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超技術で史実をぶん殴る  作者: ネムノキ
最初から全力
26/70

張り切る内務省

《千九百二十八年八月十日 信州研究所》


 内務省がとても張り切っている。

 『ナプキン』の件だ。私の自作していたものから、一週間程でもっと薄く、軽くなったナプキンの大量生産および普及活動に、内務省は(私が見てきた中では)これまでになく力を入れている。

 というのも。この時代の生理用品は、衛生的によろしくないものが多かったり、使い方を間違えているものが多いのだ。

 定番は月経帯というパンツみたいなもので、洗えば繰り返し使えることから普及しているけれど。皆適当な布を使って自作するものだから、そんなに経血を吸わないし、少し動けば経血が漏れるし、かぶれるし、といった不便なものだ。そのため、生理中女性は身動きが取れなくなる。『家のことは女がやれ』なんて言う男の人も、この時ばかりは下手くそな料理をしたり掃除を頑張ったりする程度には、この苦しさは知られているのだ。

 タンポンの方もあるにはあるけれど、『男のものを入れるところに異物を入れるのはどうなの?』といった論調が主流で。その裏には、タンポンを繰り返し使ったり、自作したりと、衛生的によろしくないタンポンを使う人が多発して、病気になる女性が結構いた、ということがある。

 そこに登場したのが、例のナプキン。商品名『紙ナプキン』である。専用のゴミ箱に捨てる必要はあるけれど、使い捨てなので衛生的で、今までのものより経血を吸う紙ナプキンは、まず試しに使ってもらった、省庁の役人や議員等の奥様方の受けが非常に良く。

 労働力の足りてない現在、少しでも人手が欲しかったことと、不衛生な生理用品の使用による病気を駆逐するべく、内務省は張り切って紙ナプキンの普及活動を行っているのだ。


 そして、肝心のお値段は、一枚あたり驚きの八銭!


 これは、一回銭湯に入るよりは少し高いけれど、コーヒー一杯よりは安い位のお値段だ。何でこんな最先端の商品が安いのかというと、原料となるポリエチレンとレーヨン不織布、綿状パルプが安いからだ。

 レーヨン不織布と綿状パルプは、原料に木から作られるパルプを使っているのだけれど。バガス紙の生産に使う薬品を変えたことによる高品質化と、バナナ紙の商業化に成功したことで、旧型のバガス紙とバナナ紙の特許を世界に格安で公開出来た。その結果、木質パルプの値段はそこそこ下落している。

 ポリエチレンの方はというと、培養ディーゼルプラントの登場で、石油市場に強敵が現れたと焦ったペルシャ等の中東諸国が、プラスチック市場を拡大するべく原料の売り込みをかけているので、安く手に入る。

 結果として、紙ナプキンは安く売ることが出来るのだ。

 ……内務省が普及活動に張り切っている裏には、紙がかなり安くなったことで、今までの感覚からすると、好き放題チラシやポスターをすれるようになったことがあるのかもしれないけれど。それは関係無いと思いたい。

 婦人なんたら会とかいう、女性の権利獲得を目指す複数の団体から感謝状を贈られた翌日。内務大臣が困った表情で信州研究所にやって来た。

「女性の働かせ方が分からない?」

「そうなのだよ」

 中々ふざけた相談内容だけれど、内務大臣の表情を見ると本気で困っていることが分かる。

「これまでは、省庁で働く女性は少数だったので、様々な要望を出されても対応出来たのだが。来年度から女性を積極的に採用しよう、となったものの、各省庁や自治体によってやっていることがバラバラでなあ。どう手引書を作ったものか、困り果てているのだよ」

 例えば、生理休暇の有無だったり。育児休業の期間だったり。女性を採用する人数を義務付けるのかどうか、という問題もある。

「そして、それらの意見を、既に働いている女性から集めたのだが……」

「それもバラバラだったのですね?」

「そうなのだよ」

 それは困る。

 でも、私から言えることは、あんまり無い。私の価値観は未来的過ぎるのだ。

「それは、頑張ってください、としか。一応、この研究所で女性が働く上での手引書は提出しますが」

「それでも助かる」

 ほっと気が抜けたのか、内務大臣はポロリと愚痴をこぼした。

「女性の権利獲得と言うのは、難しいなあ」

「確かに、そんな考え方でやると難しいですね」

「どういうことだ?」

 興味を持ったらしい内務大臣に、私は苦笑しつつ説明する。

「『女性の権利獲得』だなんて言い方がされてるけど、あれって、『男性の権利獲得』でもあるんですよね」

 興味深げに頷く内務大臣に、私は続ける。

「例えば、育児休業。これって、『女性が休むのは当たり前』って言われているけど、生まれたばかりの、可愛い盛りの赤ん坊を育てる『権利』は男性には無いのか、って話になりますよね?」

「あー……」

 もの凄く実感のこもった、切ない声を内務大臣は上げる。

「例えば、生理休暇。生理休暇ってせずに、有給休暇にしたら、今の働き過ぎな男性も休みやすくなるでしょう? 産休だって、重たいお腹を抱えた奥さんを持った旦那さんも不安なんだから、早めに帰りたい筈」

「そうだったなあ……」

 内務大臣はウンウンと力強く頷いた。

「『女性だ』『男性だ』ってせずに、素直に『労働者の権利の獲得』ってしたら良かったのを、見栄を張ったのか、変なことをしたから、女性の権利獲得だなんて訳の分からない活動になってるんですよ」

 前世の世界では、そこを勘違いしている自称フェミニストが山ほどいた。この世界でも既にそうなっているけれど、変わるかなあ?

「今回の生理用品みたいに、技術的に解決出来る女性の問題が解決されてなかった、という事情もあるのかもしれないけれど、そこは私達が頑張って解消していくので、大臣は政治的な方面を頑張ってください」

「ああ、頑張るよ。『労働者の権利獲得』だな?」

「ええ。『労働者の権利獲得』です」

 二人して、笑い合った。

婦人なんたら会、該当するのが多すぎる……。


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