異常
「はぁ…。で、兄ちゃんにはもうひとつ聞きたいことがあるんだが…」
「なんだ?」
「あそこの嬢ちゃんはお前さんの、その、子供…なのか?」
「ああ、一応な」
「一応って、どういうことだよ?」
「あー、う~んとだな。実はあいつ、人じゃないんだ」
俺が龍人だって言ったんだから、グリスが龍だって言うのはあんまり変わらんだろ。うん。
「はぁ?人じゃないって?どう見たって人族の子供じゃないか。まあ、白髪ではあるみたいだけど」
「まあ、な。あいつは龍なんだ。卵から生まれた」
「りゅ、龍だって?!あ……大丈夫なのか?」
「ふふ、ああ。大丈夫だよ。あいつは人に害をなすモンスターじゃない」
「そうか。まあそうだよな。兄ちゃんの子供だもんな」
「どういう意味だ?おっちゃん」
「ん?いや、あんなにはしゃいでるし、兄ちゃんはいいやつだからな」
グリスは甲板から顔を出して、下に広がる景色を眺めてはしゃいでいる。行きは俺が心配だったのかずっとそばにいたからな。
「いいやつって、どこからその評価が出てきたんだ?」
「さっきのやつだよ」
「はあ?あんなのでか?」
「おうとも!いやぁ、少しは強くなってるようで嬉しかったぜ?」
「自分でわからないのか?」
「ああ。一年は自分のステータスを見ないようにって決めたんだ。今は修行中さ」
「一年、か」
「まあ、あと一ヶ月ぐらいなんだけどな?」
一ヶ月か。すぐだな。
「簡単な数値が見れないから実際にどれくらい強くなったかわからないんだよ。自分の実力は、一気に跳ね上がらない限り違和感なんて感じないからな」
「…そういうものか?」
「おう」
そうか。まあそうだよな。俺が異常なだけだ。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「…ん?」
他愛のない話を続けていると、変な感じがした。
「どうした兄ちゃん?」
「いや、あんまり覚えてないけど、リンリルに行く時って、こんなところ通ったっけ?」
「……そういや、見覚えがない所飛んでるな」
何回もリンリルに行ってるはずのおっちゃんが知らない場所。何かおかしい。それに風の中に不快な魔力が混じってる。なんだ?
「ちょっと操舵室に行ってくる。何か嫌な予感がする」
「わかった。グリス!こっちこい!」
「…なんだ?どうかしたのか?」
「なんかヤバイのか?」
「わからない。けど、固まってた方がいい気がする」
……さっきより不快な魔力が強くなってる。
船の先には山脈が見える。
「流されてる?」
何かの気流に引っ掛かったのか?それに、たぶん誰かが作った気流だ。
「おい兄ちゃん!今から下に飛び降りるぞ!」
「操舵室は?!」
「もぬけの殻だ!だけど、妙な塵だけが残ってやがった!とにかくあの山に入るより早くここから逃げるぞ!」
「無事に下に降りられる手段は!?」
「んなもんねえよ!けどなぁ、あの山に行くよりかは全然ましなんだよ!」
「…っ、わかった。グリス、俺に捕まっとけよ」
「がう」
おし、行くか!
「おっちゃん!」
「わかってるよ!」
おっちゃんが甲板に置いていた荷物をもって駆けてくる。おっちゃんが外に飛び出した瞬間に俺も外へ出る。下は広葉樹の森だ。
……そういやなんか、落ちること多くないか?俺。
「うぉぉおおぉぉぉおおぉ!!???」
「がぁぁぁああぁ!!?」
「グリス、落ち着け。おっちゃんもだ!とりあえずこっちこい!」
あと、数秒で地面に激突する。残念なことに近くに木はない。俺とくっついてるグリスはノーダメージでもおっちゃんはダメージを受けるはず、落方悪かったら即死だな?
「お、おお、わ、わかったぁ!」
「おし、捕まれ!」
おっちゃんとグリスを抱き寄せて、背中を地面に向けて落ちる。
━━━ヒュゥゥゥゥ、ズドンッ!!
