閥争いを産んでいた。

 『大艦巨砲主義派』と『航空主兵論派』である。




「畜生めぇ!」

 誰もいなくなった講堂。図上演習の大きな台の置かれた部屋で大声で叫んでいるのは、大日本帝国海軍の重鎮、になりかけの、井上継松大佐だ。

 というのも。先程行われた『戦艦と空母どちらが強いのか?』というのを検証するための図上演習で、山本五十六大佐の指揮する空母艦隊に対し、井上の指揮する、戦艦を中心とした決戦艦隊が敗北したのだ。

 確かに、決戦艦隊に接近してきた航空機の実に八割は撃破することが出来た。だが、それと引き替えに決戦艦隊は、軽巡洋艦以下はほぼ撃沈。重巡洋艦以上も中、大破判定を貰い戦えなくなった。戦えない戦艦なぞ、意味が無い。戦う前に艦隊が半壊していては、いけないのだ。

 信州研究所が明らかにした『能力者』の存在を活かすことで、砲の命中率は以前より格段に上がり、アウトレンジ戦法は机上の空論を脱し、実戦で扱えるものとなった。だが、航空機の飛距離は戦艦の有効射程のそれを上回る。数で押されては、いかんともし難いと言えた。

「技術の発展が速すぎる……」

 つい最近まで、航空機は複葉の木製骨組みに羽布張りの翼が当たり前だったのに。今では、複葉ながら翼もプロペラも金属製で。試作機ながら単葉機すら出て来ているというのだから、井上のようなロートルにはついて行けない話だ。

「先人として簡単に負けてやるものか!」

 井上はそう気合いを入れて、次の図上演習への作戦を練り始めた。




「侮り難し」

 山本五十六大佐は、図上演習が終わり、誰もいなくなった講堂でひとり呟いた。

 『戦艦・空母優勢討論会』と名前の付いた、二回目の図上演習で、山本の指揮する空母艦隊は、井上継松大佐の指揮する決戦艦隊に全滅させられたのだ。

 決戦艦隊は、駆逐艦や軽巡の装備を対空砲や機銃に変更し、襲いかかってきた航空機部隊を壊滅させた後、悠々と空母艦隊に詰め寄り、アウトレンジ戦法をもって山本の艦隊を全滅させた。反撃する間など、無かった。

「頭が追いつかん」

 アウトレンジ戦法なぞ、都合の良い作り話だったのだ。それが、信州研究所が発掘した『能力者』という人材のせいで、戦法として成り立つものになってしまった。百機の航空隊を繰り出しても、艦隊に接近する前に撃破されては、航空主兵論等提言したところで、机上の空論だ。

「だが、そうはいかんぞ」

 山本の胸の内は、熱いもので溢れていた。




「そんなの有りか!?」

 三回目となった『戦艦・空母優勢討論会』の終わった講堂で、井上は怒鳴っていた。

 というのも、今回の図上演習。山本率いる空母艦隊は、航空機で井上の決戦艦隊をかき回している間に、潜水艦による雷撃を行い、決戦艦隊の防空網に穴を開けたのだ。

 おまけに、空母艦隊の護衛に、重巡を増やしていた。

 何とか引き分け判定には持ち込んだものの、井上としては納得出来ないものだった。

「『航空機と戦艦どっちが強い』という議論に潜水艦を持ち込むな!」

 史実の二十一世紀の日本では『キノコ型チョコレート菓子』と『タケノコ型チョコレート菓子』のどちらが美味いか、という論争があったが、そこに『棒型中チョコ菓子』を持ち込むような暴挙である。

「こうなったら、やり返してやる!」




「これは、予想外だ……」

 山本は、四回目の『戦艦・空母優勢討論会』の終わった講堂で頭を抱えた。前回、航空機と潜水艦を組み合わせた作戦で井上の決戦艦隊を引っかき回した作戦を、真似されたのだ。

 具体的には、航空機の出撃した空母艦隊が、潜水艦による襲撃を受け、護衛の軽巡と駆逐艦が数隻沈められた。

「ぐぬぬ」

 見事に空母艦隊は敗北判定を貰った。だが、どう考えても、戦艦に未来は無いのだ。それを、分からせる必要があるのだ。

「やられはせん。やられはせんぞ!」




 こうして、『大艦巨砲主義派』と『航空主兵論派』の争いは、海軍上層部の中で激化を進め。

 それに振り回される、海軍の下層部や中立派は、そんなやり取りを冷めた目で見ていた。

「最近、『戦艦派』も『空母派』も、作戦似てきてないか?」

「しっ! あの方々はそれで必死なのだから。上訴しようものなら、首だぞ!?」

「私は、それでも良いかもしれないな。父ちゃんが『跡継いでくれ』って、泣きついてきているんだ」

「最近人手不足だからなあ」

「そういや、私の姪っ子がさ、『海軍の医務局に就職するんだ!』って、医学部に進学してな。この人手不足でもなけりゃ考えられんよなあ」

「おっ。それは気張って出世せんとな!」

「姪はお前にやらん!」

 こんなやり取りが、あったとか、無かったとか。

キノコタケノコ戦争にトッポを持ち込まないでよ。


どのみち梨には勝てないのだから(火に爆弾を入れる)。



…ジョークは兎も角、論点をずらすのは良くないよね。

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