誕生と変なやつ
「あ、そうだ。これは聞いておかないと」
「なんじゃ?」
「これ、何の卵なんですか?」
「……わからん」
「え?」
「わからんのじゃよ。何もの」
「……」
鑑定。
純白の卵
その内に眠るは遥かなる智か、それとも遥かなる力か。
或は、ありふれた勇気か。
与えられた力によりそのカタチを変える。
なんだこれ?
「今までこいつに興味を示した奴は誰もおらんかったんじゃ。こいつはの、何十年もずぅっと一人だったんじゃよ。だからの、そんな細かいことは気にせんで、孵してやってほしいんじゃ」
「…呼んだのはこいつです。嫌でも生まれさせますよ」
「そうか。よろしくの」
「はい」
卵に触れ、魔力を流し込む。とりあえずどんくらい流せばいいかわからないから全部流す。これでダメなら周りの魔力も流してやろう。
魔力を流し終えて少しして、卵は割れた。中から出てきたのは白い龍だった。
「ガァア!」
「マジか……」
「な、なんと?!こやつはリュウではないか!まさか、こんなとんでもないやつが生まれて来るとは…」
「おお、見ろコクト。お友達だぞー」
「プゥ?」
まさか龍が生まれて来るとは…、いやまあ、俺の魔力なら納得だけどさ。でも、いきなり龍が来るとは思わなかったぞ。
「おい、グレス。名前は?」
「名前……」
考えてなかった。こいつはオスか、メスか…。
「お前どっちだ?」
「リュウに性別はないぞ」
「え、そうなんですか?」
「うむ」
でも、う~ん。名前、名前か~。
「ガッ!(メシッ!)」
「は?お前今なんつった?」
「ガァア!(メシくれ!)」
「おまっ……はぁ、ローレン、何か食べ物はありませんか?」
「む?ちょっと待っとれ」
「適当にでいいですから」
「ガァガァ!(早くしろ!)」
「お前なぁ……」
名前、後にしよう。
「なあ、そいつの言ってることがわかるのか?」
「ああ、まあな。あ、コクトが言ってることはわからないからな?変な期待すんなよ?」
「おぉう、そうか…」
「キュ」
たぶん赤ん坊だからちゃんとした言葉を持ってないだけだと思うけど。でもこっちの白いのは変に知識があるみたいだ。説明にあった智とかいうやつの影響かな?
「持ってきたぞい。ほれ、この肉じゃ」
「ありがとうございます。ほら、これ食え」
「ァガア!(メシだ!)」
「……」
そこそこ大きい肉だったのに一瞬でたいらげやがった。
「ゲッ…プ」
「おい……」
「ハハハハハ!面白いやつじゃなあ、して、名前は決まったかの?名前は大切じゃぞ?親が子に贈る最初のプレゼントじゃからの」
「うっ…」
そんなこと言われると適当につけられないじゃないか。う~ん、白、龍、智、………バカ食い、ん~、ん~………、俺、の子…、しりゅ、ぐ?…さしすせそ、ぐりす?これじゃ男みたいだし、えぇ、えっとぉ…、ゼロ?ん?なんで出てきた?……んがぁ!グリスだ!グリス・ハーフで決定!
「お前はグリスだグリス・ハーフ。いいな」
「ガァガァ!(わかった!)」
「ハーフ?」
「グリスかぁ、男の子みたいだな」
「プゥプゥ」
「ガガ(よろしくな黒いの)」
「プップッ」
「ガァ?(ん?)」
「黒いのじゃなくてコクトな」
「ガァ(ごめん)」
「プップッ」
さて、と。そろそろ帰るか。帰る前にこいつのために食べ物を買っておこう。
「ローレン」
「なんじゃ?」
「そろそろ帰ります。なのでこいつ用の食べ物を一いや二週間ぶん購入したいんですけど」
「なんじゃもう帰るのか。まあええか。ちと待っとれ。仮面のも買っていくんじゃろ?」
「あ、お願いします!」
「うむ」
あ、そうだ。こいつ鑑定でみてみるか。
名前 グリス・ハーフ
種族:幼龍Lv1
HP100 MP100
筋力20 防御力20
俊敏10 知力20
運5
スキル
《言語理解》《魔力感知Lv1》
種族スキル
《龍眼》《飛翔Lv1》
特殊スキル
《力》《智》《勇気》
称号
【幼龍】【祖龍の血筋】【龍神の加護】【三つのチカラ】
えぇぇぇ……、ゼロの子孫じゃねえか。嘘だろお前。それにこの特殊スキルって?
