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超技術で史実をぶん殴る  作者: ネムノキ
最初から全力
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フィリピン 発明の光と影

《千九百二十九年三月一日 フィリピン マニラ港》


 ということで、私の外遊が始まった。

 記念すべき一カ国目(?)は、アメリカ領フィリピンだ。

 結構重要な機械と技術者を現地まで運ぶ必要があることと、外務省の都合により、シャムまでは日本海軍の駆逐艦『磯風』『浜風』に護衛される、日本郵船の『天洋丸』に乗っていくことになる。

 廃熱回収ボイラー等船舶機関の進歩や、金属再結晶化施設の登場と精錬、合金技術の向上により、日本の造船技術はかなり進歩しており、進水から二十年以上経ち、旧式化と老朽化の進む天洋丸は、この仕事を最後に引退、解体処分されることが決まっている。

 綺麗だけれど古びた船内に、どこかセンチメンタルになりつつ、降り立ったマニラで。私のやることは、あんまり無かった。

「あんまり元気が無いねえ」

 市場を護衛と共に見て回るけれど、前世の東南アジアの市場程熱気が無い。まあ、アメリカが滅茶苦茶しているこの時代のフィリピンで熱気があるというのも、変な話だけれど。

「酸っぱ! 酸っぱ旨い!?」

 お昼ご飯代わりに、屋台で買ったスープを飲むと、もの凄く酸っぱい。なのに魚と良く分からない野菜の旨味と唐辛子に似たほのかな辛みが良い仕事をしていて。

 変な、でも気分の良い汗をかきながら完食する。

「ふう。ご馳走様」

 空になった、茶色い紙のどんぶりを、屋台街の専用のゴミ箱に捨てる。

「……いいねえ」

 私達の開発したバガス紙と、アメリカのどこかの発明家が作った無害で安価な接着剤の登場により、アツアツの汁物も屋台で気軽に楽しめるようになった、とは聞いていたけれど。それを異国の地で体験出来るのは、何だか嬉しい。

「そろそろ時間です」

「そうだね。一旦帰るか」

 船が港に停泊している間、宿泊しているホテルに行くと。

「お待たせ」

「いえ、丁度来たところです」

 会う約束をしていた、フィリピンの日系二世の大地主が来ていた。

 バナナ紙を開発した時、真っ先にラブコールを送ってきたこの大地主は、ここフィリピンで『人格者な方の地主』として、名前の知られた人、らしい。外務省と、陸軍からお給料で引き抜いたけど、まだ陸軍と付き合いのある護衛の人が言っていた。

 机に向かい合って座り、早速とばかりに本題に入る。

「バナナ紙の反応はどうかな?」

「微妙なところです」

 地主は苦笑寄りの笑みを浮かべる。

「今、フィリピンの農家さんの多くは、アメリカ人地主や日本人地主、華僑地主の小作をやっています。貴女方のお陰で、私達地主は儲けを増やせましたし、バナナ紙という新たな産業も興すことが出来ましたが。その恩恵をフィリピンの人々に還元している地主や社長は少数派でして」

「フィリピンの人達からすると、『余計な仕事増やしやがって』ってところ?」

「そう言う人もいますね」

 大地主は私の言葉を否定しなかった。

 主にバナナの茎を使って作る、バナナ紙。この産業が興れば、バナナのプランテーションに頼った経済の国や地域、ホンジュラスやグアテマラ等の中米の国々やフィリピン等の人々の収入が増え、生活が楽になると考えていたのだけれど。

 少し落ち込む間に、大地主は「ですが」と続ける。

「感謝している人の方が圧倒的に多いですね」

「それは嬉しいけど」

 先の言葉を否定されなかったせいか、私はひねくれた質問を投げかける。

「どういう理由で感謝されているのかな?」

「ひとつは、単純に仕事が増えたからです。で、もうひとつの理由は、少しややこしくなるのですが」

 大地主は一拍置いてから説明を始める。

「アメリカでは、バナナ等の南国の果物とサトウキビの生産、販売は、ユナイテッド・フルーツ社が取り仕切っていました。そんなユナイテッド社は、貴女方の研究所がバガス紙とバナナ紙の特許を安価で公開したのに合わせて、彼らの経済圏である中米向けの製紙業を興したのですが。これが、アメリカの製紙業界を牛耳るインターナショナル・ペーパー・アンド・パワー社の逆鱗に触れまして。サンキスト・グローワーズ協同組合なんかと組んで、インターナショナル社はユナイテッド社をボコボコのギッタンギッタンにしているところなんですよ」

 意識が遠くなりかける。私達の技術が、いつの間にか大事を引き起こしていたのだ。

 というのも。ユナイテッド・フルーツ社は、史実のアメリカの棍棒外交を実質的に引き起こしていた大きな元凶のひとつとして悪名高かった会社だ。そんな会社がアメリカの内輪もめでボコボコにされた、ということは。歴史が大きく変わってしまった、ということだ。よりにもよって、アメリカという大国の歴史が。

 歴史を変えるようなことはしている自覚はあるけれど。やり過ぎた、かも知れない。今更反省はしないけれど。

「ユナイテッド社は人を人と思っていない経営をしていましてね。そんなユナイテッド社がボコボコにやられているのは、かなり気分が良いのですよ。ですが、そうなると今までユナイテッド社に支配されていた、フィリピンの農家さん達は、新たな庇護先を探す必要に駆られましてね。……まあ、そのせいでバナナ紙の利益を農家さんに還元出来ない、とも言えるのですが」

「……なるほどなあ」

 確かに、これは微妙な反応にもなるよ。

「ま、日本や華僑の地主や会社は、三菱や住友の協力を得られることになりましたので、あと半年もすればバナナ紙の利益を農家さんに還せるんですがね」

 そう言った大地主の顔は、晴れ晴れとしたものだった。

この時代の製紙業界の何が怖い、って新聞とか雑誌とかの、紙系のマスメディアを牛耳っていたこと。

作者はそれを年単位で昔に知ってから、いつかネタとして使ってやろうと待ち構えていました。


マスメディアが敵だったら、軍と組んで棍棒外交してても、自由の国アメリカでは不利よなあ…。

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