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超技術で史実をぶん殴る  作者: ネムノキ
最初から全力
36/70

信州演習

ギフテッド:同年代の子供達より、並外れた成果を出せる程、突出した才能を持つ子供のこと。


だそうですが。ただ才能を持つだけじゃなくて、その才能と好きなものごとが一致してる人が『ギフテッド』として表面化してるパターンが多い、らしい。

また、才能が凄すぎて生活に支障が出る人も。耳が良すぎて蛍光灯の音で眠れない、とか。動いているものを見るとその運動を数式化してしまう、とか。


ここら辺の研究って、中々進んでいないんですよね。人体実験になりかねないから。

お陰で資料が足りない。あってもあからさまにおかしな資料だったり。


以上、愚痴でした。本編をお楽しみください。

 結論から言うと、清掃部長の子供、私の二歳年上の男の子は、前世で言うところの『2E』と呼ばれる、障碍と才能を併せ持つギフテッドだった。それも、語彙力が行方不明になって「やべえ」としか言いようのなくなる程の、才能を持った。

 本当は、もっと政府や財閥とコネクションを作ってからギフテッドを探すつもりだったけれど。この子があまりにもやばいので、私は、計画を早めることにした。



《千九百二十九年(昭和四年)一月二十日 北マリアナ諸島近海》


(どうしてこうなった!?)

 内心の混乱を他所に、私の体は演習の準備を進める。

 一カ月程前、清掃部長の息子さん『一号くん』(本人命名)への教育が結構進んでいたので、「砲の命中精度の上がる凄い発見をした」と陸海軍に連絡したところ、何故か鏡開きからあまり経たないこの日、日本本土から離れたここ北マリアナ諸島近海で演習が行われることとなった。

「ま、大丈夫でしょ」

 どうせ軍縮の関係で、駆逐艦のどれかで実験することになるだろうな、と横浜の港で待ち、迎えのボートに揺られていたら。


 戦艦『長門』に乗せられた。


「いや何で!?」

 混乱する私と清掃部長に同行者達。そして、大興奮してピョンピョン跳ねる一号くん。彼は軍艦が大好きなのだ。

 何故かガチガチに緊張した雰囲気の長門の空気に当てられて、緊張を深めつつ、私達は演習の準備にかかっていた。


「これより、『信州演習』を開始する! 船速二十ノット!」

「二十ノットヨーソロー!」

 長門の艦長の号令と共に、艦の速度が上がる。艦橋から見える景色の移り変わりが早くなる。それに伴い、私達信州研究所組の緊張が深まる。何故か長門側の人員の緊張も深まる。一号くんもその空気を感じたのか、キリッと小さな黒板を抱えている。いやこれ艦長の真似してるだけだ。

「偵察機、目標を発見!」

 長門に新しく搭載された無線機からの電信を、通信士が解読して、情報を読み上げていく。

「方位…………」

 その情報を受け取った砲術部の人が紙に何やら書いたり、数値の沢山載った紙をめくり、歯車が一杯な機械をグルグル動かす中、一号くんは彼のお母さんである清掃部長からひと言告げられると、グルグルとその場で回る。

(所長。聞いてはいるのだが、彼は大丈夫なのかね)

(大丈夫ですよ。いつものことです)

 艦長と小声でやり取りをする。

「以上!」

 その号令がかかった途端、一号くんはピタリと回るのを止め、手持ちの黒板にガガガッ、とチョークで書き込み。

「ん!」

 担当の士官に黒板を差し出す。そこには、鏡文字の文字列が並んでいる筈だ。

「第一案受領!」

 担当の士官は、それを主砲の操作をする士官に手渡す。

「主砲発射よーい完了!」

 焦る砲術部の人達を置いて演習は進行し。

「てー!」

 ドオンッ、と、耳栓をしていても耳が馬鹿になる音がし、艦が揺れる。

「次弾装填よーい!」

 しばし待つと。

「偵察機より入電! 夾叉(きょうさ)! 先程の砲撃は夾叉です!」

「距離三万五千メートルでか!?」

 おおっ! とどよめきが、艦橋に広がった。


 あの後、水上の十八の的と四つの標的艦を、二十四回の主砲の砲撃、しかも外れた二回の砲撃ですら夾叉で全て葬り去り、空中の五つの的を五発の高角砲で撃破し、演習を終えた長門の艦橋には、張り詰めた沈黙が広がっていた。

(どうして喜ばないのかな?)

