殻を背負う虫
さてさて、数時間ぶりといったところでしょうか。
初めの部分は多めに書かないと、皆様も興味を惹かれないと思いまして、
初回は早めに投稿させていただきました。
頁・一 骸殻
鉱山で息を切らす男と、土汚れにまみれた男が二人、そこには居た。
「で、どこに例の虫はいるんだ!?」
息を切らす男は白くひらひらとした鉱山には似つかわしくない白衣を振り乱しながら問う。
「まあ、そんなに焦ることはないさ、博士さんよお。
ちょっと深くまで踏み入りゃあ、ホイホイ出てきやがる。」
作業着を着た男は、茶化すように笑う。
「私は早くサンプル採取がしたいんだ!それと私の名前は日出だ!」
はいはい、と男は軽く流す。それにますます憤る博士だが、
すぐに合わせてやる、というと一先ず落ち着いたようだった。
「じゃあついて離れんなよぉ、ヒノデさんとやらよぉ」
男はそう言うとヘルメットを二つ取り、洞窟の中へと促した。
洞窟は暗く、二人が付けたヘルメットに付いているライトだけが頼りだ。
しびれを切らし、博士は大声で叫ぶ。
「おい、まだなのか!?かれこれ二十分は歩き続けたままだ!まさか迷ったんじゃあるまいな!
お前、道はしっかり把握しているのか!?」
「うるせえ博士さんだなぁ、どうせここらの事は俺らにしかわからねえんだから黙っててくれよ、
少なくとも博士さんよりかは詳しいからよ」
眉間にシワをきつく寄せながら答える。
「それにもう少しなんだ、あいつら音には敏感なんだから黙っててくれよ」
吐き捨てるように男が言うと、博士は小さく
わかった
と返し、口をつぐむ。黙れるなら最初からそうしてくれよ、と男は悪態をついた。
次第に、靴音と水音だけが響く洞窟に異音が混じり始める。
硬いものがぶつかり合う、そんな透明感のある音だ。
「この音は?」
「そろそろってことだよ。…そうだ、足場が急に狭くなるんだ、踏み外すんじゃねえぞ」
「あー、普通の道は無いのかね?」
「あったらとっくに通ってんだよ、察せよ」
博士は愕然と肩を落とす。
「出来るだけ安全に行きたいのだが…」
「それにはこっちも賛成だね、あいつらのおかげで足場の整備もすっかり捗らねえ」
「…待った。今、光るような物が見えた気がするんだが」
「殻が光を反射してるんだ。そら、どうだ。見えるか?」
おお、と博士が声を漏らす。
「話には聞いていたがこいつらがか!こいつらが『骸殻』か!」
博士は目を輝かせる。さながら玩具を手に入れた子供のように。
「あんまりはしゃぐなよ、博士さんよ」
「ああ、分かっている、分かっているとも!」
「だったらその踏み出してる片足を引っ込めるんだな」
博士の視線の先には、数個の鉱石―――――――に見える、
数匹の虫がいた。
煌びやかに身体に纏う金属が光を乱反射して辺りはミラーボールがあるかのように輝いている。
「おお、美しい…固く美しく、宝石のような金属の殻…ああ…」
博士は身悶えし、自らを歓喜の波に打ち震わせる。
喜びと好奇心に身を任せ、口からはつぶやきが漏れる。
「天道虫のようだ…頭部、腹部、脚部…とても良く『似ている』…
ああ、だが殻を作る昆虫というと…」
「おい、楽しんでるとこすまねえが、仕事を俺はサッサと済ませてえんだ、
そういうのは帰ってからにしてくんねえか?」
「あ、ああ…すまない…で、どうやって捕まえるんだ!?素手か!?器具か!?」
「そらあ、もう」
男は音一つ無く近付き、虫を両手で抱え込んだ。
「素手か!」
「正解だ」
よし、と博士も意気揚々と小石などを蹴り進みながら近付く。
しかし――――博士の方を向いていた虫の一匹が白く光沢のある液体をホースの用に噴出した。
「うぉっ!?」
驚き、博士は体制を崩し尻餅を付く。そのせいか、顔にかかるはずだった液体は博士の背後で水音をたてた。
男が豪快に笑い、「音たてっからだ、静かに行け、静かに」
「初めから言ってくれ!」
苛立った様子で博士は乱雑にその個体をひっつかんだ。
「こいつ、何かけようとしてたんだ?」
「さあねえ、お得意の科学力で研究してみたらいいんじゃねえか?」
それもそうだ、と博士は返す。
「じゃあ、お目当ての物も手に入ったし帰るぞ、ギャラは弾んでくんなきゃ困るぜ?」
「報酬の方は本部に要請を出しておこう。・・・ああ、そうだ」
「なんだい、博士さん」
「君と私とでは『ちょっと』の時間間隔は違うようだね」
「違えねえや」
骸殻
1.主な生態、使い道
平均体長:70~80㎝
平均体重:30~50㎏
平均寿命:2~3年
この虫は、骸殻という名前で鉱夫に親しまれているが、
同時に恐れられている。理由は後述。
この虫【以下、ムクロガラと呼称】は、主に鉱山のあらゆる所で目撃されている。
後ろの殻の部分が大きな特徴で、まるで骨の頭部のようだから骸、という
安易な名前付けをされている。
この殻は被っているかのようにも見えるが、
