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闇堕ちのエルフ  作者: 綾部 響
第二章 猛火、渦巻く
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エルフ郷 ―勝敗の刻―

シェキーナとラフィーネの戦いは、いよいよ終わりを見ようかと言う処まで来ている。

そして、シェキーナの最後の……渾身の攻撃が……始まる。

 シェキーナとラフィーネ……であったものの戦いは、正に最終局面に達している。

 互いに死力を尽くし、秘技と呼べる力を披露しているのだ。

 その結末が引き分けなどと言う生ぬるいものになる筈がなくまた、それはすぐ目の前にあると言って良かった。


 とうに限界を超えた動きを見せるシェキーナは、肩で息をして非常に苦しそうである。

 それでもその様な事はおくびにも出さず、ただ敵である幽鬼の聖騎士(ファントム・ロード)を睨みつけていた。

 そしてそんな横顔をエルナーシャは、レヴィアは、ジェルマは、シルカとメルカは、それぞれ違った感情を抱きつつ見ていた。

 エルナーシャに関しては、もう言うまでもない事であろう。

 ただシェキーナの身を案じ、彼女が抱えているであろう複数の問題に思惟を巡らせ、その美しい表情を曇らせていたのだった。


 レヴィアはそんなシェキーナの横顔を、どこか恐怖と共に見つめていた。

 元々シェキーナは、魔族の誰をも圧倒する力を持っていた。

 そんな彼女が、更に超常なる力を見せつけているのだ。

 味方であるならば、これほどに頼もしい力は他に存在しないだろう。

 恐るべき相手である幽鬼の聖騎士を相手にして、それを圧倒するだけの力なのだから当然であった。

 しかし彼女は、その様に手放しで喜ぶ事は出来ないでいた。

 強い力には、相応の代償が求められる。

 それはレヴィアがシェキーナの秘密を知っていなくとも、容易に辿り着く事の出来る……真理だ。

 そしてそれがどの様なものなのか知れない以上、何時それが自分達に牙をむく……とまではいかなくとも、巻き込むような現象を起こすのか分からないのだ。

 エルナーシャを守る身として、その様に未知の力に供えるのは彼女の義務であり、決して考えすぎだと言う事では無かった。


 ジェルマは、シェキーナに羨望の眼差しを送っていた。

 純粋な彼は、強さについても純粋な考えしか持ち合わせていない。

 憧れる程に強いシェキーナが、更に強さを手にしたのだ。

 その手法も気になる処ではあろうが、今の彼は純粋にその強さを見せつけるシェキーナに対して羨望の眼差しを送っていたのだった。


 そしてやや趣の異なる視線を向けているのが、レンブルム姉妹である。

 彼女たちの眼には、疑惑も羨望も不安も含まれていない。

 ただ半眼にされた目には、睨め上げるような……じっくりと観察するような光だけが湛えられている。

 シェキーナの動き……雰囲気……表情から、果ては髪の毛の流れまで、兎に角今の彼女を目に焼き付けようと、無言で見つめ続けていたのだった。


 ―――今で無ければ、その眼に留める事は叶わないからだ。


「……しっ!」


 それを証明するかのように、次の瞬間にはシェキーナの姿は彼女の一声だけを残して再び消え失せ。


 刹那の間には、またも幽鬼の聖騎士が居る場所で金属音が打ち鳴らされたのだった。

 それでも今度は、幾つもの剣戟音が響き渡ると言う事は無かった。


 シェキーナにとって厄介なのは、幽鬼の聖騎士が自らをも巻き込んで発動させる漆黒の光……もしくは濃紫の光であった。

 それは防御として優秀であり、その様に展開させられてしまってはシェキーナとしては防御に回るか後退するより手は無いのだ。

 攻撃に固執し迂闊に手を出そうものなら、自ら罠に手を突きこむ事と大差ないからである。

 だからシェキーナはこの攻撃でその根源を……断つ事にしたのだ。


 素早い振りから、シェキーナはファントム・ロードの向かって左手より剣を振るう。

 その動きに辛うじて付いて行けるだけの幽鬼の聖騎士は、何とか右手に持つ巨大な曲刀剣(ショテル)でシェキーナの攻撃を受け止めた。

 そしてシェキーナはすぐ様剣を引き、今度は逆方向……骸骨騎士の右手から痛烈な一撃を見舞ったのだ。

 動きで劣る幽鬼の聖騎士は、それでも何とか盾を持ち上げてその一撃をも防いで見せた。

