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超技術で史実をぶん殴る  作者: ネムノキ
最初から全力
21/70

培養ディーゼル施設見学会兼営業

《千九百二十八年六月十日 新潟県》


 感嘆の声があちらこちらから上がっている。

「水に油が浮かんでいるぞ!?」

「本当に緑色なんだな……」

「なるほどそうやって濃度を維持しているのか」

 ユーグレナ・オイリーを使った、培養ディーゼル生産施設。その第一号である『新潟培養ディーゼル生産所』に集まったのは、世界各国の駐日大使達と、彼らお抱えの技術者研究者だ。

(おっかしいなあ……)

 私が始めに外務省から通達を受けたのは、『イタリア大使が新潟培養ディーゼル生産所の視察をするので、その解説と売り込みをして欲しい』という話だったのに。いつの間にか話は脹れあがって、世界各国から大使や技術者研究者が集まって施設を見て回っている。

 秘書だけでなく、第一研究室室長や陸軍から出向してきている護衛まで使って説明して回っているけれど、目の回るような忙しさだ。

「排気の成分なのだが……」

「排気、というとどの排気ですか?」

 私も、さっきまでイタリアの技術者の応対に当たっていたのに、彼が離れてすぐにベネズエラ大使がキラキラした目で質問してくる。

(しんど……)

 大多数の好奇の目が、精神を摩耗させている。その中で、当初こそ嫌そうな表情だったものの、説明を受けるうちに子供みたいにはしゃぎだしたベネズエラ大使は、一種の癒し枠だ。

「ああ、言葉不足だったな。培養槽の排気だ」

「培養槽の排気について、ですね? その成分に疑問が?」

「いや。昼間は酸素と微量の気化したディーゼルが混ざる、ということだが。それでは、爆発する可能性が高いのでは?」

 流石産油国というべきか。ベネズエラ大使は、かなり突っ込んだ質問をしてくる。

「確かに、培養槽の排気には、微量の気化したディーゼルが混ざっています。ですが、極々微量ですので爆発出来ません」

「確かに、ディーゼルはガソリンよりも沸点が高かったな。なるほど。だが、一度出火すれば、鎮火は難しいぞ?」

 その表情は、どこかでそういった経験をしたか、見たかしたような心配するものだった。

「そこは、最新型の消火器があるので大丈夫です」

「最新型?」

「はい。培養槽の上部には、炭酸ガスを用いた消火器があります。例え培養槽で出火したとしても、ここから高濃度の炭酸ガスを送り込むことで、窒息消火が可能になっています」

「ほほう。そして、培養槽自体が破損した場合は、下の溝に中身がこぼれるようになっており……。なるほど。あそこの配管は炭酸ガスが通るのか」

「ご明察です」

 軽く頭を下げると、ベネズエラ大使は想像もしていなかったことを言った。

「この消火器、欲しいな」

「……一応、外務省に連絡してください」

 何とか答える。この炭酸ガスを使った消火器は、海軍が開発したものを流用しているのだ。なので、下手に売ることは出来ない。

「分かった。ありがとう」

 ベネズエラ大使はスタスタと培養槽の下に掘ってある溝を覗きに行き、お付きの技術者と警備の人に止められている。

 面白い人だなあ、と思っている間に、イギリスの科学者が近付いてきていた。

「この培養槽には、ユーグレナ・オイリーが培養されている、とのことですが、フルータスの培養槽も似たような構造なのですか?」

 一瞬視線が集中してきたのを感じつつ、自然体を意識して答える。

「この培養槽は、上部に浮かんでくる培養ディーゼルを取り出すことが最も重要な機能として設計されていますが、フルータスの培養槽の場合、増殖させたフルータス自体を取り除くことが主目的となりますので、全く構造は変わります」

「実物はありますか?」

「静岡の相良油田近郊に、小型の実証実験用のものが四基あります。希望をあそこに立っている、我が国の外務省の職員に伝えて貰えれば、見学が出来るようになっています」

 静岡の培養槽は、稼働を始めて一カ月と少ししか経っていないものだけれど。それは説明が面倒なので言わない。

「四基、と言うことは、構造に違いが?」

 さっとフランスの技術者が近付いてきて尋ねてくる。ここの見学をとても楽しんでいるようで、来たときよりも元気が溢れている。

「それらの構造に違いは無いです。中身は違いますが」

「中身、というと、フルータスとは別物が!?」

 イギリスの科学者が悲鳴染みた喜びの声を上げる。私は頷きつつ、正確なところを伝える。

「フルータスの株を二種類。『パニシエ』というフルータスの別種の株二種類を培養しています」

 私の周囲に、沈黙が広がる。

(何で?)

 疑問符を浮かべていると、フランスの技術者の後ろで彼らの国の科学者と話し合っていたアメリカの大使が、唾を飲み込んで再起動した。

「……パニシエは、フルータスとは何が違うのですか?」

「フルータスは、細胞中に蓄えられるデンプンと糖の量が比較的多く、乾燥させて食べるとほのかに甘く感じられます。一方、パニシエは、フルータスと比べるとデンプンや糖をあまり蓄えることが出来ず、食べてもあまり味がしません。その代わり、増殖力に優れています」

「……なるほど。ということは、フルータスは人間が食べる用。パニシエは飼料用、ということですか」

「我々としては、それを想定しています」

 ザワザワと再起動し始める大使達。

「フルータスとパニシエでは、増殖力にどれ程の差が!?」

「食味はどれ程違う!?」

「いや待て君先にオイリーについて聞けよ」

 再び混迷に戻った場に、何故か安堵している自分がいた。

筆者の呟き


ユーグレナ(ミドリムシ)の種類の名前は、ラテン語や英語を参考にしていますが、正直これで良いのか自信がありません。


ちなみに、

・オイリー:油

・フルータス:果実

・パニシエ:糧

から取っています。


ラテン語や学名の付け方に詳しい方、おられましたら筆者の活動報告にて教えてください。

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