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超技術で史実をぶん殴る  作者: ネムノキ
最初から全力
3/70

規格化はしないと不味い

《千九百二十七年十一月二十日 『信州研究所』》


「『弾薬の共通化』?」

 視察に来た海軍大臣に、私は早速出来た提案書の原案を見せた。

「はい。本題は『工業製品の規格化』ですが、いきなりそれをやるのは難しいので、出来るだけ簡単なものからやるのはどうか、と」

 海軍大臣は腕を組んで唸る。

「……民では出来ないことを官でやることは、理に適っている。だが、規格化と言われてもなあ……」

(海軍大臣でこれかあ……)

 頭が痛くなる。陸軍と比べると、海軍は最先端の技術が用いられるだけあって、まだ開明的な組織だ。その組織の長ですら、こんな認識とは。これでよく戦争しようと考えたものだよ。

「その資料にも書いてあることですが、我が国がまともに規格化を進めていないことで、既に様々な問題が発生しております」

「というと?」

 疑念を隠さずに、海軍大臣は尋ねてくる。

「まず、民間から。海外に工業製品を輸出した際、規格が統一されていない為に、故障等が発生した際、海外で部品の調達が厳しく、向こうでまともに修理が行えません。それが、我が国の工業製品に対する信頼を低下させています」

 理解していない様子の海軍大臣に、具体例を提示する。

「例えば、船ひとつとっても、艦首と艦尾で使われるネジやリベットが異なったりします。イギリスに売却した船が、ネジがひとつ飛んだだけでわざわざ日本で修理しなければならなくなる、なんてことが笑い話でなく起こっています」

「なるほど?」

「次に、軍隊から。陸軍や海軍陸戦隊の小銃において、銃弾が弾倉に入らない、という事例が多々見られました。詳しく調べたところ、銃弾を作る機械の規格が異なっていたために起こった事例が散見されます。まあ、これは、工作機械の精度が低いことや輸入元の国の違いが原因な事例もあるのですが」

 実態はというと、工作機械の精度が原因なものの方が、規格違いよりかは遙かに多いのだけれど、わざわざ自分の不利になることは言わない。

「それは不味いぞ!」

「ええ、不味いです」

 表情の変わった海軍大臣に同調する。

「もし仮に、戦っている最中に、砲弾が砲に入らない、なんてことが起これば、大惨事間違いなしです。それを避けるための、規格化です」

「なるほど。早急に規格化を進めねば不味いことはよく理解した」

 よしよし。これで目的は達成だ。そう内心ほくそ笑んでいると、海軍大臣は「しかし」と首を傾げる。

「陸軍と弾薬を共通化する理由が分からないのだが」

「ああ。それは、陸海軍の経費削減と、補給上の危険を減らすためです」

 そうあっさり言うも、私の予想に反して、海軍大臣は理解出来ていなかった。

(おいおい)

 軍隊の長がこの程度の経済学も理解出来ないのは問題だろう。ため息をこらえ、説明する。

「まず、我が国は災害が非常に多いです。そして、弾薬の工場は陸海軍で、別々の場所に集中しております」

「つまり、君が恐れているのは、地震や台風等で、弾薬工場がやられることか?」

「はい」

 それ以上に恐れていることは口にせず、同意する。

「理解出来たぞ? つまり、弾薬を陸海軍で融通しあえるようにすることで、災害で弾薬の生産が出来なくなることを回避するわけだな?」

「付け加えますと、弾薬を共通化することにより、一種類当たりの弾薬の生産量は増加し、」

「大量生産により弾薬の調達費用を削減することが出来る。なるほど、よく考えられているな」

 上機嫌な海軍大臣に頭を下げる。

「そう言って頂けると幸いです」

「なに。それに、この大陸がきな臭い時期に、人員を減らさずとも経費を削減出来るのは魅力的だ。どうせなら、同時に戦車等の装甲の開発も、陸海軍共同で行うよう交渉しよう!」

「それが出来れば、更に経費が削減出来ますね。それに、国民や議会に対しても良い宣伝になるかと」

 キョトンとした海軍大臣にニヤリと笑い、言う。

「『我々自ら軍縮を行っているぞ』と、ね?」

 すると海軍大臣は大声で笑った。

「ハハハ! 確かに、軍事費の削減だから軍縮で間違いないが、実際に軍人が減る訳では無い! 素晴らしい軍縮ではないか!」

「ええ。素晴らしいことです」

 そして、軍隊が『自分達自身で身を切る』と言い出した以上、議会は下手に軍縮を煽れない。煽れば、議員達の身を削ることに繋がりかねないからだ。今、大陸がきな臭く、実際に日本と日本人に被害が出ていて、更に十年後に大戦が迫っている以上、下手な軍縮は悪手だ。

(次の手を打たないと)

 時間は短く、有限だ。この会談が終われば、次の手を打つぞ。

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