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超技術で史実をぶん殴る  作者: ネムノキ
最初から全力
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金属再結晶化施設(池)、稼働開始

《千九百二十七年十二月二日 釜石鉱山近郊》


 『金属再結晶化施設』の一号が、昨日稼働を開始したのが、ここ、釜石鉱山のボタ山の近くだ。

「いい? この分解池のpHが4.6以下になると、再結晶化の速度が遅くなるから注意して。もしそうなっていたら、硫酸の濃度が高い筈だけど、変に中和せず、一時間以上かけて半分位池の水を抜いて、二時間以上かけてゆっくりと追加の水を入れること。硫酸以外が原因で酸性化しているようなら、私を呼んで」

「分かりました!」

「再結晶化池の方は、ここの鉱石の成分だと、鉄が一番成長が早い筈。下手をすると、半日で鉄結晶を取り除かないといけないからよく見ておくこと」

「銅と鉛の方はどうですか?」

「そっちは結晶が出来るまでに三日はかかる計算だけど、速くても遅くても気にしたら駄目だよ?」

「ボタの再利用ですからね。金属が得られるだけ儲けものですね」

「そういうこと」

 視察ついでの指導を終え、ここ釜石鉱山の鉱山長と話し合う。

 釜石鉱山は千九百二十四年に田中鉱山株式会社から三井財閥のものとなった鉱山だ。私の研究所である信州研究所と提携関係にある三井財閥のもの、ということもあって、金属再結晶化施設の建設はすんなり行ったのだ。

「池にボタを放置しておくだけで金属が手に入るなんて、夢のようですね」

「まあね。だけれど、鉱石そのものだと含有する金属が多すぎてまだ処理出来ないのがね」

「それでも、鉄の産出量が大幅に増えるのは喜ばしいことですよ」

「そのための『信州研究所』ですから」

 そう言いつつも、内心苦々しく思う。

 当初の計画なら、今頃、金属再結晶化技術は、鉄、銅、鉛だけではなく、金、銀も結晶化出来るようになり、ニッケルとチタンの結晶化の研究に入っている筈だったのだ。

 それが、現実では、やっと鉛を商業化レベルで再結晶化出来る段階にまで持って来られたところで、金と銀は研究が始まったばかり。ニッケルとチタンなんてお話にもなっていない。

(歯痒いなあ)

 こんな技術、私の前世では陳腐化していたものだというのに。読みが甘かった。

「ボタの鉱害は、ここ釜石でも出ていますからね。それが軽減されるのは、一市民として嬉しいことです」

 釜石鉱山長の言葉に思考を戻す。

「ええ。年内には、足尾銅山にも金属再結晶化施設が建設出来ますし、ゆくゆくはこの施設の力でボタや鉱山廃水による鉱害を無くすことも可能だと考えています」

「それは壮大な話ですね」

 釜石鉱山長はニコニコと笑った。

「私からすると熟したリンゴが木から落ちるような、ただの既定路線のことなんですけどね」

「なるほど、頼もしいことです。民間から多額の寄付も集まっているようですし、空想とは言えませんね」

 『ボタから金属を取り出す』。その『夢の』技術の存在を、この釜石の金属再結晶化施設の竣工式のあった二カ月前に公開したところ、日本各地の鉱害にあえぐ人々から多額の寄付が集まった。正直、いち研究所としては微々たる額としか感じられないものだったけれど、研究員達は泣いて喜んでいた。

「技術で人々を救える」

「私達のやることは無駄にならない」

 その事実を知れたお陰で、今の信州研究所の士気はもの凄いことになっている。

「まあ、空想だったものを現実にするのは、科学者や技術者の仕事ですからね。で、再結晶化施設の方ですが、」

「はい。今後、金、銀の再結晶化池を増設することも考慮した上で、二号、三号施設を建設中です。ボタや廃水の産出量と土地も考慮して、来年には八号施設まで建設し、釜石鉱山の再結晶化施設の建設は終了します」

「聞いていた通りですね。ありがとうございます。今後も、我が研究所は、再結晶化触媒の更なる効率化や他の金属の再結晶化の研究を進めて行きますので、どうか応援、よろしくお願いします」

「勿論ですとも」

 会談を終え、釜石周辺の有力者達とのしんどい夕食会の後、宿で寝ようとしていると、陸軍から出向してきている護衛が、話しかけてきた。

「これで鉄も安くなりますね」

「ん? 言うほど安くはならないよ?」

 暗闇の中で、護衛は押し黙る。

「え、でも、え?」

「……あー理解した」

 私は枕に頭を預けたまま、説明する。

「確かに、この技術を使えば、ボタから金属を得られる。だけれど、原料のボタに含まれる金属の量なんてたかが知れているよ。それに、池の警備や管理に人も必要なこと。再結晶化にどうしても時間がかかること。広い施設の維持費を考えると、再結晶化施設から得られる金属は、安くても相場の七から八割でしか売れない。そして、施設からの生産量自体が知れているから、金属の相場はあんまり下がらないだろうね」

「……そうですか」

 護衛は、残念そうに言った。

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