実際は甲殻の一部であるため、引っぺがしてしまうと、
内臓がそのままついてきてしまうため、死んでしまう。
この甲殻は金属カルシウムによく似たものでできており、なぜ金属カルシウムに似ているかの推測は
食事が関わっているとされているが、これも同様に後述する。
この甲殻の一部である【目】の部分と【歯】の部分は、
他同様にその金属で出来ているが、
【目】は薄赤い宝石のように透き通り、
【歯】は氷のように透明感があるため、
頑丈な素材として重宝されているようだ。
溶かしても透明感は失われないためか、
どちらも溶かして型に流しアクセサリーにしたり、
ガラスの代わりにして強度を増加させ、生態の実験観察の安全性を高めたり、
使い道が多く重宝されている。
なお、この甲殻以外の部分は前に見られていた虫とあまり変わらないようだが、
背負うためか強度などは段違いであり、
200㎏近くの圧力をかけないとヒビが入らなかった。
甲殻も強靭であったが、あまりにも弾性がなく
まるで石のようなことから、あまり使い道が無い様だ。
ムクロガラは、主に動物の死体を食べるが、その食事ぶりは見事なものであり、
基本的には骨すら残さずに食べる。基本的には、
表面がヤスリ状になっている歯で削るようにして骨を食べ、
肉は断ち切って細かくしてから食べるようだ。
たとえどれ程空腹の状態でも生きた動物は食べようとせず、
たとえ死んでいても骨がない軟体生物は食べようとしなかった。
しかし、生きた動物は食べようとはしないが、死んだ動物を作ろうとする習性がある。
ムクロガラは、足の繊毛と分泌する液により、どんな所でも這い回れる。
そのため、崖際など、危険な場所の上で待機し、獲物が下に来る時に落下する事で
『狩り』をしようとする。
基本的に固い金属部分を下にして落下するため、
場合によってはムクロガラはそのままディナーを始めるだろう。
また、急に物陰から飛び出し、『驚かせる』事で転落させようとしてくる。
が、これは『人間』が通った場合にのみしか行わないようだ。
このような行動から、鉱夫からは恐れられている。
基本的にムクロガラは食事の際完食する。
が、例外が1つある。
排卵の時だ。
ムクロガラが排卵するときは、
まず動物の死体を見つけるか、作ろうとする。
そうして、無事食事を済ませた時には、その動物の頭骨のみ残し、
その中へ排卵する。
ムクロガラは珍しく、少数しか卵を産まない。
強靭な甲殻と殻を持つことと、生存競争する相手も少ないからだろうか。
こうしてムクロガラが排卵した卵から幼虫が生まれる。
幼虫は不完全変態で生まれた時から親と同じ姿をしているが、
生まれたての頃は大きな殻は持っておらず、
本来殻があるべき所に薄い膜が張ってあり、
それで一時的に内臓を守っているようだ。
そして、生まれたムクロガラが頭骨を食べ終えると、
1か月ほどじっと動かなくなる。
その間に、薄い膜に作られている小さな穴から
分泌液を出し、それを徐々に固める事によって親同様に殻ができるようだ。
透明な部分の色はこの時点で様々に変わり、
現時点ではおよそ200色近くのパターンが見つけられている。
2.自衛の際
自らが危険に晒された場合、殻を作る際の分泌液を飛ばす。
皮膚に付いてしまった場合は1日以内に洗い流さないと、
皮膚の表面に金属カルシウムの膜が張られてしまい、
手術でないと引き剥がせなくなってしまう。
皮膚以外の目の中に入ってしまった場合、
失明したとの情報も入っているので十分に注意するように。
3.味
固い殻の中の肉質は案外柔らかく、『蟹』と同じようになっている。
火を通してしまうと石のように硬化してしまう性質を持っているので、
獲ったら生で食べるのが基本となっているようだ。
しかし、わざと固くしてそれを粉状にし、
味付けに使うこともできるらしい。
内臓は苦みが多く、とても食べられたものではない。
そこは『天道虫』とよく似ている。
4.実験記録
実験1-1
【知性の有無】
・実験内容
捕獲したムクロガラに餌付けをする。
餌を置く場所に円状のライトを当て、
その10分後に置く。その際に鈴を鳴らす
1日目
・特に変化なし。餌を置いた時点で反応
2日目
1日目同様。
・
・
・
10日目
・ライト部分に移動するように。
20日目
・ライトと鈴のタイミングを交換。
ライトにのみ反応
30日目
・どちらか片方のみでも反応するように。
実験結果
・少なくともいつ餌が来るか、ぐらいの内容は分かるらしい。
〈日出博士〉
頁・二 噴爪に続く
如何だったでしょうか。
生態などのまとめは、基本的には所謂『SCP』をリスペクトした形になっております。
ですが、こちらは生きるために利用するもの、という前提のもとに描いておりますので、若干SCPとは違うようになると思われますが、ご了承を。