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超技術で史実をぶん殴る  作者: ネムノキ
最初から全力
11/70

軍縮(?)計画の提案

《千九百二十八年二月二十五日 東京》


「更なる軍縮、ですか?」

 研究の途中経過の報告に東京まで来たら、陸軍大臣と海軍大臣に共同で呼び出された。

「そうだな」

 陸軍大臣が困った表情で言う。

「この、大陸がきな臭い時期に軍縮なんてしたくないのだが。税収から考えると、軍縮せざるを得ないのだよなあ……」

「アメリカを仮想敵国とせずとも、守るべき領海が広すぎて現状でも国土を守り切れないのだがな……」

 海軍大臣が続く。

「大陸は匪賊や軍閥でしっちゃかめっちゃかなのに、国民党が更に滅茶苦茶してますし。先の大戦でドイツから分捕って、島も領海も増えましたしねえ」

 そう言うと、二人は苦笑した。

「貴君のお陰でマシになりつつあるとはいえ、我が国は大陸の資源が無ければやっていけない以上、陸軍としては人員を減らしたくないのだがなあ」

「南洋諸島の砂糖や安価な紙は我が国の貴重な外貨獲得手段であり、又果物や漁獲物は国民の食を満たす為に必要な以上、艦を減らす軍縮はしたくないのが海軍の本音だ」

 この問題は、結局、日本本国の資源生産量が、需要を全く満たせていないことが原因だ。

(難しいなあ)

 これを、技術だけで解決するのは困難だ。

「技術で今すぐ解決するのは厳しいですね」

 そう前置きした上で、続ける。

「ですが、手はあります」

 二人は顔をほころばせる。まず私は、陸軍大臣の方を向く。

「陸軍が軍縮出来ないのは、我が国の大陸利権を守る必要があるからです。なら、我が国だけで守らなくとも良い状況にすれば良い」

 そう言うと、陸軍大臣は怒声を上げる。

「つまり、欧州列強に大陸利権を明け渡せと!?」

 私は苦笑しつつ、冷静に返す。

「明け渡すのはやり過ぎですね。精々、利権に噛ませる、位が妥当でしょうか?」

 少しだけ頭を冷やした様子の陸軍大臣は、「続けろ」と低い声で言った。

「分かりました。例えば、鉱山。株式の三割位を例えばイギリスに渡せば、イギリスは嫌でもその鉱山を守る必要に駆られます。例えば、鉄道。アメリカと共同運営にすれば、強欲なあの国のことですから、勝手に鉄道とその周辺を守ってくれるでしょう」

「……だが、地政学的に、どうしても初動は我が国が動く必要があるぞ?」

 陸軍大臣は完全に頭が冷えたようで、真剣に私の提案を考えてくれているみたいだ。

「その通りですが、追加で派兵する兵力はイギリスやアメリカにある程度任せることが出来るようになります。それに、彼らが追加派兵を断れば、それを外交的な交渉手段に出来ますから、日本政府から予算を獲得するのも簡単に出来るでしょう」

「……中々あくどい手だな」

「お褒め頂きありがとうございます」

 そう返すと、陸軍大臣は変な顔をした。

 続いて私は、海軍大臣の方を向く。

「海軍は、思い切って艦を減らしましょう」

「は?」

 呆気に取られた様子の海軍大臣に、私は間を空けずに言う。

「海軍の外に、海難救助や領海内側の警備専門の部隊を作り、そこに艦と人員を移すのです」

「……つまり、現在海軍の行っている領海警備の負担を、そこに押し付ける訳か」

「半分は正解です」

 私はニンマリと笑い、この案の肝を言う。

「さて、この『海上警備隊』ですが、開設していきなり船がある訳もありません。そこで、武装を降ろした艦とその人員を流用するのです」

「……武装を降ろしただけの船ならば、改装すれば軍艦に戻せるな」

「その通りですが、砲や装甲の無い船は軍艦とは言えません」

 言葉遊びみたいなものだけれど、政治的には通用する言い訳だ。

「そして、海上警備隊が必要とする装備や船がどのようなものなのか、判明するまでは下手に船を作ることも出来ないので、海軍の『お下がり』を使い続ける必要があります」

「だが、海上警備は兎も角として、海難救助の技能の蓄積なぞ、我が国には、否、世界にはほとんど存在しない。十分に蓄積されるまで、十年はかかるぞ?」

「つまり、十年は軍艦の予備を確保出来る訳です」

「……あくどいな」

「お褒め頂きありがとうございます」

 海軍大臣も、変な表情をした。

「手っ取り早い手段で思い付くのは、これ位ですかね」

 そうまとめると、二人は黙り込んだ。

(ちょっと政治的過ぎるなあ)

 研究者的には、反省すべきだ。そう反省していると、海軍大臣が口を開いた。

「……海上警備隊は有用だな。持ち帰って、本格的に議論しよう」

 意見が通ったことに安堵していると、陸軍大臣が思わぬ発言をした。

「それなら、陸軍も乗ろう」

 どういうことか、と海軍大臣と首をかしげていると、陸軍大臣はノリノリで提案する。

「臣民を災害等から守るのに、海上だけでは不十分だろう? 陸軍からも、災害救助専門の部署を分けて、出来れば海上警備隊と共同の部隊として設立したい。災害救助となれば、重機は必須だろうからな」

 理解出来た。この災害救助部隊の重機は、必要となれば陸軍に安価で売却するなり譲渡するなり出来る。陸軍の予算では足りないであろう重機を、この部隊に購入させる気だ。

 それは海軍大臣も気付いたみたいで。

「それは良いな! どうせなら、遭難者の捜索にも使えるであろうし、航空機も幾らか警備隊に用意させようか! となると、水上機母艦も警備隊に譲渡する必要があるな!」

「我々の本気を知らしめたいのなら、警視庁や地方警察も抱き込むべきであろう」

「それでは足りんな。消防署も巻き込もう」

「とすると、我々から出すべき予算は……」

「人員と装備は……」

 わいのわいの盛り上がる二人に、私はほっとした。

 どんな理由からであれ、これで、災害救助専門の組織が出来る。この災害の多い日本では、絶対必要な組織だ。これで、災害の被害も防げるだろう。

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