 しかし今度は、それこそがシェキーナの誘導に他ならない。

 腕を持ち上げ防ぐ事で盾と体が離れ、二の腕部分の骨も身体から離れて攻撃をする隙間が浮かび上がる。

 盾に受け止められた剣を素早く退き戻し、シェキーナはその僅かな隙間に剣を潜り込ませて……ファントム・ロードの左腕を切断したのだった。


「ヴォオウッ!」


 痛みは感じていない……と思われるのだが、幽鬼の聖騎士はまるで怒った様に声を上げ、右手の剣をシェキーナへと振るうも、既にそこには彼女の姿は無かったのだった。


 これまでに幽鬼の聖騎士は「腐食の邪光」や「呪いの紫光」を発動する時に左手の指を使用していた。

 そう観察し終えていたシェキーナは、その攻撃を発動できるのは左手だけであると断じたのであった。

 そしてそれは……正鵠を射ていた事になる。


 シェキーナが退いたのはほんの一瞬。


「ああっ!」


 反動を利用して再び幽鬼の聖騎士へと肉薄し、彼女は恐るべき速度と力を以て剣を振るった。

 先程と同じ、シェキーナの左方向から右手へと横に薙ぐ一撃。

 それを幽鬼の聖騎士もまた、先程と同じ様に剣で受け止めようと試みたのだが。


 今度は、そう上手くはいかなかった。


 超速と剛力を加えられた「エルスの剣」の一撃は、幽鬼の聖騎士が持つ剣を粉砕し、そのまま胴体部へと食い込み、一瞬も詰る事無く一気に両断したのだった。


「ゴアアアァァッ!」


 正しくそれは、断末魔の叫びであった。

 上半身と下半身を分断された骸骨騎士は一声叫びを発したのち、両方ともその場へと倒れ込んで動かなくなったのだった。

 やや距離を取りその躯を見守るシェキーナの前で、それまで「幽鬼の聖騎士」を形成していた黒い靄が剥離を始め……地面へと吸い込まれてゆく。

 そして全ての(もや)が消え失せた後に残ったのは。


 ファントム・ロードがそうであったように、身体を二分されて横たわる……ラフィーネの姿であった。





 シェキーナと幽鬼の聖騎士との戦いが終了した事は、エルナーシャ達にも理解出来ていた。


 例え……その行程が見えなかったとしても。


 シェキーナが姿を現わし……エルナーシャ達にも見える様になり、その前面で上下半身に断絶された幽鬼の聖騎士の姿を見れば、その様な事は考えずとも分かる事であった。


「あれは―――……?」


「なんですやろか―――……?」


 そして彼女達の見る前で、幽鬼の聖騎士から黒い靄が発生する。

 黒い靄は立ち昇るどころか地面を這い、そのまま吸収される様に消え去って行った。

 それが「不浄穢の精霊(ヴェーレス)」がラフィーネの身体に纏わせて「幽鬼の聖騎士(ファントム・ロード)」を形作っていた靄であると、その時初めてエルナーシャ達も理解したのだ。


「……レヴィア、下ろして。それじゃあみんな、村の入り口まで戻りましょう」


 レヴィアの背中から地面に降り立ち、エルナーシャはその場の者達にそう提案を……いや、指示を出した。


「え……」


「もう少しこの場に―――」


「おったらあきまへんやろか―――?」


 レヴィアは即座に頭を下げて了承の意を示したのだが、ジェルマとシルカ、メルカは予想外……と言うよりも、やや不満である様であった。

 本当ならば最後まで……シェキーナのその後の行動と、そして彼女が自分達にどの様な事を話すのか……この場でなければ得られない言葉……シェキーナの“素の感情”等が込められた行動や話を、彼等は見聞きしたいと思っていたからだった。


「もう、この郷での戦闘は終わろうとしています。掃討作戦に切り替えるにも、その命令を与える者が居なければならないでしょ? だから……行くわよ」


 そんなジェルマ達の放縦(ほうじゅう)を、ささやかであったとしてもエルナーシャは認めず、やんわりとした口調でそう告げた。

 僅かながら残念そうな……不満そうな表情を浮かべた彼等であったが、主の言葉に従わないと言う選択肢など無い。

 エルナーシャ達はシェキーナとラフィーネ、この2人を残し郷の門がある方へと歩き出したのだった。


誰の目から見ても、戦いの趨勢は決した。

そしてエルナーシャは、正しく最期の刻を邪魔せぬ様に、一同にこの場を去る様命じたのだった。

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