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超技術で史実をぶん殴る  作者: ネムノキ
最初から全力
39/70

ナイル流域水行政改革の話し合い

11/6 あとがき解説の言葉が足りなかったので追記

《千九百二十九年二月四日 東京》


 ここ最近、私は東京にいる。障碍者用の教育機関の設立を認めて貰うべく、議会の面々や財閥の方々へと利点や欠点等を纏めた資料と共に駆け回り、頭を下げてお願いして回っていたのである。

 こういう時、一極集中は楽で良い。それでもしんどいけれど。

 それらがひと段落付いた今日は、イタリア、エチオピア、イギリスの大使達と『ナイル流域水行政改革』について話し合っていた。

「水路を全てコンクリートにするのは無理ですね」

 イギリス大使が言うと、エチオピア大使がうんうんと頷く。

「それでも、要所要所をコンクリート製に変えるだけで、水害は減らせますね。せめてエチオピア国内は積極的にコンクリート化していきたいです」

 イタリア大使が言うと、エチオピア大使は反発する。

「融資して貰ったとしても、返すのは我々ですよ!? そんなの無理です!」

「そういった部分には、私からの援助を使ってください」

 私が提案すると、エチオピア大使は引き下がる。

 エチオピアがイタリアの融資と技術指導を受け、青ナイル川に大規模なものをひとつ、バロ川に小型のものをふたつ、ダムを建設すると発表し。そこに私が資金を、信州研究所が技術を出すと割り込み。日本の外務省が信州研究所と共にイギリスに働きかけたことで、『ナイル流域水行政改革』という一大プロジェクトは始まった。

 ダムを造ることに何故イギリスが反発しなかったのか、気になっていたのだけれど。どうもエジプトやスーダンの反イギリス勢力に打撃を与えたかったから、らしい。そういう意味では、私の行為はイギリスの邪魔をした訳だけれど。イギリスは、自分達に反発する勢力に、このプロジェクトへ自発的に金と人を出させることで疲弊させる方へ方針を変えたらしい。

 曰く『自分達の故郷を発展させよう!』と。

 確かに、短期的に見れば、エジプトやスーダンの反イギリス勢力は疲弊するだろう。だけれど、長期的に見れば、民衆の彼らへの支持を集めることになるし、農林業が大規模に改善される訳だから、食料や人口の面で彼らは力を持てるようになる。

「イギリスは何を考えているのでしょう?」

 日本の外務省にそう尋ねたけれど、彼らも良く分からない、とのこと。

「水路の日陰になるようにナツメヤシを植えるのは、リビアでも使えますね」

 イタリア大使の言葉に、イギリス大使が「どうぞどうぞ」と笑う。

(本当、何を考えているんだろ?)

 本当、良く分からない。

「ところで、所長」

 チラチラとイギリス大使を観察していると、彼は私の方を向いて疑問を口にした。

「ナイルは日本から遠いのですが、何故援助をしようと考えたのですか?」

「それは私も気になります」

 エチオピア大使も疑問をぶつけてくる。

「正直なところ、返済の必要の無い資金援助や、低価格での技術指導は我が国としては助かります。ですが、それでは貴女の利があまりにも少ない。何故、このようなことを?」

 私は、苦笑いして答える。

「以前の計画では、エチオピアやスーダンに大勢の餓死者が出るから、という答えでは納得して貰えな……いですね」

 諦めて、苦笑したまま本音を言う。

「大変失礼な話なのですが、私個人として、広大な実験場が欲しかったからです」

 本音と受け取らなかったのか、三人はふむふむと嬉しそうに頷いている。

「まず、ダムへ水草を浮かべる実験ですが、日本では『見栄えが悪い』と農林省から却下されました」

 実際にこの提案をしたのは、私がエチオピアやイタリアに働きかける直前のことだ。却下された本当の理由は、降水量の多い日本ではあまり効果が無い、と農林省が判断したからなんだけれど。

「次に、三つのダムの建設やコンクリート水路への置換の場に、信州研究所の研究者が立ち会うことで、コンクリートの改良のためのデータの蓄積が出来ます」

「真面目なんですね」

 イタリア大使は楽しそうに言う。

「真面目でないと、研究者にはなれませんからね」

 私は軽口を返して、本題に戻す。

「そして、水路脇にナツメヤシを植える『樹木排水』の実験ですが、日本では『農林業発展計画』によって水路がコンクリート製のものに置き換わっていっているため、日本国内では実験出来ません。それに、樹木排水が本領を発揮するのは、エジプト等の乾燥地だと考えられるからです」

「なるほど。善意だけでなく、打算もあると」

 イタリア大使とエチオピア大使がほっとした表情を見せる中、イギリス大使は、一瞬だけだけれど、嫌そうな表情を見せた。すぐほっとした顔になったけれど。

「ええ、打算アリアリです」

 イギリス大使の反応を頭の片隅に起きつつ、クスリと笑って、後付けの理由を言う。

「バイオディーゼルの件で中東諸国には迷惑をかけているので。樹木排水が成果を出せれば、中東諸国にも、慰謝料代わりに広めようと思っています」

「なるほどなるほど」

 嬉しそうにするエチオピア大使と違って、イギリス大使は顔をひくつかせている。

(変なこと言ったかなあ?)

 疑問を抱いていると、イタリア大使が首をかしげた。

「迷惑とは。中東諸国は貴女に感謝しているというのに。相変わらず奥ゆかしいことで」

「そうなんですか?」

 尋ねると、何か思い付いた表情で、イギリス大使が言った。

「何なら、見に行きますか?」

「へ?」

「中東。そうですね……、ペルシャやナジュド・ヒジャーズ王国の、貴女の研究所の技術を使った施設を」

「是非っ!」

 思ってもいなかった提案に、私は飛び付いた。

イギリス「信州研究所って我が国の研究潰してくるやべー連中が無駄な金と人員使うと思っていたら、やべー計画だったでござる。妨害しないと(使命感)」



樹木排水:生物的排水、バイオ排水とも。

土壌中の水分を樹木や草に吸わせて、それらの蒸発散により地下水位を下げる技術。

土壌のpHや塩分濃度によって樹木を選ぶ必要があり、この選定を間違うと大惨事に。史実のアフリカでは、メスキートというあたまおかしい植物を導入して、増えすぎて農地がメスキートに埋め尽くされる事態になった。

乾燥や塩害に強いからと、防風林や防砂林等、メスキートを乱用したのも悪かったのだけれど。


その点、ナツメヤシは紀元前六千年から使用されてきた実績があるから安心。

なら何で今更植えよう、ってなっているのか、って?

欧州列強が滅茶苦茶したのが悪い。


(11/6追記分)

肝心の水路の蒸発を防ぐ効果については、データがまちまちで何とも言えない。『無いよりマシ』なのは確実。

ウォーターロギングで塩を噴く筈だった場所でナツメヤシという食料、繊維源を育てることが出来、塩害も防げるからしない手は無いのだけれど。


ぶっちゃけた話、水路の蒸発を防ぐには、水路をコンクリートにしてコンクリートの蓋する方が遙かに良い。お金があるなら、水路の修繕費も含めるとそっちの方が経済的。

でも、ナツメヤシで日陰を作る方が直近ではお金がかからないし、実質ナツメヤシ畑を増やすことになる。


短期の自分達の利益『を』取るか。長期の自分達以外の利益『も』取るか。水路の工事を計画する人達の経済的、倫理的センスが問われる。

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