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超技術で史実をぶん殴る  作者: ネムノキ
最初から全力
28/70

災害救助艦隊、発足

《千九百二十八年八月二十九日 兵庫県 神戸港》


「凄いお祭り騒ぎだねえ」

 先日の二十七日に、フランスのパリで不戦条約が結ばれた時は『あっそ、ふーん』位のリアクションだった人々も、今日は浮かれている。

 と言うのも、陸の方では活動を始めていた災害救助隊に、今日から三隻の艦が加わり、海上での、特に外洋や本土から離れた島々での本格的な活動が始まるのだ。その、災害救助艦隊の本部として、ここ神戸港が指定されたこともあって、地元の人達は提灯を出したり、国旗を掲げたり、お酒を振る舞ったりとわいのわいのと騒いでいる。

「良かった」

 ほっとする。災害救助隊は、実質的に軍隊の予備部隊だ。だけれど、戦うことは無いとされている。

 軍隊だけれど、軍隊じゃない。そんな訳の分からない艦隊の本部に指定されて、神戸の人達はどんな反応をするのか。言いだしっぺとして気にしていたのだ。

「所長。そろそろ移動しませんと」

「そうだね」

 秘書と護衛の人達に連れられて、埠頭に行く。これから、セレモニーがあるのだ。


 万歳! 万歳! と叫ばれる前に浮かぶのは、真っ白に塗装された、旧桜型駆逐艦、現桜型救助艦『桜』と『橘』だ。第一次世界大戦時に量産された樺型駆逐艦の元となったこの二隻は、大砲と魚雷管を下ろされ、一基の放水器と四基の機銃、二隻増えて六隻となった搭載艇に後部に一基のデリックを積んでいるという、諸外国からしたら何をしたいのか良く分からない存在になった。

 進水から十五年以上経ち、先の大戦期の急激な技術進歩により旧式化したこの二隻から装備を引っぺがすことより、ボイラー等を取り替える方が時間がかかったらしいのは蛇足として。

 この二隻の乗組員は、それぞれ八十名で、泳ぎの達人が揃っている。まだ空気ボンベとゴーグル等からなる、私達の設計した最新型の潜水服の取り扱いには不安が残るけれど。現時点で、既に瀬戸内海で何回か、訓練中に近場で発生した海難事故の救助を無事行えているので、大丈夫だと思う。

 そして、それらの二隻に守られるように浮かんでいるのは、これまた真っ白に塗られた水上機母艦『若宮』だ。日本で初めて航空作戦を行った艦として有名なこの艦も、やはり大砲を四基の機銃に変えている。百四十名の乗組員がいるけれど、こっちは四機搭載している一四式水上偵察機R型(愛称募集中)という、『名機』一四式水上偵察機の災害救助隊モデルの整備と、無線通信による災害救助艦隊の指揮がメインである。

 一四式水上偵察機R型は、元の型に積まれていた武装を降ろし、三座を二座に変えて無線機を搭載したもので、エンジンも少し改良されている。陸海軍の航空隊を統合して創られる予定の、大日本帝国空軍の新型偵察機の開発も絡んだ機体だ。

 繰り返すけれど、これらの艦と航空機には、無線機が搭載されている。私達の信州研究所の第五研究室が頑張ったお陰で、外洋に出る艦に積める程度の無線機の開発に成功したのだ。航空機の方は、まだ使えるのは電信レベルでだけれど、通信出来る半径は二百五十から三百キロメートルと中々の距離がある。航空機だと振動が凄いから、無線機の開発も難しいのよね。

「確か、ここにまだ七隻は増えるのよね」

「はい。樺型駆逐艦から四隻、天龍型軽巡洋艦の二隻が、改造中又は改装を待っている段階です。水上機母艦の高崎の改装は半月以内に終わるそうですよ?」

「……本当、大盤振る舞いだねえ」

 この災害救助隊。『災害』救助隊と言いつつ、場合によっては不審船の検問も行うことになっているので、これだけの規模になったのだ。

 それでも、第一次世界大戦の結果、太平洋に広く点在するようになった日本の領土で発生した災害から国民を助けるには、全く足りないのだけれど。

 わあ、と歓声が上がる。若宮がデリックで降ろした一四式が、空に浮かんだのだ。真っ白な飛行機が、空を飛んでいく。街に建てられたスピーカーから軽快な音楽が流れ出す。

「凄いなあ」

 胸が熱くなる。この艦隊は、世界初の、自然と闘う艦隊だ。国民のための艦隊だ。もしかしたら、国民以外も助けるかもしれない艦隊だ。

 きっと、彼らは国民から愛されるのだろう。世界からも愛されるだろう。各国からセレモニーに呼ばれ、集まった人達の表情を見て確信する。

「……こうなりたいなあ」

 無意識のうちに、呟いていた。

(何のことを言ったのかなあ?)

 自分で自分が分からない。私は、何になりたいの? 何だか足元がフワフワする。

「なれますよ」

 混乱していると、左後方にいる秘書が、私の左肩に手を置いた。

「というか、もうなってますよ」

 主語の無いその言葉だけで、私の足元は固くなった。

「そっか。なら、裏切らないようにしないとね」

 旋回する一四式を見上げつつ言う。一体、何を裏切らないようにするのか、私はよく分かっていなかった。でも、何となく分かっている気もした。

 きっと、それで良いのだろう。

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