「………、なんとか、なった…のか?」
「が、がうぅぅ……よかったぁ…」
俺はよくない。ダメージ無くても衝撃来るの忘れてた。めっっっちゃビリビリする。しばらく動けないなこりゃ。
「だ、大丈夫か?兄ちゃん?俺らの下敷きになっただろ?!」
「あ、ああ。大丈夫だよ。ダメージはない。けど、しばらくは動けない。身体中痺れて、やばい」
「…それ大丈夫って言うのか?」
「がう!おっちゃん!」
「ん?って、マジか」
なんだ?…ああ、モンスターがよってきたのか。でも、何か落ちてきたのに逃げないとは。
「兄ちゃんはそこでじっとしといてくれ。俺と嬢ちゃんでやるよ」
「がう!」
やる気満々なのはいいんだけど、大丈夫なんだろうか?どっちも相手の戦い方知らないのに二人で一緒に戦えるかな?まあ……、
「気を付けろよ」
「「おう!」」
◆◇◆◇◆◇◆◇◆
鬱蒼と茂る木々の間、ポッカリと開けた、日の当たりがいい広場にその場に似合わない大きなクレーターができていた。
クレーターの中心には一人の人物が倒れており、近くには人が二人、双頭二対の腕を持つ熊のモンスター、ツインベアーと対峙していた。
「「グルルル、グガアアアア!!」」
ツインベアーは突然自身の縄張りに現れた者を警戒していた。
「嬢ちゃん、まずは俺が行くから、俺に注意が向いた後に来てくれ」
「ん、わかった」
深い緑髪の青年と白髪の少女がそれぞれの得物を手に言葉を交わす。
青年が長剣を持ちツインベアーに迫る、それに合わせツインベアーも攻撃体制に入る。
「「グルルアアア!!」」
青年を威嚇しながら右の二腕を振り上げ、目前に来た青年に振るう。青年はそれを軽々とかわし、振りきった腕を切り抜ける。
そのまま背後に回り込み、背中に幾つもの斬撃を放つ。
「「グルアアア!?」」
背後からの痛みに驚き、右腕の痛みも忘れ、振り向きながら横凪ぎに腕を振るうツインベアー。その瞬間、また背後から攻撃を受ける。少女が槍で攻撃したのだ。
そこからは一方的だった。
ツインベアーが少女を攻撃すると青年の攻撃でそれを阻止され、青年を攻撃するとカウンターと少女の攻撃を受ける。
そしてついには青年と少女の連携を崩せず、ツインベアーは力尽きた。
ツインベアーは決して弱いモンスターではない。その体躯は三メートル近くあり、双頭により広い視野を持ち、二対の腕で多数を圧倒できる。下位竜程度なら余裕をもって勝てるのだ。
二人の、主に青年の実力は相当の物だろう。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「「グルアアア………」」
おっちゃんとグリスが二つの頭と、左右二対の腕を持つ熊のモンスターを無事に殺した。
「お疲れ」
「ん、兄ちゃん。もう動いてもいいのか?」
「ああ。実は途中から動けたけど、大丈夫そうだったからな」
「グレス!この熊美味いかな?!」
「…どうだろうな」
お前は……、なにかと食い物に繋げるな…。
「ツインベアーは美味い方だぞ?なんなら少し食うか?」
「解体できるのか?」
「おう。まあ毛皮はズタズタだから売り物にならんかなぁ」
肉食えるだけいい方では?俺の場合消し飛んで肉すら残らないんだが?……手加減の方法、どうにかしないとなぁ。
「肉!肉!」
「はいはい。兄ちゃん、火ぃ起こしといてくれないか?」
「わかった」
「オレもなんかやるぞ!」
「じゃあ嬢ちゃんは俺の手伝いだな。いいよな、兄ちゃん?」
「ああ。この際だから解体の仕方を教えてやってくれ」
「わかった」
さて、乾いた枝を拾って、と。
「『ファイアーシード』」
出来た。これを集めた枝の中に入れて、完成。魔法便利すぎる。
「んー、あったかい…」
そういえば、あの山はヤバイっておっちゃん言ってたな。何がヤバイんだろう?変な気流はあの山に向かってたけど、船ももう見えない位置に行っちゃったな。クレーターに倒れてた時は上の方に見えてたのに。
「兄ちゃん火は着いたか、ってもうできてんのか」
「解体は終わったのか?」
熊の死体は消えている。アイテムボックスに入れたのかな?
「うんにゃ、まだだ。けど一番美味い所はやったからもう食っちまおうかと思ってな。……嬢ちゃんが生でも食いそうな勢いだったからな」
「それは…、なんかごめん」
「いいって、さ。焼こうか」
「そのまま焼くのか?」
「塩があるからそれふって食えばいいだろ」
「ああ、そうなのか」
肉は、おっちゃんが出した金網の上に置かれ、ほどよい具合に焼かれた後、塩をふり三等分に切り分けて、これまたおっちゃんが取り出した箸でいただいた。美味かった。
「おっちゃん、これどこで手に入れたんだ?」
「ん、箸か?箸は北東の端にある島国のヤマトって所だな。魚が美味いんだあそこは」
「へぇ…」
日本だね。それ。
「魚!」
「あーハイハイ。いつかね」
「やった!」
さっき肉食ったばっかなのになぁ…。
「あ、そうだ。おっちゃん」
「ん?まだなんかあんのか?」
「あの山って、何がそんなにヤバイんだ?」
「知らないのか。あそこはパリドスで一番危険な“神造ダンジョン”の一部だよ」
「神造ダンジョン?」
しかも、一部?
「ああ。んー、と。普通のダンジョンは迷宮神っつう神様が創造、管理をしてるんだが、神造ダンジョンはそれぞれ迷宮神じゃない別の神様が、創造、管理してるんだ。あの山は生神と死神の双子神のダンジョンさ世界で一番危険な場所って言われてる」
「そんなにすごい所なのか…」
「あそこに入って出てきたやつを俺は知らない。だから、絶対にあそこには行きたくなかったんだ」
なるほど。あの山はそんなか。あそこにいるモンスターって強いんかな?
「兄ちゃん。死んでも行きたいとか言わんでくれよ?俺は絶対に行かないからな?まだ彼女も出来てないんだぞ?」
「嘘だろ?おっちゃんを好きなやつなら普通にいるんじゃないか?」
「いやいやないない。変に距離が近いやつはいるけど、好きとかないない」
「あー…」
駄目なやつだ。これ。頑張れおっちゃんを好きになった人。
簡単に帰す訳無いよなぁ?
あ、誤字脱字があった場合報告してくれると助かります。では。




