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超技術で史実をぶん殴る  作者: ネムノキ
最初から全力
12/70

番外編 困惑する合衆国

《1928年3月20日 ワシントンD.C. ホワイトハウス》


「どういうことだと思う?」

 第三十代アメリカ大統領のカルヴィン・クーリッジは、国務長官のフランク・ケロッグに尋ねた。

「我々としても、理解出来ません」

 国務長官は大統領に正直に答えた。

「製糖の高効率化とバガスペーパーにより得られた利益で、ドイツ製の中古のマザーマシンを購入したのは、彼の国の工業力がまだまだ貧弱な証拠でしょう。ですが、それにより作られた工業機械を投入して行っているのが、軍艦を丸裸にするなどと。全くの無駄です」

 それは、つい最近、日本が『災害救助隊』設立の題目の下、行っていることだ。この謎の行為を、合衆国の各機関はどう分析したものか、頭を悩ませていた。

「ジャップが軍縮を行うのは喜ばしいことだが、わざわざドイツからマザーマシンを買ってまですることか?」

 実際は、単に日本の工業力が貧弱過ぎて、新型ですらない工業機械の生産が追いついていないだけなのだが、大国たる合衆国にそれを理解しろというのは酷だろう。

「それを軍縮と言えるのかも、微妙ですがね」

「装甲と砲を降ろしただけだからな」

 実際、日本帝国海軍からすれば、『軍縮している』というパフォーマンスのための行為なので、国務長官の反応は正しい。だが、帝国海軍以外の動きが、それを欺瞞していた。

「だが、災害救助隊とやらは陸軍に警察、消防からも人員と予算が出ている」

 これは、日本帝国陸軍が予備の重機を確保するための行為と、お題目の筋を通すために日本帝国陸海軍が行った政治工作が見事に噛み合った結果であり、これを額面通りに受け取ると『日本は本気で災害救助専門の部隊を作ろうとしている』となる。なるが、福祉の概念の無いこの時代だと、そんな額面を信じる人間は存在しなかった。

「おまけに彼の国は、我が国に、税関監視艇部だけでなく、灯台局、航海局にも視察したい旨を伝えてきた」

 これが、事態をややこしくしていた。

 税関監視艇部は、実質的に海軍の一部だ。だが、灯台局や航海局は財務省や商務省の管轄であり、軍としての働きは無い。災害救助隊が日本帝国の陸海軍の下部組織ならば、その二局に視察団を派遣することは無駄であり、欺瞞工作と受け取れた。

 だが、災害救助隊に編入予定の艦は、装甲も砲も無く、スパイの報告を信用するのなら、搭載される武装は機関銃と放水器だけ。それでは、軍隊の下部組織としての働きは果たせない。

「軍人をプールしておく組織を作るにしても、無駄が多すぎます」

 国務長官も疑問符を浮かべる。

 日本の陸海軍としても、始めは災害救助隊は軍人を外部に確保しておくためだけの組織にするつもりだったのだ。だが、予備調査の段階で、過去日本を襲った災害や海賊行為を調べたところ『初動から軍を動かすよりも、専門の部隊を動かす方が安上がり』と判明したため、そこそこ本腰を入れて災害救助隊を作ることになったのだ。

 そういった経緯や、毎年地震や台風に襲われるという日本の風土を知らないアメリカ人からすれば、災害救助隊は謎の組織なのだ。

「……災害救助隊が軍隊の下部組織として」

 大統領は国務長官に尋ねる。

「それは脅威となり得るかね?」

「なり得ません」

 国務長官は即答する。

「災害救助隊が保有する予定の装備は、合衆国の脅威になり得ない貧弱なものです。仮に船を軍艦に改装するとしても、改装が終わるまで時間がかかりますし、それが完了するまでに彼の国の現行の海軍を撃滅することは容易です」

 その答えに、大統領は満足する。

「彼の国の陸海軍の予算は削られたようだしな。変に艦を造ることも出来ぬだろうし、気にすることはない、か」

「はい」

 大統領は満足して、この話題を終わらせた。

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