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超技術で史実をぶん殴る  作者: ネムノキ
最初から全力
15/70

外野からの妨害(陰謀論)

《千九百二十八年五月四日 東京》


 五月一日、政府は『農林業発展計画』を今年七月から開始することを発表。これまで、大陸に進出しようとしていた日本の方針の破棄に等しいこの計画の準備に伴い、多額の税金と人員が日本全国に割り振られる中、この『開国以来の大公共事業』に振り回されることになった人達が、とある料亭に集まっていた。

「困ったことになりました」

 そう言ったのは、住友財閥の長だ。

「しかし、乗ったところで危険性は無く、むしろ利益が大きい……」

 続いたのは、三井財閥の長。

「悩むことか?」

 そんな彼らを横目に、並べられた豪華な料理を食べ進めていた三菱財閥の長が箸を止める。

「本来、本国の開発に集中すべきところを、海外なんぞにかまけていたのは、我々の失態だ。失態を挽回する機会を与えられた以上、乗るのが正道だろう」

「だがなあ……」

「今までの投資が無駄になりかねん」

 腹黒な会話が続けられる横で、この場に合わない女の子がひとり。

(帰りたい……)

 私は心底そう思いつつ、ちまちまと料理を口にしていた。

 このまま影に徹していよう、と縮こまっていると、三井財閥の長が尋ねてきた。

「なあ、信州の。この案はお前達からか?」

「……いいえ」

 私は箸を起き、首をふる。

「確かに、我々は農村部の生活が楽になるような商品を作りました。ですが、それだけです。『日本本国の農村部への投資』は提案していません」

「だよな……」

 三井財閥の長は力無く首を振った。

 今回の『農林業発展計画』では、日本政府が多額の資金を準備して、高収量や耐寒性の高い稲を農村部に配り、同時に里山林や森の整備を、足りなければ陸軍から人手と道具を出して行う、というものだ。

 これは、私の目指していた日本の発展とは、少し方向性が異なっている。

 私が農林業方面で目指していたのは、農具の改良や機械化で労働効率を向上させ。今まで捨てていたものを商品とすることで農林業の生産性を上げ。それらをこちら側が準備することによって、自発的に農村部を発展させていくことだ。

 だけれど、『農林業発展計画』は違う。私の準備したものを、政府が強制的に農村部に使わせるのだ。そこに、農村部の人々の意志は、無い。

「農業用ダム及び水路の建設。一定規模以上の集落へ『籾殻発電所』等小規模発電所の建設及び運営。トラクター及び重機貸出制度。暗渠排水設備の整備。ここらは財閥として協力出来るが、一体どれだけの税が投入されるのやら」

 三菱財閥の長は乾いた笑い声を上げる。

「何らかの援助を国から各企業に要請されたことをお忘れ無く」

 住友財閥の長が三菱財閥の長を睨みつける。

「ただ働きにならんようにするのは、俺らの腕の見せ所だろう?」

 三菱財閥の長は飄々と返す。

「なあ、信州の。今回の『計画』で俺らが利益を出すことは、技術的に可能か?」

(それはむしろ経理とか営業とかの仕事じゃないかな?)

 顔を引きつらせつつも、何とか答える。

「……ダムや水路の建設工事は、確か格安で請けろ、という話でしたよね?」

「そうだ」

 これは、財閥が存在する強みだろう。普段甘い汁を吸わせているからこそ、いざという時、国は財閥に無茶ぶり出来る。これが前世で一般的な企業ばかりなら、無茶ぶりしたところで請け負ってくれる企業は存在しない。

「なら、手はあります」

 おお! と三人はどよめく。

「研究中のセメントを使えば、強度、硬化速度、耐寒性等が向上する上、値段は一割程度安く済みます。又、重機の値段も、生産工程を見直すだけで、二割は安く出来ます」

「……それがどう利益に繫がるのだ?」

 疑問符を浮かべた三井財閥の長にニンマリと笑う。

「一応公共事業なのですから、政府は、工事を依頼した企業に報酬を支払う必要があります。ですが、その報酬の算定と入札は工事が始まる前に行われる上に、旧式の高いセメントや重機が基準となります」

「政府の算定金額よりも安価で請け負える訳だから、やりようによっては利益が出る訳か」

 三菱財閥の納得した表情に、一応警告を入れておく。

「念のためですが、私が政府にこのことを聞かれたら、正直に答えざるを得ないことをお忘れなく」

「そこは我々の仕事ですので」

 住友財閥の長が笑った。

(何だかなあ……)

 私は、自分のことを善人とは思っていないけれど、彼らを見ていると、自分が善人なような気がしてくるから困る。

 同時に、善人では国や組織を動かせない現実に、嫌な気持ちになった。

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