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超技術で史実をぶん殴る  作者: ネムノキ
最初から全力
34/70

第四研究室働かせすぎ疑惑

「そんなに忙しくないわよ?」

 第四研究室室長が答えると、彼女の部下達は仕事をしながら深々と頷いた。

「でも、関わってる研究の数は、圧倒的に第四研究室(ここ)が多いよね?」

「まあ、数だけは、ね」

 第四研究室室長は悩んでいる様子で左手で頭をかく。

「確かに、関わってる研究は第四研究室が圧倒的に多いわ。でもね、それは関わってるだけのものが多いの」

「どういうこと?」

 彼女が何を言っているのか良く分からない。

「簡単に言うと、他の研究室とか財閥、企業と共同の研究がほとんどなのよ」

「それは知ってるけど。それでも、人員は出さないといけない訳だから、しんどいんじゃないの?」

 すると、第四研究室室長は苦笑し、話を聞いていたらしい近くの研究員がブンブンと首を振る。

「正直、しんどい、って程では無いわね。所長からの資料もあるし。大規模な実験をやる時は財閥に投げているから、結構楽よ?」

「規模の大きい実験やる時は、敷地が足りないもんねえ」

 納得していると、第四研究室室長は他の理由を言った。

「それもあるけれど。私達信州研究所だけで技術を独占するのは良くない、って所長言っていたでしょ? それもあるのよ」

「……そんなこと、言ったっ……なあ」

 そういえば、そんなことを言った気がする。

「……まあ、そういう訳で、第四研究室は結構楽なの。というか、研究取らないで」

「玩具が無くなるから?」

「それもあるけど」

 茶化すと、第四研究室室長は真面目な表情で言う。

「ひとつの研究あたり貰える特許料が、第四研究室が一番低いのよ」

「あー」

 共同研究が多いというとこは、それだけ特許料が他の企業や研究室に流れている、ということだ。お賃金はやる気に繫がるので、こう言われると研究を減らすような無理強いをしたくなくなる。いやする気もないけど。

「なら大丈夫かな?」

 ほっとひと息つくと、第四研究室室長は「ところで」と尋ねてくる。

「忙しいか、って聞いてきた、ってことは、新しい研究?」

「ワクワクしてるとこ悪いけど、そうじゃなくてね。あんまりしんどいようだったら、幾つか研究を他の研究室に回そうか、って考えて、ね」

「そんな心配無用なのに」

 第四研究室室長は呆れたように首をふる。

「で、どこに何の研究を回すつもりだったのよ?」

「第一にプラスチック関係を」

「あー納得」

 第四研究室室長はうんうんと頷く。

「第一研究室、って、今暇そうですもんね」

「え? 昨日見たときは死にそうな目してたけど。あ、室長は別ね」

「あの体力お化けね」

 第一研究室室長は兄貴と呼ばれるだけあって(?)、体力が凄い。

「でも、第一、って暇なの? 難題出してるから今は……」

「おーい**」

 噂をすれば、第一研究室室長が第四研究室のドアをノックした。

「っと、所長いたのか。助かる」

「助かる、って、何事?」

 首をかしげていると、第一研究室室長は数枚の針金のクリップで留められた、手書きの経過報告書らしきものを手渡してきた。

「何々……『プラスチックの再利用の可能性について』」

「ああ、この件ね」

 第四研究室室長は私の頭上から手渡された資料を見る。

「あれ? この件はプラスチックゴミはプラスチックゴミだけ集めて燃やす火力発電所作る、って方向性で纏まっていたんじゃないの?」

「確かにそうよ」

 第四研究室室長は頷いたのか、顎が少し私の頭に当たった。

「でも、第一の連中、それが納得いかなかったみたいでね。『何としても再利用してやる!』って気合いを入れているのよ」

「……暇なの?」

 だったらやって欲しい研究山ほどあるんだけれど。

「確かに暇だぞ? 何せ、ユーグレナ・オイリーの次世代株の分裂速度が遅すぎるわ。松精油やらミカンの皮やらが研究に必要なだけ集まらないわ。木酢液薬品の触媒は合金の解析技術が上がらねえとこれ以上無理だしな」

「暇なんだね?」

 確認すると「おう!」と言われた。

「……ここのとこ死にそうな顔してたから遠慮してたのに」

「それはすまん。面白い細菌を偶然見つけてな。遊んでたんだわ」

「面白い?」

「おうよ!」

 第四研究室室長を見上げると、彼女と目が合った。二人して疑問符を浮かべていると、第一研究室室長は言う。

「その資料の最後の一枚を見てくれ」

「えーっと、何々……『プラスチックを分解する細菌』!?」

 驚いた。それは、私の前世の時代でも、最先端とされていた技術だ。それをあっさり見つけてくるとは。

(偶然?)

 にしては怖い。

「何もプラスチックだけを分解する訳じゃないのね」

 第四研究室室長の言葉に正気に戻り、資料に目を通すと。

「……有酸素環境下だと普通に増えて。無酸素環境下だと、炭素どうしの結合を水素で分解して増えるのね」

「『ある程度以上の長さの鎖式炭化水素』って、具体的な長さはどうなのよ?」

「C15以上だな。ただ、環状の部分は分解出来ねえし、切られる場所も完全にランダムだ。だから、一度その細菌で分解したプラスチックは原油と同じように精製してやる必要がある。だがなあ……」

 第一研究室室長は頭をかく。

「どったの?」

「一度プラスチックやらアスファルトやら分解させた細菌を再利用出来ねえんだよ」

「? そんなのする必要ある?」

 尋ねると、第一研究室室長は首をひねる。

「……良く考えたらねえわ。ありがとな」

 第一研究室室長は私の頭を撫でようとして、苦笑して第四研究室を出て行った。

 何で撫でてくれなかったのか。考えてみると、第四研究室室長が私の頭の上にいたせいだと分かった。

「ま、いっか。じゃ、そゆことで」

 少しの寂しさを感じつつ、私は第四研究室室長に手を振る。

 そして、追加の研究をさせるべく、第一研究室室長を追いかけた。

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