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超技術で史実をぶん殴る  作者: ネムノキ
最初から全力
24/70

おめでたいこと

 イギリスで女性参政権が認められたことが世界中で話題となる中、特に戦争をしている訳でもなく、全国的な災害に襲われた訳でもなく、政治闘争が起こっている訳でもないのに、史実の総動員令が発令された状況のような、深刻な人手不足に陥りつつある大国が、アジアにあった。

 その国の新聞各社は、その状況を『好景気のせい』やら『移民を行い過ぎたせい』やらと論じていたが、どれも的外れだった。

 そしてその状況を生み出した『社会システム』は、この状況の引き金を引いたとある研究所にも、襲い掛かろうとしていた。



《千九百二十八年七月六日 信州研究所》


「申し訳ありません!」

 第二研究室の若い男の研究員が、第三研究室の女性研究員と共に仲睦まじく私の部屋に来るなり、土下座した。女性も泣きそうな顔で頭を下げている。

「…………えーっと、どういうこと?」

 彼らの後ろで困った表情をしている、第三研究室室長と第四研究室室長に尋ねると、二人の室長は顔を見合わせた後、第四研究室室長が言った。

「……えっとね。この女の子なんだけど、妊娠したの。旦那はこの土下座してる奴」

 何を言われたのか理解した途端、私の頭の中は歓喜に溢れて、思わず椅子から立ち上がって女性研究員の方へ駆け寄って。

「おめでとう!」

 祝福した。

 こんなに嬉しいことは無かった。私の研究員に、子供が出来たのだ。それは、給料や諸々の制度が整っていないと、踏み出せない奇跡だ。

 嬉しさから泣きそうなのを堪えていると、何故か女性研究員はますます縮こまり、男性研究員の方は更に額を床に擦り付け、二人の室長は困り切った表情になった。

(何か間違えた?)

 疑問を抱きつつ、私は伝える。

「じゃあ、出産・産後休業の準備しないとね。書類出すから、ちょっと待っててね?」

 そう言って書類棚の中にある筈の、必要な書類を探していると、女性研究員らしき可愛らしい声が私の背中に投げかけられた。

「すみません。出産? 産後? 休業? って何ですか?」

「……え?」




   ***




「……つまり、二人は怒られると思ったのね?」

「「はい……」」

 応接間に移動して、背の低い机を前にソファに座り、事情を聞き出した。二人の研究員は私の正面で可哀想な位縮こまって椅子に座っていて、二人の室長は低い机の両脇に、持ってきた丸椅子に座って、とある書類の束を必死に読んでいる。

「そりゃあね? 女の側が望んでいないのに孕んだとかなら、激怒しただろうけど。そうじゃないんでしょ?」

「「当然です!」」

「……二人とも、息ぴったりだねえ」

 お熱いことで。見ているこっちがムズムズする位ラブラブ(この世界では聞いたことのない言葉)だ。

「……ま、私から言えることは。幸せな家庭になるよう努力するんだよ? 私も、協力出来ることは協力するから」

「ありがとうございます!」

「ありがとう……。本当に、ありがとう……」

 手を取り合って、泣きながら何度もお礼を言う二人を、陸軍の護衛を付かせて一旦寮に帰らせ、二人の室長を私の正面の席に移動させて待つことしばし。

「見つけた!」

 第四研究室室長が歓声を上げた。

「『妊娠した場合、出産予定日の六十日前から、及び出産後九十日間は就業してはならない』。強制なのね」

「そりゃあ出産って母体にかかる負荷すんごいもん」

 付け加えると、この時代のお産はもの凄く危険だ。無痛分娩なんて日本に入ってきたばかりで、帝王切開も行われるようになって五十年位しか経っていない。そして、それらを支える殺菌法自体が黎明期で、やっとこさ手術器具の煮沸消毒が病院で普及したところで、消毒液は毒性の強いフェノールや次亜塩素酸ナトリウム。お医者さんは、手をボロボロにしながら手術してくれているのだ。

 アルコール消毒を普及させたいところだけど、日本人のアルコール分解能力は低いので、どう普及させるものか、内務省のお役人さんが頭を悩ませているのは蛇足として。

 そして、自宅出産が当たり前だから、その衛生環境は悪く。今の妊産婦死亡率(年間妊産婦死亡数÷年間出産数(出産数+死産数)×十万、で現される、医療統計上の指標。簡潔に言うと、子供が十万人産まれたらお母さんが何人死ぬか、という数値)は二百六十位。二十一世紀の、内戦や疫病の無い途上国の倍程度は、出産が原因か、産後の肥立ちが悪くて死んでいるのが、この時代の日本なのだ。

 ちなみに、産婆さんの足りてないイギリス本国では、この倍は死ぬというのだから、本当命懸けである。

 この条文を見た第三研究室室長は、首を傾げた。

「この期間、短くないですか?」

「ん? どっちが?」

「産後の期間ですね」

 今の日本では、やっと粉ミルクの販売が始まった頃だし、母乳信仰がまだまだ根強いので、赤ん坊を母乳で育てるのは当たり前のこととされている。

 第三研究室室長の発言は、そのことを踏まえてのことだ。

「ああ、それはね」

 私は説明する。

「『育児休業』っていうのを、別に取れるようにしてるの。こっちは子供が生まれてから二年経つまで、旦那さんも取れるんだけどね」

「えその間の給料はどうなるの!?」

 第四研究室室長が鬼気迫る表情で尋ねてくる。

「払われないけど、特許料の分は振り込まれるようにしてるよ?」

 信州研究所では、研究所が得る特許料のうち、私が助言したもの、つまり今のところの全部の研究の一割は私に、四割は研究所の次の研究のための資金に、五割はその研究に加わった研究員に等分されて払われるようになっている。

 金属再結晶化関連技術や、培養ディーゼル、バガス紙関連は、国に影響力を持てる程度には莫大な特許料が入っているので、所員達もやる気が出ているし、育休を取ったとしても、生活に困らない、むしろちょっと贅沢が出来る程の収入はあるのだ。

 ただ、所長としては、その自分達が手にした特許料の分も、研究費に突っ込むのは止めて欲しい。「投資だー!」とか言って勝手に研究所に負担のかからない予算の増額しないで欲しい。お陰で税金の計算とか予算の再分配とか、もの凄く面倒臭くなってるから。本当、止めて欲しい。

微妙に気に入らないので、書き直す、かも?

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