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超技術で史実をぶん殴る  作者: ネムノキ
最初から全力
29/70

ジョンブルの影

《千九百二十八年九月八日 東京》


「なにそれ」

 私は、住友財閥等の協力を得て製造方法を確立し、星製薬に生産を任せ、臨床試験を開始したあるものの生産プラントの見学の後、外務省に呼び出しを受けて省に行った。

 そこで、外務大臣と内務大臣が渋い顔をつき合わせていたのを見て、嫌な予感を覚えたのだけれど。それは正確だったらしい。

「論文自体は、今年の四月一日に発表してたよね?」

「ついでに言うと、六月の時点で世界各国にて商標登録も行いましたし、七月には日本国内にて臨床試験も開始していました」

 外務大臣が補足する。

「……うん。私達日本には非は無いね」

「だが、政治的にはそうもいかんというのがなあ」

 内務大臣がそうぼやき、二人の大臣は頭を抱えた。

「でも、特許も商標も私達が握っているんだから、負け犬の遠吠えじゃないの? 良く分からないんですけれど」

「まあ、裁判が起こされているアメリカでは、このまま手を打たないでいると、十中八九負けるでしょうね」

 全く、ふざけたことをしてくれる。

「『ペニシリンを発見したのは私だ』? いつからジョンブルは論文も読めなくなったのかなあ?」

 そう、私が住友財閥に任せて製品化した、世界初の抗生物質である、ペニシリン。その特許が、脅かされていた。

 アメリカ合衆国にて裁判を起こしたのは、史実でペニシリンを発見したアレクサンダー・フレミング。……の、友人の知人の弁護士だ。つまり、ペニシリン開発に関わっていない、赤の他人が裁判を起こし、私達の特許を奪おうとしている。

 これが、アレクサンダー本人などのペニシリンを探していた人達なら、まだ理解は出来る。だけれど、そもそも抗生物質が何かも分かっていない素人が訴えを起こした、というのが、腸が煮えくりかえる程怒りを覚えるのだ。

「アメリカでロビー活動はしてる、って聞いたのですが、どうなのですか?」

 外務大臣に尋ねると。

「してはいますが……。ここのところ、貴女の研究所の活躍のお陰で、アメリカという国が支援していた研究が結構駄目になりましたからね。民間企業の研究所も結構被害を被っていることもあって、ロビー活動の効果は薄いですね」

「そうですか」

 私がやっていることは、ずる(チート)だ。だから、この時代の研究者達が首を吊ることになることは、よーく分かっている。分かっているけれど。

 その恨みを、人を救うための研究にぶつけてくるとは。

 研究者でも何でもない人が、人を救う研究を駄目にしようとするとは。

「ふざけやがって」

 久々に、いや、今世で初めて、キレそうだ。

 感情のまま、発言し……。

「し、所長?」

 発言しそうになった時、内務大臣が怯えた声をかけてきた。

「あ……」

 駄目だ。感情だけで動くのは、駄目だ。

 ふうと息を吐いて心と頭を落ち着かせ、ソファに座ったまま頭を深々と下げ、謝る。

「ごめんなさい。少し怒りが湧いてしまったの」

 二人の大臣は沈黙する。

(怒られるかな?)

 身構えていると。

「いや、構わないよ」

 外務大臣の声がする。誰かに頭をグシャグシャと撫でられる。

「君はまだ、十三歳の子供なのですよ。感情的になるのは、当たり前のことです。そして」

 手が退けられたので、頭を上げると、外務大臣はニッと笑う。

「そんな子供を導くのは、大人の役目なのですよ」

 予想外の言葉に呆けてしまう。内務大臣の方も見ると、困った表情で、うんうんと頷いていた。

「で、でも、私は研究所の所長で……」

「確かに、君は所長という責任ある立場だ。だが、それは我々大人が不甲斐ないから、そうなってしまっただけなんだ。君はもっと、甘えても良い」

(そっか)

 この人達は、私を子供としても見てくれるんだ。胸が暖かくなり、泣きそうになる。それをくっと堪えて、私は前を向いた。

「じゃあ、そんな子供から、大人の二人に質問です。私は、何をしたら良いですか?」

 二人の大臣は、顔を見合わせて苦笑してから、言う。

「今まで通り、好きに研究してください」

 外務大臣がそう言った。

「その環境は、私達大人が整える。研究の使い道も、私達が用意する。ペニシリンの件も、それ以外も」

 内務大臣がそう言った。

「……それで良いんですか?」

 私はそう尋ねる。すると、内務大臣は言う。

「今はそれで良いよ。その代わり、大人になったら。子供達のために。出来れば、この国のために。そうなるよう、考えて動いて貰えれば、満点だ」

「そうして、『次』に繋いで行くのです」

 外務大臣が内務大臣の言葉の先を言い、私は、その『重さ』に、恐怖と共に歓喜を覚えた。それは、言葉だけでなく、私という生命に繫がってきた、ご先祖様の、私を『私』にしてくれた、全ての重さだ。

 でも。

(何か悔しいなあ)

 そう思ってしまうのは、前世持ちの傲慢さだろうか?

「……分かりました。では、好きに、日本のためになる研究をさせてもらいます」

 ニッコリと笑った二人に、私は言った。

「早速ですけど、私の研究所で、名前の付いていない抗生物質が五種類程あるので、その特許と商標を取ってきてもらえませんか?」

「……それでこそ、君だよ」

 外務大臣は、顔を引きつらせつつ言った。

10/23午前十一時二十分頃明らかに変な表現を変更。

余力が出れば、色々手を入れる予定です。

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