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超技術で史実をぶん殴る  作者: ネムノキ
最初から全力
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信州研究所、始動

「さて、」

 各所から派遣して貰う予定だった予算と人員が出揃った翌日の朝食後。私は、集めた代表達を前に今後の計画の話を始めた。

「全員やっと集まったところで悪いけれど、我々は早急に成果を上げる必要があります」

 疑問符を浮かべた彼らに苦笑しつつ、説明する。

「つい最近、今年の三月から始まった金融恐慌の例を出す間でもなく明らかなことだけれど、我が国の経済基盤は非常に貧弱です」

 片面だけ刷られた紙幣が出回ることで収まってきているけれど、ここに出ている人達は皆酷い目に遭ったようで、苦笑したり、苦い顔をしたりと納得してくれたようだった。

「それは何故か? ひとつは、経済の制度がまだ整っていないこともあるけれど、それ以上に経済基盤となる産業が貧弱だからです」

 こっちは、あまり納得してくれなかったので、例を出す。

「例えば、工業製品。欧州や米国の製品の方が、高性能な割に安価なことは皆さんご承知のことだと思います」

 苦虫をかみ潰したような表情や、諦めの表情が浮かぶ。

「例えば、農業。少し雨が降らなかっただけで、全国的な飢饉に襲われます」

 何人かが頷く。

「例えば、資源。我が国の中核たる日本列島にはあまり資源が無く、鉄鉱石等を朝鮮に頼り、それでも足りずに満州に手を伸ばしていることは、新聞にも載っています」

 ようやく、全員が納得してくれた。

「我々に与えられた使命は、新技術により、この貧弱な経済基盤、特に工業分野を、強固なものにすることです。具体的な方向性として、私は三つの方針を考えています」

 皆が前のめりになったことを嬉しく感じつつ、言う。

「ひとつは、『資源生産量の増加』。これは、既に研究中である、培養ディーゼルや金属再結晶化技術を中心に進めていきます」

 こっちの心配は無い。

「ひとつは、『産業構造の改善』。これは、我々から直に、政府に幾つかの提案を上げることで行います。皆さんは、その原案となる意見を各々の財閥から集めてきて下さい」

 これは頷きが返ってきた。これも、心配していなかった。問題は次だ。

「そして最後は、『消費の効率化』。これが、最も困難なこととなります。様々な製品の生産過程での無駄の改善。及び運送、消費過程での無駄となる部分を減らすことで、産業の効率化を図ります」

「少し待って欲しい」

 早速手を挙げたのは、三菱財閥から送られてきた技術者だ。

「どうぞ」

「はい。無駄を省く。至極当然のことです。ですが、当然であることは既にわれわ……、いえ、各企業でやっています。今更こちらでしないでも」

「ついでに言わせてくれ」

 続いたのは、三井財閥からの技術者が言った。

「我が国は貧乏だ。だから、既に運送や消費での無駄は省かれている。こちらでこれ以上やることは無いのでは?」

「それに、効率化を技術的に行うと言われても……」

 最後に、ぼそりと住友財閥の技術者が言う。

(この時代の技術者、って、この程度なのかあ)

 内心がっかりしつつ、私は彼らを笑った。

「ハハハハハ……。いや、失礼。皆さん、頭が固いですね。いや、私が子供で柔らかいだけかな?」

 ジョークを飛ばすと、困惑される。私は気にせずに続ける。

「私から見ると、今の我が国の工業は無駄ばかりです。石油や石炭の消費量はまだ減らせますし、土地だってもっと効率的に使える。人手なんて、海外に捨ててる場合じゃない。その証拠を、提示しましょう」

 そう言って、私はとある書類を、海軍から私付きになってくれた秘書に配らせる。

 早速とばかりに書類を目にし、どよめいた彼らに説明する。

「『石炭ガス化複合発電』。今はまだ理論上のものだけれど、これを使えば、発電の高効率化が可能です。まあ、実用化には沢山課題があるのですが……」

 私は頭をかく。基礎技術は積み重ねが重要なので、この技術はまだ机上の空論や妄想と言われる類のものなのだ。

「……確かに、炉の高温に耐えられる資材の開発や、機器の高精度化を行わなければ、これは無理だ」

 三井財閥代表が、冷や汗をかきながら言う。

「ですが、現在の技術で実用化可能な部分も多いですね!『廃熱回収ボイラー』等は、すぐにでも試作しましょう!」

 三菱財閥代表は興奮した様子で言った。そして、住友財閥の代表は。

「納得しました。確かに、技術開発によって無駄を省くことが可能ですね」

 と何度も頷いている。

(計画通り!)

 いや、それ以上に上手く行った。

「それじゃ、中身を詰めていきましょうか」

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