 皆、喜びを全力で表現したがっている。一号くんとの計算競争に全敗した砲術部の人達ですらそうだ。なのに、誰も動かない。笑わない。騒がない。

 不思議に思っていると、コツン、と足音がして、艦橋に誰かが入ってきた。

 そちらの方を見て、ザ、と敬礼する海軍の皆に、慌てて深々と頭を下げ、一号くんの頭を下げさせる信州研究所の仲間達。私も慌てて振り向いてから、更に慌てて頭を深々と下げる。

 今上天皇陛下、後に昭和天皇と呼ばれる方がいらっしゃっていたのだ。

「うん。楽にして良いよ」

 陛下から直々に言葉を承り、私達は混乱する。

(普通侍従長がそういうことを言うんじゃないの?)

「困ったなあ」

 どう反応するのが正解か、皆して悩んでいると、陛下はそうおっしゃった。

(優しい声だなあ)

 何となく人柄を感じていると、陛下はとんでもないことを口になされた。

「……そうだ。ここにいるのは、タケヤマという天皇陛下の友人だ。だから、君達は楽にしてくれないかな? でないと、困るよ」

 そう言われると、こっちが困る。おずおずと頭を上げ、背筋を正した姿勢で揃う中、一号くんが疑問の声を上げる。

「どうしてみんなあたまをさげたの?」

「ばっ」

「おまっ」

「ちょっ」

「オワタ」

 混乱し、清掃部長が何かを悟りきったような諦めの表情を浮かべ、私は走馬燈を見る中、へい……タケヤマさんは、困った表情で言う。

「ぼくは特に偉い人じゃないのだけれどね。皆、ぼくを偉いと思っているのだよ」

「へんなのー」

「そう。変だね」

 何やらほのぼのと分かり合っている二人。壁際の士官が何人か失神し、隣の同僚に支えられ、頬を軽く叩かれて意識を戻す。

「ねーおかーさん。ボクせっちんいきたい」

「か、艦長! よろしいですか!?」

「あ、ああ。行ってくれ。演習は終わったから、部屋で休んでいてくれ」

「では失礼します!」

 清掃部長は一号くんを連れて、大急ぎで艦橋を出て行った。

昭和天皇の『タケヤマさん』呼びについて


これは、主人公が『タケヤマ』という語句を、『陛下の友人』の役職だと認識したから発生していることです。

役職なら名前を覚えられるのか、と疑問を抱かれるでしょうが、この辺りの設定は重大な伏線になっているので、頭の片隅に置いて読んでください。



あと、長門の砲撃が、三万五千メートルの距離にしてはバグとしか思えないことになっていますが、たぶん実在の普通なギフテッドに計算させたところで、命中率は四割程だと思われます。あの人達、波の揺れとか砲撃の反動とか高度による風向きの変化とか、体感から割り出して計算に入れて来るから、この時代の計算機とかより余程正確なんですよね。

体感した何を計算に入れるのかは、人によりけりなのでしょうが。

鳥の飛び方からその高度の風向きと風速割り出してドンピシャとかなにそれコンピュータ?


史実の日本海軍の長門だと、三万二千メートル先の標的艦に一割ちょっとの命中率だったようで。

一号くんの計算能力は、そこは創作ものと思って許してください。やばいとしか言えないレベルのギフテッドの知り合いがいないもので、想像するしか無かったのです。

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