最初からクライマックス
注意!
この作品に出てくるテクノロジーは、研究段階のものや机上の空論なものが多々あります!
それが嫌な人は読まないでください!
《西暦千九百二十七年(昭和二年) 八月一日 信州某所》
「まさか!?」
この場に集まった男達の驚愕する顔に嬉しくなる。そして、用意していた言葉を告げる。
「いいえ、これは現実です」
ぽかん、と思考の止まった表情が並ぶ。
(マズったなあ)
どうやら、刺激が強すぎたらしい。
しばらく黙って待っていると、唖然とした表情を浮かべるお歴々の中の男の一人が、頭をかいて再起動した。確か、海軍大臣の人だったっけ?
「済まない。初めから、この装置について説明して頂けないだろうか? 出来れば、先程よりも簡潔に」
「分かりました」
ひと息置いて、私は説明を始める。
「この培養槽では、私の発見した細菌である、ユーグレナ・オイリーが培養されています。そして、このE.オイリーに、十分な日光と炭酸ガスを与え、摂氏十五度から三十二度までの水温で維持すると、E.オイリーは活発に光合成を行い、増殖すると同時に、余分に生産した栄養分を油分として、その体内から排出します。その油分の組成が、」
「ディーゼルと酷似している訳だな?」
私の言葉を奪った海軍大臣に「おっしゃる通りです」と頭を下げる。
「我が国では、石油がほとんど採掘されません。ですが、この技術があれば、炭酸ガスと日光を用意するだけで、ディーゼル限定とはいえ生産することが可能となります」
ここで、私は頭を下げる。
「どうか、この技術に。出来れば私に投資して頂けませんか?」
沈黙が広がる。
(しくじったかなあ?)
不安が心を埋めようとする。これで駄目なら、次の手を考えないといけない。そう頭を動かそうとした時、「しかしなあ」と間延びした声がした。
「そもそも、君は、えーっと。何歳かね?」
「十二歳です」
頭を上げて答える。尋ねてきたのは、大蔵大臣だ。
「そうそう、十二歳だ。まだ女児小学校に通っている年齢ではないか。そんな子供に投資しろ、と言われても。怪しくて出来んよ」
やっぱり、年齢が足を引っ張るか。内心歯噛みしつつ、反論する。
「しかし、これは確かに私が成し遂げたことです」
「だがなあ」
「良いではないか」
陸軍大臣が渋る大蔵大臣に言った。
「これが事実なら、我が国は楽になり、ついでに優秀な研究者を得られる。嘘ならば、愚かな子供がひとりいなくなるだけだ」
その鋭い眼光に私は肩をすくめる。
「陸軍としては、この技術が本物か確かめた後、この研究に投資したい」
するとすぐさま、海軍大臣が言った。
「海軍としては、この子がやっているであろう他の研究を見ないことには判断がつかない」
かかった! 内心歓喜しつつ、答える。
「まだまだ途上の研究ですが、見ますか?」
頷いた一同を、私は別の研究室に案内する。
「こちらでは、ボタ石から金属を抽出する研究を行っています」
ガラス製の水槽の中には、中央に山積みになった石ころがあり、両端に鈍色に光る何かがあった。
「ですが、先程のオイリーの研究で手一杯でして……。現状では、採算が取れるところまで開発出来ていません」
「つまり、人手と予算があれば、出来るのだな?」
「はい」
海軍大臣の言葉に強く頷く。しばらく視線を交わすと、海軍大臣は強く言い放った。
「海軍としては! この子に投資することに賛成である!」
嬉しさに頬が緩む。
「励め。そして我が国を救ってくれ」
「命に代えましても」
私は、頭を下げた。
この、陸軍大臣と海軍大臣の言葉のお陰で、私は、大日本帝国から多額の研究資金を得ることに成功した。