力
力。
遥かなる力。
智
智。
遥かなる智。
勇気
勇気。
ありふれた勇気。
……わかんねぇ。ステータスに影響を与えるスキルなのか?う~ん……。ま、いいや。これから一緒に過ごすんだからおいおいわかっていくだろ。
「持ってきたぞいっと、お?どうかしたのか?白髪の」
「いえ、別に。それでこれらはいくらですか?」
ローレンが持ってきたのは大量の干し肉と野菜らしき草だ。肉の方がこっちのだろう。これだけの量だから結構高そう。
「そうじゃな…、別にタダでもええんじゃが、それでは納得せんのじゃろ?では、こんくらいかの」
そう言って指を一本立てるローレン。
「なるほど一万ですか」
「違う違う。千じゃ千、仮面のと合わせて一千でええわい」
「え!そんなわけないじゃないですか」
「いいんじゃよ。卵はずっと譲っとるし、あんまり人がこんから楽しかったのもある。わしからの気持ちじゃの、うん」
「で、でも」
「じゃあ、卵のぶんも払うかの?どちらも高いぞ?ん?」
「う……」
「いくら位なんすか?」
「ヴォーパルラビットは五百万、白い卵は判断つかんが龍が生まれたとなると、億は軽く越えるの。まあ、売った場合の値段だがの」
「へぇー、どうすんの?グレス」
「千で……」
「じゃあはい。半分の五百」
「おう…。ローレン、これ」
「毎度ありじゃ。また来るとはいい。歓迎するぞ」
「今度友達連れて来るよじいさん」
「また来ます」
「うむ」
結局安い方で払ってしまった。まあ、お金ないし……。
「行くぞ~コクト~」
「プゥー」
「お前も行くぞ」
「ガウ(おけ)」
はぁ、こいつは。本当に生まれたばかりなのか?可愛げがないなぁ。
「お前飛べるか?」
「ガウガア(飛べるぞ)」
「じゃあ、飛んでついてこい。コクトみたいに抱かれて移動できると思うなよ」
「ガァ~ガァ~(えぇ~やだ~)」
そんなことを言って俺の頭の上に乗るんじゃねえ。
「はぁ……」
「いいじゃん、赤ちゃんなんだよ?」
「こいつは赤ん坊に思えねぇ」
「ガァ!(失礼な!)」
頭を叩くんじゃない。振り落とすぞおめえ。
「ほら、グリスもこう言ってるんだから。な?」
「はぁぁぁ」
……しょうがない、か。
「じゃ、ここで別れるか」
「え、まだ一緒にどっか行こうぜ」
「コクト抱えたまま戦えんのか」
「う…、戦うってことは外にでるのか?」
「ああ、こいつのレベル上げをしようかと」
とりあえずね。
「え~だったら一緒にやろうぜレベリング~」
「……行くぞ」
「あ、置いてくな!」
近くに手頃なレベルのモンスターはいるのかな?いなかったら、あそこに行こう。レベルは高いけどいい経験にはなるはずだ。
「初心者向けのモンスターなら西側にいるぞ」
「わかった。ならそっちに行こう」
手当たり次第に探そうかと思ってたから助かった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「聞いてなかったんだけど西にでるモンスターって?」
「ボアだな」
「肉か」
「肉って言うな」
俺たちは街の西側の平原にやって来た。ここにはボアがいるらしい。パット見は見当たらないけど、いるんだろう。そしてボアと言うことは肉が手に入る。そうすればこいつの食費も浮くだろう、たぶん。
「ガァガァガァ!(肉肉肉!)」
う~ん、この……。
「まあ、早く探すか。肉」
「肉じゃなくてボアだから」
「キュ?」
「怖がらなくても大丈夫だからな」
「キュ…」
ヴォーパルって言う位だからコクトは一撃で仕留めるアサシンキルとかできるようになるのかな?まあそこはリゾットの育て方次第か。
そこからしばらく進むと一匹のボアを見つけた。
「よし。行ってこいグリス」
「ガゥガァ!(やってやるぜ!)」
「まずは様子見。コクトは?」
「まだいい」
「そうか」
お、ボアがグリスに気づいたな。グリスに対して突進を繰り返すボア、それをひらひらと飛びながら避けるグリス。そしてボアが止まったところで、がぶっと噛んだり、爪で攻撃する。それが何回か続くとボアはキラキラ光って消滅した。
モンスターがモンスター倒すとあんな感じになるのか?それとも俺の仲間的なやつだから?……別に気にしなくていいか。
「ガァー!(どうだ!)」
すぐに戻ってきてそんなことを言う。
「遅い」
「ガッ?!(なっ?!)」
「もっと急所を狙え。避けた後にがら空きのわきを狙え。足を攻撃しろ。……お前ならできるだろ。一応龍なんだから」
「ガァガァ!(一応ってなんだ!)」
そこに反応すんのかよ。
「スパルタだねぇ。コクトは少しずつやっていこうね」
「プゥ」
いや、これぐらいやった方がいいだろ。足を攻撃すればもう突進できなくなるんだから、タコ殴りできるし……。まあ、この感じでやっていくかぁ。
誤字脱字があった場合報告してくれるとうれしいです。




