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超技術で史実をぶん殴る  作者: ネムノキ
最初から全力
23/70

出来ることは多いけど

「農業用トラクター向けのゴムの改良?」

 第四研究室室長に尋ねると、彼女は少し考え込んだ後、ため息をついて言った。

「ごめん。タイヤ向きのものの改良は終わってたんだけど。報告したつもりになってた」

「あ、そうなの」

 落ち込んだ様子の第四研究室室長に、私は尋ねる。

「……何か悩み事でもあった?」

「悩み事というか、うーん……」

 第四研究室室長は、腕を組んで唸り、ポツリ、と口にする。

「ゴム、出来ることが多すぎて……」

「あー……」

 納得する。多分、第四研究室は忙し過ぎるのだ。

「一応、理由の仮説は立ったけど、教えてくれる?」

「分かった」

 彼女はふうと息を吐いてから、一気に話す。

「まず、ゴムの伸びる性質が曲者でね。どの程度まで伸びるのを許容するのか決まらないと、まず研究に着手出来ない。なのに陸軍とか農林省からの指示は『良い感じで』。所長の『タイヤなんだから、そんなに変形しない方が良い』って助言が無かったら、始めることすら出来なかったわ。で、いざ研究を始めたら、今度は添加剤の多さが行く手を阻んだの。金属なら、他の金属とか、微量の炭素とかを相手にしとけば良かったけど、ゴムは、金属だけじゃなくて、黒鉛とか糸とかも混ぜられるのよ。知ってる? 場合によっては焼酎を混ぜることもあるのよ?」

「それは知らなかったなあ」

 かなりストレスが溜まっているみたいだ。もっと愚痴を吐き出させないと。ちょっと不味そう。

「でね? その山ほどある添加剤が、車のタイヤ一個分のゴム相手でも、薬匙半分以下の量で性質が変わってくるのよ。所長と所長の秘書に色んな資料を集めて貰ったからマシだったけど、その微妙な違いをチマチマ突き詰めて、何とか出来た! 次は再現だ! って思ったら、再現出来ないの。って言うのも、ゴムの元になる木の種類で性質が微妙に異なってくるし、おまけにそれが栽培地域によっても変わってくるのよ!? ふざけてるの!? ドイツとかアメリカが石油からゴム造ったのも理解出来る話よ!」

「うわあ……」

 第四研究室の苦労を思って、絶句する。添加剤関係に、私の知識を提供していたから簡単かと思っていたのに。ゴムの木の種類や産地で性質が微妙に変わるなんて、知らなかったよ。

(反省だなあ)

 前世の知識は万能ではない。そのことを、もっと意識しないと。

「で、タイヤ向きのゴムが出来たのね?」

「はい」

「流石ね。よくやってくれたよ」

 そう言うと、第四研究室室長は恥ずかしそうに頬をかいた。

「ま、まあ? 頑張りましたし? ついでにタイヤ用の防弾ゴムも昨日出来ましたし?」

「それ滅茶苦茶凄い!!」

 本気で凄い。防弾ゴムが出来た、ということは、まともな装甲車を造れるようになった、ということだ。工業機械の準備さえ整えば、前線に弾薬や食料を届ける装甲車が大量生産出来るようになり、今の馬や人力に頼っている兵站は大幅に改善されることになる。

 だけではない。前世では、軽トラックやハーフトラックに機関銃を備え付けただけの兵器が、戦場で大活躍していた。今はまだ二、三人運ぶのが精一杯の自動車を造ることしか出来ないこの国も、農業用トラクターや軍のトラックの製造で、製造ノウハウや資金、技術を蓄積出来れば、そんな比較的簡単な『戦車』なら早期から造れるようになり、前世の日本のように、まともに戦車の運用方法を考える時間が無かった、なんて話にはならない。

 他にも、防弾ゴムがこんなに早く登場したなら、航空機の防弾性能も上げられるし。民間なら、第四研究室で改良したコンクリートやアスファルト製の道路が普及すれば、ゴムタイヤと併せることで物流に革命が起こる。たとえ人力車だろうが、それは変わらない。

「よくやってくれたよ!」

 私は第四研究室室長の腰の辺りをたたく。背中を叩きたかったけれど、背が足りなかった。

「ええ」

 第四研究室室長はニコリと笑った。

「あと少しでこの件の報告書が出来るから、今日の夕方か明日の朝には渡すわね」

「お願い」

 ここまで話して、ふと気になったことを尋ねる。

「……ところで、今はゴム関連は何の研究をしてるの?」

 すると、第四研究室室長はさらりと答える。

「ええ。今はパッキン用のゴムの改良をしているわ。陸軍からせっつかれてるのもあるけど、商工省も興味を持ってるみたいなのよね。何故かしら?」

「ほほう」

 すぐ、商工省が出てきた理由を理解出来た。

「ブルドーザー、って、陸軍が造ったでしょ?」

 第四研究室室長はすぐに思い出せなかったようで、しばし考え込んでから手を叩いた。

「あー。あの良く分からない戦車っぽい何か」

 実物の動くところを見たことが無かったらそんな認識でも仕方ない、と自分を納得させつつ、説明する。

「そのブルドーザーがね。『農林業発展計画』で大活躍してるみたいなのよ。ダム建設とか、水路整備とか、北海道の開拓とかでね」

「見た目によらず凄いのね」

「凄いの」

 苦笑しつつ、続ける。

「でね、その部品の幾つかを、油圧に変えた方が効率が良いのでは、って話が陸軍内であってね。工事で使えるものの改良だから、商工省も興味を持ったんじゃないかな?」

「なるほどね」

 第四研究室室長は納得したようだった。

「あと、ブルドーザーの成功を受けて、陸軍が新規開発してる重機が、油圧の問題に躓いているんだって」

「それは責任重大ね」

 蛇足かな、と思いつつ言った言葉に、第四研究室室長は気合いが入ったみたいだ。

「商工省から予算引っ張ってこれないか、動いてみるから、研究頑張ってね」

「やった所長大好き!」

 私は、第四研究室室長に抱きつかれた。何だか嬉しかった。

これで、書き貯めていた分は全部です。

続きはゆっくり書いていきます。

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