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超技術で史実をぶん殴る  作者: ネムノキ
最初から全力
25/70

おめでたいこと2

 第三研究室室長は、第四研究室室長と違うところが気になったみたいだ。

「旦那も休めるというのは、良いことですね」

 その、やけに実感のこもった声色に、私と第四研究室室長は押し黙る。

「……貴方って、確か独身よね?」

 第四研究室室長がおずおずと尋ねる。

「はい、独身です。でも、姉の子育てを手伝わさせられたことがありまして。義兄は海軍の軍人なのですが、中々家に帰れなくてですね。久々に家に帰って来たら、甥っ子、義兄の長男ですね。に、『おじさん誰?』と言われて、もの凄くヘコんだのを見たもので」

「「あー……」」

 私と第四研究室室長の声が被る。私も、前世で聞いたことのある話だ。

「……でも、旦那には稼いで貰わないと困るから、完全に仕事休まれるのも問題じゃない?」

「第四の室長って、けっ……はい何でもないです」

 余計なことを聞こうとしたのか、睨まれてしまった。

「……き、気を取り直して。そこは残業しないとか、就業時間を短く出来るとか、申請次第で出来るようにしてるから、そんなに問題にならないと思うよ?」

 そこは、二十一世紀のものを参考にしたので。この時代ではあり得ない選択肢の広さになっている。

「まあ、それなら良いか」

 第四研究室室長はほっとひと息つく。

「働くのを止めないで済むのは、男としては助かりますね」

 第三研究室室長もひと息。

「やっぱり、男としては稼ぎたいものなの?」

 訊ねると、「そうですね」と第三研究室室長は頷く。

「大黒柱になる訳ですから、その稼ぎが少ないのは、こう、精神的に来ますね。前までは結婚なんて考えられない位でしたけれど」

「そんじゃ、良い人、いるの?」

 第四研究室室長が尋ねると、第三研究室室長は「黙秘します」と。

「おやおや?」

「あらら?」

 第三研究室室長の様子に、第四研究室室長と私はニヤニヤする。

「これは聞き出さないと、ね?」

「やめてください」

 私の言葉にげんなりする第三研究室室長に、第四研究室室長が「大丈夫よ」と告げる。

「『女子会』で聞くから」

 女子会、というのは、信州研究所に勤める女性の集まりだ。開催は不定期だけれど、大概夜なので、私は中々参加出来ずにいる。

「勘弁してくださいよ」

 本気で嫌そうな表情をする第三研究室室長は、こちらに刃を向けてきた。

「それより、所長の恋愛事情はどうなんですか?」

「あー気になる」

 ……なるほど。これは嫌な気分だ。

「私は諦めてるからねー」

 意識して、軽く言うと、二人は顔をしかめる。

「まだ若いのに?」

 第四研究室室長はそう言う。けれど、若さの問題じゃないのだ。

「若くても、私の側に問題があるからね」

「確かに、所長稼いでますからね」

 第三研究室室長は何やら納得しているけれど、そうじゃないのだ。

「いや。単に私が子供産めないから」

 すると、二人は硬直する。

「……あれ? 知らなかった?」

「……知らないわよ」

「……知りませんよ」

 どうやら、知らなかったらしい。

「まあ、色々あってね。で、結婚、ってしたら、絶対子供が欲しくなる。なのに産めないのは、辛すぎるからね。だから諦めてるの」

 悲愴な表情になる二人を前に、私は気が付いた。

「ああ、だからか」

 きっと、そうだ。

「あの二人がね、子供が出来た、って言ってきたの。私に子供が出来たみたいでさ。代償行為、っていうのかな? 多分それなんだけど、だから、その、もの凄く嬉しかったのよね」

 気が付いたら、第四研究室室長に抱かれていた。

「そっか。ごめんなさい、気付かなくて」

「あやまることないよ」

 そう、彼女が謝ることではない。それに。

「生理は来てるから、医療が発達したら、産めるようなるかもしれないし」

「あ、それは来てるのね」

「失礼な」

 モゾモゾと第四研究室室長の腕の中から抜け出す。

「所長生理の有給休暇取らないから、来てないのかと思ってたのよ」

「そこは良いナプキン自作してるからね」

「ちょっと待って」

 第四研究室室長は疑問符を浮かべる。

「ナプキン、って、何? タンポンとか月経帯とは違うのよね?」

「へ?」

 私、何か変なこと言った?

「ナプキン、って、ナプキンだけど」

「今持ってる?」

「いや。私室にはあるけど」

「ちょっと所長借りるね」

 居辛そうな表情を浮かべた第三研究室室長を置いて、私は第四研究室室長に、研究所すぐ隣の女子寮の私の部屋にまで連行される。

「さあ! そのなぷきん? とやらを見せなさい!」

 何やらテンションの上がっている第四研究室室長にそこはかとない恐怖を覚えつつ、ベッドの下の小さい方のタンスから、次の生理の時のために作っておいたナプキンを出す。

「……変わった形ね。どう使うの?」

「え、えっとね」

「実演して?」

 ニッコリ笑顔に何も言えず、ズボンとパンツを脱いで、付けてみせる。パンツは紐で止めているので、緩めると脱げてしまうのだ。

「なるほど。パンツを穿いていることが前提なのね」

 ウンウンと第四研究室室長はもうひとつのナプキンを手に頷く。

「で、何でこのこと言わなかったの?」

「このこと、って、ナプキン? だって、生理用品、って、自作するものなんでしょ?」

 少なくとも、母からはそう聞いていた。

「月経帯ならそうだけれど。このナプキン。商売になるわよ?」

「なるかなあ? この防水シートのところ、ポリエチレン使ってるのに」

「そこは大丈夫じゃない?」

 現在、培養ディーゼルプラントが日本において本格的に稼働し始めたことに、ペルシャを始めとする産油国は、市場に強敵が現れたとおののいているらしい。そこで、ポリエチレンという石油製品の需要を増やしてやると、市場自体が広がるので、産油国の不安を取り除ける、そうな。

「ま、外務省の受け売りだけどね。水道管用のポリエチレンを改良した時、そう言っていたわ」

「なるほどねえ」

 正直、助かる。毎月、試供品のポリエチレンシートと脱脂綿を使ってナプキンを自作するのは、中々大変だったのだ。

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