表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
超技術で史実をぶん殴る  作者: ネムノキ
最初から全力
14/70

研究員が優秀で困る

《千九百二十八年四月二十六日 信州研究所》


 籾殻発電機の実用試験機が、研究所の近所の村で出来たことで、研究員達が盛り上がっている。

「そういう訳で、併設した風呂が使えるかの試験をしているのですが、所長もどうですか?」

 第三研究室室長が嬉しそうに誘ってくる。私は、彼らの浮かれ具合と私の心の動揺具合に苦笑しつつ、返事をする。

「悪いけど、今はシャムに売り込もうとしてる木炭火力周りが大詰めだから。君達で楽しんでおいで?」

「……所長は真面目ですね」

 では、行って来ます、と第三研究室室長達は研究所から出て行った。

(情けないなあ)

 随分昔のことを引きずり過ぎだ。

「ふう」

 息を吐いて気持ちを切り替え、第一研究室に向かう。

「入るよー」

 ノックして入ると、研究真っ最中だったらしい研究員のうち、一番出入り口に近い位置の人が立ち上がろうとする。

「あー。用があるのはここの室長だから。君は研究に集中してて」

「分かりました」

 彼が座ったのを横目に見つつ、研究室の手前側の左手端にいるであろう人物を目指す。

「おう! 所長!」

 むさ苦しい、というか暑苦しい挨拶に何だか嬉しくなりつつ、用件を言う。

「ええ。色々聞きたいことがあるんだけど、今いい?」

「いいぞ?」

 第一研究室室長を連れて、私の部屋に移動していると、彼はこう言った。

「ん? 研究の助言とかじゃねえのか?」

「どっちかって言うと、進捗状況の確認かな?」

「なら、いつもみたいに秘書にでも呼ばせりゃいいだろ?」

「彼は近場の村に行ってるよ」

 自分でも、少し声が固かったことが分かる。

「ふうん」

 それを追求して来ない第一研究室室長はありがたい。これが第四研究室室長あたりなら突っ込まれていたかも。

「となると、籾殻発電機か」

「ええ」

「完成すりゃあ、それもシャムに売り込めるな。そしたらまた研究費が増える!」

 また、と言うのは、ユーグレナ・フルータスの中東諸国への売り込みに既に成功して、多額の資金を得ることが出来たからだ。政府からの資金はかなり切られたけれど、切られた以上のお金が得られたから、プラスだと思う。

「だねえ。シャムとかの東南アジアは、年に二回稲を収穫してるみたいだから、籾殻発電機も年中動かせるだろうし、間違いなく売れるよ」

「第三の連中には気張って貰わないとな」

「だね」

 そうこうしている内に、私の部屋に着いた。

 私自身は執務机の椅子に座り、第一研究室室長は置いてある丸椅子を執務机の傍まで動かして勧める。

「で、聞きたいのは、木酢液の件だよ」

 早速とばかりに尋ねると、第一研究室室長は頷いた。

「木酢液、って言うと、『均質化触媒』と『高品質化触媒』のことか」

「そうそう」

 木炭製造の副産物である木酢液は、肥料や農薬として使うことが出来る。出来るけれど、原料が木という天然のものなせいで、その質が安定しない。第一研究室には、培養ディーゼルの諸々の研究の傍ら、木酢液の質を安定化させる研究をお願いしていたのだ。

 第一研究室室長は、何でもない、と言った軽い雰囲気で報告した。

「『均質化』の方は、土壌改良、施肥、殺菌、殺虫、が完了。『高品質化』は土壌改良、施肥、殺菌が完了して、殺虫があと少しだな」

「……ねえ? それ、ほとんど研究終わってない?」

 まだ頼んでから一カ月かかってない筈なんだけれど。研究進み過ぎじゃないかな?

 驚いていると、第一研究室室長は肩をすくめた。

「所長が触媒の候補を絞り込んでたからな。正直、木タールの整腸と虫下しの方も終わらせときたかった位だ」

「それでも、十分早いと思うけど?」

 私という反則技があっても、この早さは凄い。財閥から選ばれてきた人材なだけはあるよ。

「そうか?」

「そうなの。じゃあ、殺虫の『高品質化』が終われば、内務省と農林省、外務省に報告入れよっか。そのつもりで報告書の原案、用意しといて?」

「分かった」

 第一研究室室長は同意した。

「しかし、外務省、ってことは、シャムにでも売り込むのか?」

「だね」

 私は頷いて返す。

「ついでに、イギリス、オランダ、アメリカ、フランス、ブラジル、辺りは確定で。出来ればリベリアとエチオピアにも売り込みたいね」

「シャム、ブラジル、リベリア、エチオピアは木炭火力発電と共同での売り込みだな?」

「ご明察」

「で、イギリス、オランダ、アメリカ、フランスは林業規模からか。なら、ノルウェー、スウェーデン、フィンランドにも売り込めるんじゃないか?」

「そう?」

 私は首をかしげる。

「イギリスとオランダは植民地で使ってるけど、フランスもアメリカも、石炭があるから、あんまり木炭使ってないのよね。だから、フランスとアメリカは『売れたらいいな』位にしか考えてないの。その上北欧に売るのは、労力の無駄にならない?」

「そう言うのは多目に売り込んでおくもんだ」

「そうなの?」

「そうだ」

 そうらしい。

「じゃあ、そうするか。私の方でも色々調べてみるけど、一応君も売り文句になりそうなネタとか調べといて」

「任せとけ」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