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超技術で史実をぶん殴る  作者: ネムノキ
最初から全力
10/70

予定外の研究、開始

《千九百二十八年二月十四日 信州研究所》


「ヒャッハー!」

 第四研究室の室長が奇声を上げて、私の部屋から出て行った。

(その若さ、分けて欲しいよ)

 いや、今は十三歳の子供だった、と苦笑していると。

「……何があったのですか?」

 第三研究室室長が書類片手に入ってきた。

「ん? 第四の室長?」

「はい」

「ゴム関連の研究について、シャムから融資を分捕ってきたんだけど、そのこと伝えたらああなった」

「なるほど」

 第三研究室室長も苦笑した。

「で、私のところに来た、ってことは、何か進展があったの?」

「はい」

 第三研究室室長は、持っていた書類を私に寄越す。

「詳しくはそこに書いてありますが、廃熱回収ボイラー関連の研究がひと段落付きました。次は、実際の発電所や船で実験する段階です」

「そこから先は各財閥と海軍にほぼ任せられるね。予定より早いし、よく頑張ったよ」

 褒めると、「そこは工夫しまして」と第三研究室室長は自慢げに話し始める。

「蒸気機関車の効率化が一番簡単そうだったので、まずはそれの出来ることを終わらせてから、残りに取りかかったのです」

「なるほど。それだけ他のとは異質だったからね」

 蒸気機関車の効率化は、自動給炭機の開発と吸気を排気で暖める装置の導入が主で、壁となっていたのは高温に耐えうる金属の開発だったのだ。

「蒸気機関車のボイラーの開発は財閥に投げることで解決し、後顧の憂い無く廃熱回収ボイラーの開発に取り組めたお陰で、ここまで速く研究を進めることが出来ました」

 『集中と選択』。前世よくやっていたゲームでは必須の戦略だったけれど、それは現実にも通用するみたいだ。

「その蒸気機関車のボイラーも完成して実用試験中だしね」

「はい。お陰で新規の予算も確保出来まして。余力もありますし、新しい研究に移れます」

「ほほう? ボイラーの効率化と脱硫装置の高効率化と同時並行で出来るの?」

 ニコニコしている第三研究室室長に尋ねると、予想外の答えが。

「はい。『籾殻発電所』を作ろうかと」

「……はい?」

 聞き返してしまった私は悪くない。

「試作止まりで終わったおが屑発電所の技術を応用して、籾殻発電所を作ろうと思うのです」

「……ごめん。確かに出来るだろうけど、何でそれを研究しようと思ったの?」

 尋ねると、第三研究室室長は真面目な表情になって説明を始める。

「それはですね。現在、籾殻の使い道はくん炭に加工して土壌改良材として用いるか、そのまま田畑にすき込んで肥料にするかに限られています」

「くん炭に加工するのは手間だから、そのままか燃やすかしてすき込んでるのが多いみたいね」

「その通りです。ですが、そのまま田畑に混ぜたところで、籾殻の肥料としての効果はほとんどありません。むしろ、場合によっては、稲の成長を阻害するようです」

「阻害するのは知らなかったなあ」

 良く調べているなあ、と感心する。財閥が代表として送り込んでくるだけのことはあるよ。

「そんな、使い道の無い籾殻を燃料とした小規模発電所を農村部に建設することで、送電ロスを減らすと同時に、総発電量を増やすことで、工業地帯に送ることの出来る電気を増やそうかと」

 考えた割に穴ぼこな計画だなあ、と内心苦笑しつつ、欠点を指摘する。

「今ざっと計算してみたけど、農村部で年中発電出来る程、籾殻は発生しないよ?」

「……確かにそれは否定しません。ですが、この計画の肝はそこでは無いのです!」

 声高らかに、第三研究室室長は言う。この人こんなキャラだったっけ?

「現在、我が国では、石油や天然ガスを原料とした窒素肥料の増産に着手しています」

「この間財閥と一緒に提案したら、すんなり通ったやつね」

 新潟の培養ディーゼル生産所の近くでも、真新しい窒素肥料合成工場があった。

「また、ポリエチレンを始めとした合成樹脂や化学繊維の生産技術も、かなり進歩しています」

「だね」

 その『カンニングペーパー』を渡したのは私だけれど。

「窒素肥料が普及した場合、肥料としての稲藁の消費は減ります。そして、化学繊維が普及すれば、縄として消費される稲藁も減るでしょう」

 話が見えてきた。

「つまり、籾殻発電所を建てて、稼働実積と情報を集めて、将来来るであろう『稲藁不要時代』に、稲藁を燃料にした発電所に繋げるのね?」

「ご明察です!」

 第三研究室室長は嬉しそうに頷いた。

「それに、計算したところによると、重量比で、籾殻一に対して稲藁二までなら、混ぜておくだけで、他に調整の必要もなく発電機の燃料として使えますし、あらかじめ稲藁を籾殻程の大きさまで砕いておけば、幾らでも燃料として使えます」

「ふむ」

 考える。中々良さそうだ。付け加えるなら。

「廃熱回収ボイラーを動かせる程廃熱量はないだろうけれど、お湯を沸かす位の廃熱は回収出来るね。それで、お風呂でも隣接させたら便利じゃないかな?」

「その案貰います!」

 第三研究室室長は白衣のポケットから手帳を取り出し、書き込んだ。

 凄い喜んでいるみたいだけれど、問題がひとつ。

「……でも、稲藁を燃料として使えるようになっても、やっぱり年中発電は無理だよ」

「それでも、農村部の負担を減らすことは出来ます」

 第三研究室室長の目は、使命感に溢れていた。私はため息をつき、助言する。

「……なら、第四研究室と協力して研究するといいよ? 彼女達、最近まで稲藁とか籾殻を燃やして出た灰をセメント原料にする研究してたから。年中発電は無理でも、発電して出た灰が売れるとなれば、農村の負担はもっと減るんじゃないかな?」

 第三研究室室長は顔をほころばせた。

「助言ありがとうございます! 早速、話し合ってきます!」

 そう言って、第三研究室室長は私の部屋から出て行った。

「……さて、資料作るかあ」

 籾殻発電所なんて、計画に無かった。一応、政府や財閥に提案を出してみて、更なる研究資金を分捕れないか、探りを入れる準備をしておこう。

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